かっぱらい少女とお尋ね者
さっさと逃亡中の異世界人が捕まるのを期待しつつ、あまり出歩いてトラブルになると困ると思ったので
今日も宿で細工物をちまちまとやっていた。
最近は銀細工に凝っていて、今も銀のインゴットから錬金術の形状変化で作り出した細い銀を編むように成形して小さなアクセサリーを作っている。
ふふふ、さすがにどんな細工技術を持っている人にもまねできないであろう加工方法だから、きっと素晴らしい値段……もとい評価をもらえるだろう。
しかし、折角完成目前なのに飾り用の宝石を切らしてしまっている。
ガラス玉でもそれなりの完成度にはなるんだろうけど、折角なのでこの一品にはとことんこだわりたい。
ということで、お財布を入れてあるポーチをひっつかんで鉱石を取り扱っている商会へ出かけてみよう。
カットまでされているものを買うと高いけれど、私なら自分でカットも研磨もできるから安くてにはいっていいよね。
……あ!!
そういえば今町は警戒態勢中だったんだ。
町のあちこちに衛兵さんが立ちながら、町行く人たちの顔を見ている。
どうやらまだ例の異世界人は見つかっていないようだ。
私は善良な一般冒険者ですよーとそそくさと脇を通り抜ける。
さすがに顔を完全に隠した私は怪しいのか、少し衛兵さんがこちらを気にしている様子だったけれど、
特に呼び止められることもなく通り過ぎることができた。
さすがに私と例の異世界人とは体格から違いすぎるんだろうしね。
噂で聞いた話だと、その彼は身長が結構高いらしいからね。
……ところで、衛兵さんの装備ってあんなに立派だったかな?
商店の並ぶ通りに差し掛かった時、一つの店の前を通りかかるとマリンさんとバスターさんが何やら買い物をしているのを見つけた。
「あれ?マリンさんとバスターさん。こんにちは」
「おお?シラユキじゃないか。久しぶりだな。」
「バスターさんとはしばらくあってませんでしたね。」
話を聞くと、マリンさんがバスターさんに買っておいた方がいいものを聞いているところだった。
こないだ折角アイテムポーチ買えたらしいしね。折角なら有効活用したいんだろう。
「ジャステア君は今日は一緒じゃないんですね。」
「あいつは今、俺のパーティーメンバーについていって依頼をこなしているところだ。」
「あ、ちょっとバスターさん。」
マリンさんが慌ててバスターさんを遮る。
メンバー入りのことはまだ秘密のつもりらしいから、うかつにバスターさんに喋られたくないみたいだね。
何も気が付いていないふりをしておこう。
「シラユキちゃんはお買い物?」
「はい、ちょっと細工物の材料を買おうかと。」
ポケットに移しておいたお財布を取り出す。
何故かこっちで見つけたかわいらしいガマグチ財布だ。
お札が存在しないので意外とこれだけで大丈夫だったりする。
「あ、それ使ってるんだね。」
マリンさんが同じデザインの物を取り出した。
いつだったかジャステア君の買い物を待っている間に二人でおそろいで買っていたのだ。
……もう完全にマリンさんには性別ばれてそうなんだけどなぁ。
でもあっちが確認してこないから、なあなあで明かしていないんだよね。
さすがに親しい彼女たちには教えてもいいかもとは思うんだけれど。
おそろいのガマグチを出してきゃっきゃ言っているマリンさんと私に、バスターさんが苦い顔をして忠告する。
「おい、こんなところで財布を見せるんじゃない。どうもここ数日治安が乱れてるらしいから、この辺も安全とは言えないぞ。」
「そうなんですか?しばらく引きこもってたので気が付きませんでした。」
「警備の人員が変わっているのには気が付いてるか?」
「ああ、なんだか人数が増えていましたね。」
「どうも噂の異世界人を捕まえるために罠を張っているらしい。」
罠とな?
