ゴブリン討伐
背の高い草むらからそっと様子を伺います。
今隠れている草むらのすぐ近くで、ゴブリンが三匹座り込んで休んでいます。
今私たち研修パーティーは初めての討伐依頼のために国外に出て、高原に来ています。
私が狩人の経験もあって斥候向きなので、索敵を任されてここにいます。
最初はマリンさんが魔法で索敵できるといっていたのでそちらに任せようと思っていましたが、
せいぜい二百メートルほどの距離しかわからないとか言っていたので私が出ました。
バスターさんは
「いやそんだけあれば十分だろ」
なんて言ってましたが、私の耳なら一キロメートルは索敵範囲なのにというと少し絶句してから私を指名しました。
割と地面が隆起しているうえに背の高い草がおおく、でも木は少ないというこの環境では、索敵が出来ないと
なかなか目標を見つけることは難しいでしょう。
「音だけでどうやって敵を探すんだ?相手だって気配くらい消すことだってあるだろう。」
ジャステア君が質問してきます。なんとなく私の索敵に不信感を持っていそうです。
「相手の出す音もそうだけど、逆に不自然に静かなところにも気を配るんだよ。
何か危険なのがいたら、その周りにいる小さな気配も隠れるから逆に目立つんだよね。」
騒がしいのがいたら警戒心を持っていない何かで、不自然に静かだと、そのあたりで何かが警戒しているということ。
「なんにせよ、僕には音をそこまで聞き分けることはできないな。」
ジャステア君が少し悔しそうに言いました。
ちなみにゴブリンも魔獣の一種だそうです。
ほとんど名前から想像できるゴブリン像と一致した見た目をしています。
緑の体に腰布一枚。武器はこん棒やさびた剣。たまに石槍など。
稀に賢い個体もいて、人と交流を持ったりすることもあるそうですが、基本的には本能に忠実で人を襲ったりする害獣です。
この高原にはちょくちょく住み着くらしく、定期的に駆除しないとなかなか減らないそうです。
ゴブリンたちの気配を見つけた私が先行して偵察にでて、岩陰で休憩しているらしいゴブたちを見つけました。
先行していた私に、ほかのメンバーが追いついてきます。
打ち合わせ道理に各々隠れながら配置に着いたので、先制攻撃をしかけます。
山なりに拾っておいた石をゴブリンの向こう側へ投げつけます。
音に反応して私とは反対方向をゴブリンが向いた瞬間、ナイフを二本両手で投げると同時に腰のホルダーから剣鉈のようなナイフを抜いて草むらから飛び出しました。
グギィ!
ゴヒュ!
先に投げていたナイフが左右のゴブリンの後頭部に突き立ち、二匹は膝から崩れ落ちます。
いきなり両隣のゴブリンが倒れたことに混乱したゴブリンはおろおろするばかりで周りに気を遣う余裕すらない様子です。
そのまま真後ろまで走っていった私が横へ振りぬくようにナイフで首筋を切りつけて終わりです。
最後のゴブリンが倒れたのを確認して、三匹をきちんと殺せているか確認していると、援護のために隠れていた三人が隠れていた草むらから出てきました。
「想像以上に手際がいいな。まさか三匹を一瞬で仕留められるとは。さすが狩人ってとこか。」
「ふふーんよゆうだ(ブン!!)あぶなあぁ!!」
気分が高まっていたので思わず素で返したらこぶしが降ってきました。
マジこの人狂暴です。理不尽さまで感じます。
本来私が不意打ちを浴びせてすぐに隠れ、混乱しているところを残りの三人が襲撃して仕留める作戦でしたが、三匹くらいなら不意打ちで十分仕留めきれました。
「これだと僕の剣の試し切りが出来ないじゃないか。」
ジャステア君が不満げに買ったばかりの剣をぶんぶん振り回しています。
「そうはいってもジャステアは魔獣との実戦経験はないんだろ?」
この中で実際に魔獣とやりあったことのあるのは、バスターさんと私だけでした。
国の結界からでない限りは、間違いなく安全が保障されているので好き好んで挑まない限り魔獣と戦う機会はありません。
「さっき見ていたが、所詮ゴブリン程度。わが家の剣の指南役との訓練と比べても、話にならないくらい弱いじゃないか。シラユキくらいの子供に瞬殺されるくらいの。」
私は最大限の警戒をもって挑んだつもりでしたが……
「そもそもこちらが先に相手に気付けたからこその余裕なんだがな。まあいいだろう。次はシラユキ、お前は危険だと思うまで手を出すな。」
次はジャステア君とマリンさんが戦闘を試してみるそうです。
私は索敵で見つけたゴブリンの方へ誘導だけします。
数は先ほどより一匹多い四匹。
狩りをしていたらしく、仕留めた鹿に夢中になっています。
「よぉし。行くぞマリン。」
「え?うん。あ 待って先に魔法で奇襲を……」
