魔法あれこれ
ヒュカカカカ!!
私の持っているクロスボウから絶え間なく短い矢が打ち出される。
今、私はジャステア君にも作ったクロスボウを少し離れたところに設置している的に向かって打ち出している。
マジックバック系列のマガジンを作ったおかげで、矢をつがえなくてもいくらでも打ち出せる自信作だ。
マジックバックは、専用化と呼ばれる処理をお店でしてもらうことで、指定したもの以外を入れられなくなる代わりに、それだけなら大量に収納できるバックが作れる。
例えば、私の使っている水袋にこの処理をしてて、同じ量が入るマジックバックよりもかなり安く買うことができた。
この処理をクロスボウのマガジンにも施すことで、大量の矢を吐き出せるすごい武器を作ることができたのだ!!
「でも制度がかなり悪いみたいだね。改良しないとダメかな?」
私から数歩しか離れていない的を狙ったにもかかわらず、大量に打ち出された矢はほとんどが外れて的の後ろへ飛んで行った。
「いやいや、シラユキ。」
さっきまで後ろで見ていたジャステア君が、私の手からクロスボウを取り上げる。
そしてそのまま的に狙いを定め。
ズカカカカカカ!!
的はあっという間にハリネズミになった。
「単に君の腕が壊滅的に悪いだけだぞ。」
「うな!?」
そんなバカな。
もう一度ジャステア君からクロスボウを受け取り、的へ打ち出す。
ヒュカカカカ!!
「……」
「……」
「いや、この距離で外すのは相当下手だと思うぞ。」
おっかしいな。どれだけ下手だとはいえ、これだけ練習して上達しないっていうのはありえないはず。
なぜなら私には神様に与えられた加護があったはずだから。
……前からうすうす感じていたけれど、これはもう間違いないかな?
私の加護が失われている。
多分、結構前にはもう失われていたのかもしれない。
新しいことに挑戦することがここ最近なかったから気が付かなかっただけで。
原因は、たぶん女神様の庇護下から長いこと外れていたから……だよね?
「シラユキにも苦手なことがあったんだな。投げナイフとか、爆弾投げとか得意だから、射撃が苦手なのはかなり意外だったけどな。」
「多分それも原因だと思うよ。無意識かもしれないけど。打ち出す瞬間に手首が動いちゃってる。
投げる時の癖が思わず出てるから標準が合わないんじゃない?」
さらに私たちの様子を後ろから見ていたマリンさんがこちらに寄ってきた。
結局、私はまだこの国を出られないでいる。
ランクアップに必要な経験を積めてはいるけれど、冒険者をやっている期間の短さなどが原因で、もう少しランクアップはお預けらしい。
そうなってくると、ランクアップが目的の私とジャステア君は依頼を受ける必要が無くなる。
私の場合、Eランクの依頼を受けるよりも、細工物を作って売っていた方が儲かる。ジャステア君は言わずもがな。
でも、マリンさんはそうはいかない。
彼女は宿代を稼がなければならないけれど、Eランクの依頼を普通に受けるだけだとあまり儲からない。
しかも彼女は魔術師なので、だれかと組まないとろくに国外に出る依頼が受けられない。
国内でも、魔術師ならではの仕事はいくつかあるけれど、ランクの低い彼女では、なかなか雇ってもらえないらしい。
結果、儲ける必要のない私たちが彼女に付き合っている。
まあ、怠けるよりいいよね。
「折角の武器なのに、使えないのはもったいないな。」
「ちょっとづつ練習します……ところで、マリンさん。」
「うん?どうしたの。」
「私も魔法とかって使えたりするんでしょうか。」
そう、魔法。
ファンタジーの定番だし、前々から気にはなっていたんだよね。
「もしかして、魔法に興味あるの?
