一方そのころほかの人たち1
今回から数話閑話に入ります
とある貴族の屋敷。
その部屋は悪趣味なインテリアがごてごてと規則性もなく飾られ、雑多な印象を与えていた。
部屋の持ち主の趣味なのか金ぴかの装飾で彩られたような家具や飾りが数多くあり、お世辞にも調和がとれているとは思えずこの部屋の持ち主の趣味の悪さを表しているかのようだった。
その部屋の趣味の悪い大テーブルをはさんで二人の男が向かい合って商談に励んでいた。
片方はこの部屋の持ち主で、豚のように肥え太った男。
体中に宝石をあしらった装飾をこれでもかとつけており、指輪に至っては大きすぎて手のひらを上に向けたポーズをしておかないと落としてしまいそうになる始末。
逆に言うとそんなポーズをずっとしていても不便がないほどの経済力を持っている男のようだ。
片や彼に商売をしている男。こちらも異様な姿をしていた。
燕尾服のような形のスリムな服を着こなしているのだが、配色のセンスが異常で原色のみで彩られた目がおかしくなりそうな服になっている。しかも顔にも化粧をしているのか、目には隈取の模様のようなラインが入っていたり、不自然なほど赤い唇をしているようだった。
多分お互いに趣味の悪い男だとか思ってそうだ。
どうやら商売人の男の方が商品を仕入れられたようで一つの小瓶をテーブルの上に出した。
「こちらぁがご要望の薬となっております。」
それを聞いた豚男が気味の悪い顔をさらにゆがませ笑う。
「効果は確かなんだろうな。(ゴフー)高い金を払うことになるんだ、(フガッ)効果がないなんてなったら許さないぞ(ブフー)」
太りすぎの影響か、いちいち鼻息がうっとおしいと思いながら、商人は薬の説明を始めた。
「わたくしぃは商売に関しては一切妥協はしませんとも。それを一嗅ぎさぁせれば、どんな女も快楽の虜になること間ぁ違いなし!!効果の方は保証しますよ。」
豚男は懐から鑑定レンズを取り出して薬瓶を眺める。
「……なるほど。間違いないようだな。(フガッ)しかしこの薬には失われた錬金術の技術が使われているなどと鑑定結果に出ているな。(ゴフゥ)
これで見ている以上詐欺師のあれではないようだが。そんな技術を持ったものが本当にいたのか?」
「ええ、最近わぁれわれの仲間にそう言った技術を持ったものが入りましてね。何かとぅ便利な奴ですよ。」
「ふむ、確か貴様らは≪ブラックファミリー≫とか名乗っているのだったかな。(ブヒィ)」
「……まあ、名前はどうでもいいじゃあないですか。」
正直商売人の男はこのだっさい名前を名乗るのが嫌だと思っていた。
「そぉれで、これで契約完了ということでよぉろしいですか?」
商売人の男は懐から巻かれた契約書を取り出して広げた。
その契約書には豚男シュバオークが望むものを手に入れる代わりに対価を払うといった内容が書かれていた。
その取引自体はありきたりなものだったが、報酬の額が桁違いだった。それだけシュバオークの望んだものが入手困難なものだったのだ。
「ふうむ。(ブバッ)」
シュバオークはその契約書を眺めた後、そこに書かれている金額に眉をしかめた。
「思ったのだがやはりこの値段は暴利過ぎやしないかね。(プホゥ)」
「いえいえ全く適正価格でぇございますよ貴族様ぁ
そぉれにたとえ高いと思ったとしても、一度この契約書にサインした以上きちんとお支払いしていただかなぁいと」
「実はこの薬を使ってやりたい娘がいたのだがな。(ゲフゥ)手を尽くして探させているのだがなかなか見つからないのだよ。(コポォ)」
いい加減シュバオークのげっぷなのか何なのかわからない音を聞くのが嫌になってきたが、商売人は取引を円滑に進めるために笑顔を絶やさない。
「そうは言われまぁしても、こちらはきちんと契約通りに薬を用意したのでぇすから報酬の方はきちんとでぇすね」
「それにな」
商売人の言葉を遮ってシュバオークはウインナーのような指を立てて言う。
「この領地では契約書の形式はきちんと決まっていてな。(コポォ)その形式に沿わない契約書は無効なのだよ。」
シュバオークは契約書を破り捨てた。
「……そぉれはこの契約を不履行とする。ということでしょぉうか?」
商売人から笑顔が消える。
「無効な契約書なのだから仕方がないな。(ブゥー)しかしこの薬は私への献上品として受け取ってやろう。」
シュバオークが手をパンパンと(たぷんたぷんと)たたくと。部屋の中に武器を持った男たちが入ってきた。
「お客が帰るそうだ。外までお連れしろ。(フゴォ)」
その声とともに男たちがこれ見よがしに武器を見せつける。
そのまま商売人を外につまみ出そうと手を伸ばしたのだが。