「あからさまに地区によって警備に差をつけてるんだとさ。それで警備を薄くしているところに誘い込んで捕まえるつもりらしい。」
「それで、このあたりは薄いってことですか?」
「いいや、このあたりはあまり変わってはいないんだがな。それでも濃い場所があるからそこから逃げてきてるごろつきがいるらしいんだ。」
迷惑な話だね。
どうも警備隊の人たちは、例の異世界人を貧困街で捕まえたいらしい。
まあ上流の人が住んでいるところで激しい捕り物をするわけにはいかないんだろう。
「ごろつきの縄張りがまぜっかえされて、はじき出された奴らがこのあたりでも出てきてるらしいな。」
だから気を付けろ、と忠告してくれているバスターさんの話を聞いていると、どうも見られている気がした。
もしかして、すでに目をつけられた?いやいや、さすがにそうそう厄介ごとに巻き込まれたりなんて……
なんて考えていると、こちらをうかがってきていた気配が人ごみに紛れて接近してきた。
人ごみの中で、気配が読みづらい中、私は気配の方向を睨み付ける。
それに気が付いたバスターさんも、さすがの対処の速さで同じ方向を警戒する。
「え?どうしたの二人とも。」
「マリン。俺の後ろに……」
バスターさんが言い終わる前に、人ごみの中から何者かが素早く駆けだしてきた。
直前まで人ごみの中に紛れていたため、正確な位置がわからなかった私は反応が遅れてしまった。
そしてその人影は私とバスターさんのことを無視して、いまだによく状況を理解していないマリンさんに飛びつくように襲い掛かった。
「え!?きゃぁぁ!!」
マリンさんに飛びついた人影は、マリンさんの腕に飛びついて、持っていた財布をむしり取るように奪っていった。
「え?ああ!!私の財布が!!」
そこでやっと反応できたバスターさんが人影を追いかける。
人影は狭い路地へと逃げ込んでいった。
さすがの速さで追いすがるバスターさんだったが、捕まえられる、と思った直前に人影が何かを持ち上げて引っ張った。
すると、バスターさんの足元の土の中から埋め込まれていたロープが勢いよくピンと張られ、バスターさんは足を取られてコケてしまった。
「なぁ!?こんなところにトラップだと!?」
しかもいやらしいことにロープはバスターさんの足へ絡みつくように引っかかり、なかなか外れにくくなっていた。
そしてそこに人影が戻ってくる。
その姿は……
「ああ?子供?」
多分今の私と外見的にほとんど変わらない年頃の女の子でした。
少し褐色の肌に、どこかたてがみを連想させる赤い髪の毛を後ろで無造作に一つにくくっている少女は、
みすぼらしい服をまとってバスターさんを見下ろしていた。
「くっ、孤児か?……っておい!!」
そのまま何も言わずにバスターさんのポーチをあさり始める。
素早く財布をすり取って離れたところで、ふと上を見上げて私と目が合うと、ギョッとした表情になった。
「……っ!!!」
上空から少女にとびかかった私を、少女は間一髪よける。
ああ、折角最初に意識から外れるように動いてたのに。勘のいい子だな。
すかさず逃げ出した少女を追いかける。
少女は路地裏をなかなかのスピードでそのあたりの物をなぎ倒しながら逃げていく。
足止め目的だろうけど、私には通用しない。
私は壁を蹴って路地裏の空中を駆けて追いかける。
「なっ!?」
少女が後ろを振り向いて驚きの声を上げた。
そして狭い路地は不利と判断したのか大通りへ飛び出した。
私もそれを追って路地を出る。
大通りには予想以上に人がいた。
少女はその人の中をかき分けながら逃げていくが、私はすでに建物の上に登り少女の行方を追っていた。
すると少女を見た周りの人たちが少女に反応しだす。
「あ!てめぇは!!」
「昨日のスリだ!!」
「俺の財布返しやがれ!!」
どうも彼女は派手に動き回っていたようで、あっという間に彼女の被害者らしき住人たちが数人彼女を追いかけ始めた。
どんだけ盗みまくったんだよ。
「し、しまった。 ひぃーー!!」
妙に情けない声を上げながら少女は逃げていく。
追いかけている人のうちの誰かが仲間を呼んだのか、追っている人がどんどん増えて行って、屋根の上から見ているとなかなかの人数が一斉に少女を追っている。
大事になってしまって逆に私が手を出しづらいことになってしまった。
少女はスラム街に逃げ込んだが、被害者たちはあきらめずに彼女を追い続け、ついにスラムの中のぽっかりと空いたスペースに出た時に、取り囲むことに成功した。
「うう……ここまでなの?」
少女はおびえた様子で自分を囲む人を見回す。
「てめぇ!!手間かけさせやがって。」
「ついに追い詰めたぜ。観念しな。」
「おとなしく金を出せば(返せば)手荒なことはしねぇぜ。」
追い詰めたテンションで口々に彼女を攻め立てる被害者たち。
あなたたち、気持ちはわかるけどまるで少女を襲っている悪漢みたいになってますよ。
じりじりと少女に迫る被害者の方々。
ついに少女が捕まるかと思ったその時。
「そこまでだ!!この悪党ども。」
スラムの一角から、顔に布を巻いて人相を隠した男が現れ、人ごみを飛び越えて少女の前に降り立ち、立ちはだかった。
「くく、城を逃げ出す羽目になった時はどうなるかと思ったが、なるほどこうやってヒロインに出会うためのイベントがあったというわけか。」
……イベント?
現れてそうそう妙なことを言い出す男は、あっけにとられている周りを差し置いて勝手に盛り上がり始めた。
「盗賊どもに襲われる少女を助けるなんてべたなイベントだが、さすが異世界。わかっていると言わざるを得ない。」
異世界?あ、まさかこの人。
「な、なんだよてめぇは。」
「関係ないやつは出てくんじゃねえよ!!」
「引っ込んでやがれ。」
被害者たちが彼の勘違いを加速させる。
あなたたち少し落ち着いてください。
「少女を追い詰め金品を奪おうとする盗賊ども!!貴様らの相手はこの異世界の勇者。」
別に聞かれてもいないのに顔の布を取って自己紹介を始める少年。
「カケル ダイモンが承ろう!!」
妙にひょろりと背が高い、どこか陰気な雰囲気を帯びた少年が、囲まれた中で妙なポーズを決めていたのだった。
やっぱりこの人が例のお尋ね者だったみたい。