シラユキちゃんって、魔法なんか使わなくても戦えるって思ってるんだとばかり。」
「これまで触れる機会がなかっただけで、実は使ってみたいって思ってたんですよ。」
精霊魔法は使えるけれど、あれはなかなか不便なんだよね。
いつでも使える魔法って、やっぱりあこがれる。
「うーん、魔法に興味持ってくれるのはうれしいんだけど……私じゃ教えられないかも」
「ええ!?何でですか?」
「前にも少し話したと思うけど、私の一族って、魔力が多いだけで魔法は得意じゃないんだよね。」
マリンさんは腰に下げてる本をなでる。
「これがあるから使えてるだけで、正当な魔法使いとしては全然。」
そういえばそんなことを言っていたような気がします。
「でも、基本的な流れならわかるよ。教えてあげよっか。」
「お、お願いします。」
まずは、専用の施設で自分の適性を見てもらう。
もしも適性がないとこの時点でダメ、大体6割くらいの人に適性があるらしい。
適性があるのなら、魔術師に弟子入りして魔力を感じるのに1年、操れるようになるまで2、3年
魔力を変化させて、魔法として打ち出せるようになるまでに、また数年かかるらしい。
個人差はあるけれど、大体の流れはこんな感じらしい。
(そ、そんなに時間がかかるなんて……)
私はすでに一年を記憶をなくして過ごしている。
きっと私のことを探している姉たちのことを考えると、魔法のためとはいえ、これ以上のんびりしていられない。
もしも私の加護がまだ有効なら、ひょっとしてこれまでのようにあっという間に習得できたかもしれないけれど……
そもそも私に適性があるかどうかもわからない。
「適性を調べる施設ってどこなんですか?」
「基本的には教会で見てもらえるけど、結構高い料金取られるよ。
あ、でも聖女協会なら無料で見てもらえるらしいってきいたことあるよ。」
「あそこで見るのはおすすめしないな。」
マリンさんの説明に、急にジャステア君が割り込んできた。
「何でですか?」
「あの聖女協会って組織は信用できない。どうも無料で適性を見て、聖魔法の適性があったら無理やり引き込んでくるって噂だ。
実際、無料につられてみんながあそこに行くようになってから、ほかの教会で聖魔法の使い手が眼に見えて減っている。」
どうやら、その方法で回復魔法の使い手を独占しているらしい。
もしも協会で適性を見てもらって、万が一聖属性の適性があったら無理やり協会に所属させられてしまうかもしれないそうだ。
「うう、どちらにせよ、今は覚えている時間がなさそうです。」
魔法はしばらくお預けかもしれません。
「魔法で水を出せるようになったら、飲み水には困らなくなると思ったんですけどね。」
私が未練がましく言っていると、マリンさんが苦笑しながらおしえてくれる。
「だめだよ、まほうで作り出した水は飲んじゃいけないんだよ。」
「え、何でですか?」
「魔法で出した水は、魔力を水のように変化させているものだから、魔法が切れるとただの魔力に戻っちゃうんだよ。」
折角だからと魔法の仕組みについても教えてもらう。
この世界にあるものには、生き物だけでなく、ありとあらゆるものに魔力が宿っている。
その辺の石ころにだって宿っているらしい。
逆に言うと、魔力が宿っていないものは存在できない。
今私たちが存在している空間に重なり合うようにして、魔力で構成されたもう一つの世界がある。
魔術師たちは、この世界をマナ世界と呼んでいる。
今いる世界の私たちの鏡写しのような存在がマナ世界に存在し、お互いに干渉しあっているらしい。
どちらかがけがをすればもう片方も傷つく。
魔術師たちが扱う魔力は、重なり合うもう一つの存在からにじみ出るようにこちらの世界に現れる。
このにじみ出る量が、魔力が多いか少ないかに影響する。
魔法で使う魔力は、あくまでにじみ出てきただけのあまりの魔力。
それを相手に勢いよくぶつけることで、相手の魔力を押しのけることで相手にダメージを与えるのが攻撃魔法らしい。
ただぶつけるだけだとあまり威力はないけれど、火や水の持つ力を魔力に真似させることで、相手の魔力に効率よく干渉できるそうだ。
火をまねた魔力で相手の魔力に燃え広がり、水をまねた魔力で相手の魔力を流し、固い土をまねた魔力で相手の魔力を跳ね飛ばす。
つまり魔法で出す水は本物ではないのだ。
にじみ出る魔力の量がゲームで言うマジックポイントだとすると、
体内にある魔力の質量の大きさが魔法防御力。
正確に言えば体内ではなくマナ世界の体だけれど。
体内の魔力が濃いほど、相手の魔力をぶつけられたときに受ける影響が小さくて済む。
とはいえ、基本的に体内の魔力が濃いほどにじみ出る魔力も多くなる傾向がある。
「というわけで、まほうで出した水は飲んではいけないのです。」
少しお姉さんぶった言い方でまとめたマリンさん。
少し得意げだった。
でもなるほど、どうして同じようなことができる精霊魔法が、魔法とは別物として扱われているのかがよくわかった。
精霊魔法はあくまで実際にあるものへの干渉が主だけれど、魔法はマナ世界での魔力のぶつけ合いなんだね。
実際、精霊魔法で作り出す水は飲んでも問題ないんだから。