「ンフフフフぅ」
商売人の男は気味の悪い笑いを始めた。
その妙な迫力に思わず囲んでいた男たちが手を止める。
「何がおかしいのかね(ボッフォ)」
してやった気分だったシュバオークはその様子に嫌な予感がした。
「一方的な契約不履行をかぁくにんしました。よって 異能 ≪悪魔の契約書≫の効果を発動しまぁす。」
瞬間 部屋の中の空気が変わった。
まるで部屋の中がほの暗い水底に沈み込んだような錯覚まで感じる。
突然のことにシュバオークは困惑した。
さらに商売人を囲んでいた男たちの姿が消えうせる。
「なあ!?あいつらはどこへ行ったのだ!!」
「あの方たぁちは契約に関係ないので一時的に退室していただぁきました。」
商売人の手には先ほどシュバオークが破り捨てたはずの契約書がもとの状態で収まっていた。
「わぁたしの異能≪悪魔の契約書≫は、かわされた契約が達成されなかった場合その原因を持つ方へペナルティーが科せらぁれるのです。」
契約書の表面が不意に黒く染まる。
「ペナルティーの内容は≪そのもののすべてを相手に捧げなければならない≫でぇす。
全く、どうやって契約を破らせるか考えていたのでぇすが、まさか最初の契約でそちらから破ってもらえるとは思いもしませんでぇしたよ」
黒く染まった契約書から染み出すように明らかに人の物ではない腕が生えて出てくる。
そしてその腕は突然自分を襲う不可思議に対応できていないシュバオークへと伸びていく。
「異能だと!?ふざけるな!私を誰だと思ってい……グフ!!」
そしてその腕でシュバオークをつかみあげる。
まがまがしい見た目の腕は、見た目以上の怪力でシュバオークを釣り上げた。
そして、その腕につかまれた箇所からシュバオークの肌に黒い線が侵食していく。
「がああああああ!!」
「わかっていまぁすとも。この町の有力貴族の一人でしょおう?
だからこそあなたを≪人形≫にする価値があると言うもぉのなのですよ。」
シュバオークに侵食する黒い筋は、彼の自我を侵食していく。
(そ、う。わ・た・し・は、この……かたの。 し も べ)
部屋の中は最初と変わらない状態に戻っていた。
ただし、テーブルをはさんで座っている男たちの力関係は完全に変わってしまっている。
「今からここぅを≪ブラックファミリー≫のフェリウスでの拠点としまぁす。」
「はい、ご主人様のおおせのままに。」
シュバオークはまるで人形のような光のない目で返事をした。
『おわったか?カワタ』
急に扉が開いたと思うと、包帯で体中をぐるぐる巻きにした奇妙な男があらわれた。
その男は包帯越しでも異様に体のシルエットが不格好なのが分かるほど妙な体つきをしていた。
「ああ、こぉれでこの国でも活動がやりやすくなったねぇ。新入り君のぉ作ってくれた薬のおかげさ。」
『役に立てたようで何よりだな。』
「しっかしぃ、この男なかなか裏であくどいことを繰り返していたよぉうだねぇ」
『はん、そんなのはこの豚を見ただけでわかるだろう。俺の薬もどうせ無理やりにさらってきた女にでも使うつもりだったんだろうさ。』
「この豚貴族の記憶も私の物になったのだけれぇど、どうやら街中で見かけただけの……まだ子供相手に欲情していたらしいねぇ
そういうことなぁら、私がやったのは人助けなのかぁな?」
『ふん、今からすることを考えたらその女一人助けたことに意味があるのかねぇ』
「あちらの進み具合はどんな感じなんだぁい?」
『あのスライムを混ぜたりこねたりしてるやつか?それとも神から召喚者を横取りしているやつかい?』
「横取りの方はぁ何年もかけてためた魔力をもってしても失敗したらしいから、あきらめているようだけれどぉね。いまだに向こうの一部のやつらは落とした異世界人を必死に探しているらしいねぇ。」
『じゃあスライムのほうか、あっちもムクロが最終段階に入ったとか言っていたぞ。』
「そのあたりの研究も、新入り君が入ってから一気にすすんだよだからぁね」
『俺はうまくいくとは思えないんだがなぁ。
しかし一年近くたつのだから、そろそろ俺を新入りと呼ぶのはよしてくれよ。』
奇妙な男は体をかくかく動かして笑う。そのたびに体中から石でもぶつけ合ったかのようなごつごつとした音がきこえた。
「いいかげん、そぉの体も不便そうだぁね。約束通りムクロさんに体を作ってもらえるように頼んであぁげるよ。」
『助かる。俺もいつまでも石でできた体だと不便で仕方ねぇ』
「ふふふぅ。きぃみのことを認めたってことさ。」
仕事がうまくいったからか、カワタと呼ばれた男は機嫌よく笑う。
「楽しみにぃしてるがいいさ、われらが≪錬金術師≫ロンド。」