マリンさんが言う前にジャステア君が飛び出します。
あーあ、折角奇襲できるんだから最初にできるだけ同時に攻撃を仕掛けた方がいいのに。
「うぉっらぁ!!」
飛び出した勢いをそのまま載せた一撃は、手前にいたゴブリンを一匹吹き飛ばしました。
明らかに剣で攻撃しただけにしては大きな威力になっています。あれが魔剣の効果でしょうか。
出遅れた形になったマリンさんが慌てて魔法で援護します。
本を開いて構えると、本のページが光って魔法陣が浮かび上がり、鋭い氷の柱が現れました。
「いくよ!!≪アイスランス≫」
氷の槍は勢いよくゴブリンに突き刺さり、そのまま後ろの岩場に縫い付けました。
そういえばちゃんとした魔法を見るのはこれがはじめてなような気がします。
「次!!ってジャステア君邪魔だなあ……」
初めての戦闘でハイになっているのか、ジャステア君は剣を振り回しながら残りのゴブリンを追い回しています。
「ハハハ!!やっぱりゴブリン程度、僕には何の問題にもならないさ!!」
調子に乗っていますが、そろそろゴブリンも立て直すころだと思います。
ゴブリンのうちの一匹が逃げながらもこん棒を拾い上げ、ジャステア君の振り下した剣を横から殴って軌道をそらし、体が泳いだところを蹴り飛ばしました。
体が小さいのにパワーは結構ありそうですね。
ジャステア君はたたらを踏んでいますが、ダメージは特になさそうです。防具のおかげでしょうか。
もう一方のゴブリンもその隙に体制を立て直しました。
ジャステア君はすぐに立て直して構えを取り直します。
「ふう。少し油断していたようだ。ここからは私の剣技で仕留めてやろう。」
油断て。
そこからはジャステア君は剣技でゴブリンたちと撃ち合いますが、なんというかジャステア君の剣はきれいすぎる印象があります。
ゴブリンの方は荒々しいものの、使えるものは何でも使うという合理的な動きでジャステア君を攻め立てます。
ジャステア君が剣を振り上げたと思ったらすぐさま体当たりに行き、下がろうとしたらさらに距離を詰め、
剣をよけてはそれを踏みつけたりして動きを封じようとします。
けしてうまい戦い方ではないですが、必死な分厄介な相手だと思います。
「最初にゴブリンを吹き飛ばした技は使わないの……でしょうか?」
「あれにはクールタイムがあるんだよ。それなのに最初の奇襲なんぞに使っちまいやがって。」
おそらくジャステア君の使う剣技は対人用の剣でしょう。
魔獣を倒すことが目的の冒険者の戦い方とはずれています。
かなり苦戦しているようですが、防具が優秀なために危険はないでしょう。
マリンさんの方はめまぐるしく入れ替わる戦闘に割り込むことが出来なくておろおろしっぱなしです。
先に使えそうな魔法を聞いておいた限りでは、こんな状況でも手助けぐらいできそうな魔法もありましたけど、
どうも攻撃魔法を充てることに意識が集中しすぎて、ほかの魔法のことはすっかり抜け落ちているようです。
それなりの時間をかけて、ようやくジャステア君の剣がゴブリンをとらえました。
そのまま一匹をふきとばして気が緩んだのか、ふと気が抜けた瞬間、もう一方のゴブリンが三角跳びの要領で岩から飛び、ジャステア君の顔を狙って剣を突き入れようとします。
「なっ!!」
あれは防げそうにないな。
今まさにジャステア君に剣の先が届くかといったその瞬間、ゴブリンの側頭部に投げナイフが突き刺さります。
同時に私たちも隠れていた場所から出ていきました。
「最後の奴はシラユキがいなけりゃ大怪我してたかもな。それに」
バスターさんがジャステア君に吹き飛ばされたゴブリンに近づき、頭をこん棒でたたきつぶしました。
「こっちもまだ生きてる。倒せたと思って油断してたが、不意打ちを食らうところだぞ。」
「ぐっ!!」
ジャステア君が悔しそうに呻きます。雑魚だと思っていたゴブリンに苦戦したことが心外だとでも言いたそうですね。
「さらに、最初に吹き飛ばしたゴブリンは討伐証明部位の耳まで吹き飛んじまってるぞ。」
あらら、もったいない。最初のゴブリンは上半身が吹き飛んでしまっていました。
「さらにマリンの射線を遮ってしまっていたから、折角の魔法使いの援護を無駄にしてしまっていたな。
そのマリンだって、直接魔法を当てようとする以外にもやりようはあったはずだ。」
二人が揃ってうなだれます。
でも最初の戦闘なんてこんなものだと思いますがね。
バスターさんだってそれはわかっているのでしょうが、あえて厳しいことを言っているようです。
「さて、実践がどんなものかわかったところで、改めて戦闘訓練をしようか。」
次は私たち同士でアドバイスしながら訓練です。




