幽霊さんの遺産
「お届け物です。」
「あらあら、かわいらしい猫さんが届けてくれたわ。ありがとう」
私は依頼主からの荷物を受取人に預ける。
お礼を言われて依頼完了報告書にサインをもらった。
私はあれから毎日お面を変えつつ過ごしている。
今日はお気に入りの猫お面だ。
私は数日前から冒険者としてギルドで依頼を受けている。
現在のランクは最低のFランクだ。
登録の時にもらった冊子によれば、
ランクはA~Fまであり、例外として特殊な技能を持っていたり、飛びぬけた実力を持っているものに
スペシャルランクとしてSランクというランクも存在する。
この場合、ランク表記はSAや、SBといったように表示されるらしい。
私の今のランクのFランクは、お試し期間とも呼ばれていて、子供や老人だろうが誰でもなれるランクだ。
このランクは、国内でのお使いや、簡単な採取依頼。常駐依頼などを限定的に受けられる。
戦闘が出来ない人間でもできるような仕事が主で、子供が小遣い稼ぎをするために登録していることも多い。
ここからのランクアップは、いくつかの依頼をこなすか、ギルドの指定した教官役の冒険者から指導をしてもらった後に希望者がランクアップできる。
そうやってEランクになって初めて駆けだし冒険者となり、Dランクで国境を越えるための許可がもらえるため、とりあえずはランクアップするために依頼を受けていた。
私のお気に入りは国内の配達依頼だ。身軽さを利用して家の上を飛び移れるので、あっという間に終わる。
しかし、依頼をこなしてのランクアップにはまだまだ必要回数が足りない。
これは指導を受けることも考えておいた方がいいかもしれないなぁ。
ギルドに戻って依頼達成の手続きをしてから、そういえばギルドの中はまだあまり見ていないなと思い立って、少し回ってみることにした。
冒険者ギルドの冒険者専用棟の中は、受付のほかに食堂兼酒場が併設されていた。
そちらでは、いい依頼が張り出されるのを待っているのか、まだ昼前の時間でも数人の冒険者がたむろしていた。
それとは別に、机が並んでいるコーナーがあり、数人の冒険者が何やら素材を机の上に取り出して、作業していた。
気になったので、何をしているのか職員さんに聞いてみると、
「あそこは鑑定レンズの貸し出しをしているんだよ。受付カウンターでも鑑定を頼めるけれど、レアな素材を手に入れたことを隠しておきたい場合や、自分で一括でさっさと鑑定してしまいたいときにあそこを使うといいよ。」
と教えてくれた。
鑑定レンズ!!そんなのがあったのか。
鑑定士さんが持っていた鑑定メガネよりは性能が劣るらしいが、安く使えるのならこっちで鑑定した方が安くつきそうだ。
折角なので興味本位でスペースを借りてみることにした。
手持ちの物がどんなふうに鑑定されるのか見てみる。
鉄のナイフ
鉄でてきた一般的なナイフ
ネズミの仮面
お面屋の手作り。かわいらしい模様でネズミが描かれている。
上下に別れるように改造されている。
風布の手袋
エルフが織った風を織り込んだ布で織られている手袋。
空気を自動で循環してくれるので蒸れない。
高級品
風絹の大布
エルフの中でも一部の人間しか織れない特殊な布
市場にはめったに出ないためにかなりの価値がある。
なるほどなるほど、これはおもしろい。
調子に乗って持っているものをどんどん鑑定していった。
するとそのなかに、
[丈夫・切れ味]のナイフ(大)
錬金術師ロンドによって特性を付与されたナイフ。
[丈夫・切れ味]のナイフ(小)
錬金術師ロンドによって特性を付与されたナイフ。
うん?
なんだろうこれ。
持っていたナイフを鑑定していっていると、二つのナイフが妙な結果を表示していた。
持っているナイフは大体そのあたりで買いそろえた普通のナイフだったはずなのに。
……いや、確か二本だけ自分では買っていないナイフがあったはず。
幽霊さんの遺品のナイフだ。
そういえばこの二本だけは手に入れてからロクに研ぎなおしたりした覚えがない。
確かもう一つ、気になってはいたけれどしまい込んでいた遺産があったはず。
ロンドの義眼
錬金術師ロンドが使っていた義眼。
見るための機能はないが、特殊な装置を動かすためのカギとなっている。
ふ~む。もしかしてロンドっていうのは幽霊さんのこと?
それに、確かロンドって名前、最近どこかで見たことがあるような気がする。
掲示板の中の、尋ね人の場所を見てみると。
【探し人】
研究者ロンド
(数年前の日付)から、行方が分からなくなっています。
彼には依頼をしており、前金も払っています。
エルフスキーの町の方へ向かったとの情報を確認していますが、それ以降足取りが分からなくなっています。
見つけた方は連絡してください。
報酬金貨一枚。
研究者ギルド
さらに国内用の依頼掲示板で
【調査依頼】
とある建物の調査。
研究者ロンドに貸していた家があるのですが、更新時期を過ぎても本人からの振り込みがありませんでした。
なので家を調査したいのですが、謎のカギがかかっていて開けることができません。
開錠できる心当たりのある方は、部屋の解放と調査をお願いします。
報酬半銀貨一枚。家の物は自由にしてもらって構いません。
不動産ロミー商会
エルフスキーに向かって行方不明になった研究者。やはり幽霊さんはこのロンドという人でまちがいなさそうだった。
ロミー商会からの依頼を受け、ロンドが使っていた家までやってきた。
扉には鍵穴らしいものはなく、ノブを回してみても扉は全く動く気配がなかった。
扉を調べていると、一部ガラス玉のようなものがはめ込まれている部分があった。
そこに義眼を近づけてみると、扉の中で何かが動く音がして、扉が開いた。
「わぁ。まさに研究者って感じの部屋だなぁ。」
部屋の中には、壁中を覆うような本棚にぎっしり詰まった何かの資料。
机の上にはフラスコやビーカーのようなものや、それらがゴムチューブつながっている蒸留器のようなもの。薬研やすりこぎ。
棚の中には瓶の中に保存されている何かの素材たち。さらによくわからない薬品が数字だけ書かれた小瓶に入って大量に保管されていた。
本棚の本の背表紙をさっと見てみると、錬金術に関する本が多い。
研究者って言っていたけれど、たぶん錬金術師としての研究をここでやっていたのだろう。
とはいえ、錬金術なんてものはこちらに来てから聞いたことがない言葉だった。
ふと、窓際にひっそりと置かれている譜面台のようなものの上に、何やら装飾が施された本がおいてあることに気が付いた。装飾は本に巻くつくような形で施されており、本が開かないようになっていた。
その本の中心には、いかにも何かはめ込めますよとでも言いそうな台座のような装飾があった。
「たぶん、ここにこれを置くんだよね。」
取り出したのはこの家のカギにもなっていた義眼。
それを台座に押し込むように置くと、急にその宝石のような義眼が光りだし、光の中にホログラムのように
一人の老人が浮かび上がった。
『俺は錬金術師ロンド。この映像は過去の俺の姿を映しているものだ。』
「……幽霊さん。」
この声としゃべり方。かつて私が弔った幽霊さんのものと同じだった。やはりあの幽霊さんがロンドだったんだ。
『この映像が映されているということは、俺が死んだか何者かが眼を奪ってこの本を発動させたということになる。』
『ということは、俺は俺の夢をかなえることが出来なかったのだろう。
たとえこれを見ている君が私を殺して眼を奪ったのだとしても私は恨むつもりはない。』
『しかし、私は折角再現することに成功したかつての【異能】である錬金術を、誰にも伝えることができないのは心残りでしょうがない。』
『頼む。俺に代わってこの【異能】を引き継ぎ、私の信じた≪真の錬金術≫を後世に残してほしい。』
それだけを伝えるとホログラムは光とともに消えていった。
【異能】?それって私の持っている加護の技能とは関係ないの?
引き継げといった割になんの反応も起こさない本を取ろうと義眼に触れると、
カッ!!
いきなり義眼から強い光が上がった。
「うわあ!!」
光は少しずつ帯のような形に変化し、私にまとわりつく。
「ひゃっ!なにこれ!!」
それと同時に私の中に【異能】錬金術の知識が送り込まれていく。
『錬金術継承システム起動。
義眼に込められた資料を送ります……成功。
【異能】錬金術の継承を行います……成功。
継承により、錬金術に関する技能に補正がかかります。
素材の変質の技術が習得されました。
素材の成形の技術が習得されました。
≪特性付与≫が使用可能になりました。』
頭の中に知識だけを放り込んで、継承を終えた義眼はくすんだ色になり、ひびが入ったと思ったら割れてしまった。
これでやっと初期に考えていたシラユキの戦闘スタイルが完成します。
まぁ少し後にまた増えますが。
説明は次回。




