外れてほしかった予想
残酷な描写が含まれます。
あれから特に何もなく夜が明けた。
「う~ん、あんなことがあったけど、旅に出てから一番爽快な朝な気がする。
やっぱり自然に囲まれてないと調子でないのかなぁ。」
このまましばらく身を隠そうかと思ったりもするけれど、今日は冒険者ギルドに本登録の手続きをしに行かないといけない。
そうしないといつまでたっても身分の保証をしてもらえないままだ。
そうなると、誘拐されても誰も助けてくれない。
できるだけ人の多い時間に付けるように、少し時間をつぶしてからギルドへ向かう。
するとギルドの前にべスターとリュートがいて、こちらを見てほっとした顔をしながら話しかけてきた。
「よかった。シロちゃん、昨日部屋が襲撃されたって聞いてね。姿が見えないから心配していたんだよ。」
「嬢ちゃん、無事だったか。全くどこに行ってたんだい?」
「……ごめんね。心配させて 大丈夫だったよ。」
とりあえず、私の話を聞きたいとのことで、どこか落ち着けるところに行こうと言ってきました。
まずはギルドへ行きたかったのですが、まあいいでしょう。
「知り合いにも探してもらってたんだ。見つかったって伝えてくるよ。」
そう言ってリュートはどこかへ走っていった。
べスターと一緒に王都の道を歩いていく。何だかんだまだあまり王都を歩いてなかったから今更ながらきょろきょろと街並みを見ながら歩く。
ここは店が多いな。私の作ったものを売ってお金に換えるならこのあたりがいいかも。
ていうか、この通りをいくつか超えると、私が夜を明かした公園だな。
そんなことを考えながら歩いているが、先導しているべスターさんが人通りの少ない道に入りだしたので、そろそろ切り出す。
「さすがに露骨すぎるね。」
「何がだ?嬢ちゃん。」
「さっきからどんどん人通りが少ない道に入っていってるよ。」
「……」
私の言葉にべスターさんが立ち止まる。
「この先に昨日の四人が待ち構えているのかな?あの人たちをけしかけたのベスターたちだよね。」
「……どうしてそう思ったんだ?」
「昨日掲示板にボクのことが書かれてから、結構騒ぎになってたのに昨日も今日も二人ともそれについて何も言わないのは不自然だよね。二人ならあれがボクのことだってすぐに解ったはずなのに。」
あの時は思わずリュートを掲示板に近づけないようにしたが、あれは冒険者以外が見るための掲示板だから、当然中には同じ内容の依頼書が張り出されていたはずだ。
そのあと、リュートは私とずっといたから仲間に襲撃を持ちかけたのはそれを見た直後か、私が部屋に入った後になる。
襲ってきた男たちの準備の良さから見て、おそらくはギルドに寄ったときに、すぐに襲撃を計画したのだろう。
つまりリュートは餌を前に、私を売ることを一切躊躇しなかったのだろう。
「そのあと、逃げ出しにくい部屋をボクに取らせたし、べスターがやたらとボクに勧めたお芋の料理、結局最後まで誰も食べなかったよね。」
何が入ってたんだか。
「割と能天気な嬢ちゃんだと思ってたけど。なかなかカンがいいじゃないか。」
べスターが笑顔を取り繕うのをやめた。もうごまかす気はないみたいだ。
私としては、掲示板を見た瞬間から警戒心マックスになっているのに、二人ともがやけに怪しい行動を繰り返すからすぐに怪しいと思えた。
「金貨千枚。それだけあれば山分けしても貯金を足して、店を出す頭金くらいにはなるんだよ。」
ベスターが道をふさぐように移動する。いつの間にかその後ろには昨日見た男たちがいた。
そして後ろにも。前後に二人ずつ そして
「シロちゃん。ばれちゃったのか」
「リュートさん」
別れた後彼らを呼んでここで待ち伏せていたのだろう。
「さあ、昨日みたいには逃げられないよ。おとなしく豚貴族の愛玩動物にでもなってくれ。」
ベスター以外が武器を抜いた。
「待て、リュート。あれから調べたんだが、もしかすると豚貴族に差し出さなくても、もっとでかい金が入るかもしれないぞ。」
ベスターが突然口を挟む。
「あの道で拾ってから、もしかしたらエルフなんじゃないかとは思ってたんだよ。
だが、あの時見た銀髪に青い眼。あれは普通のエルフじゃあありえない色なんだ。
どこかで見たことがある気がしてね。あの後こらえられずに家に飛んで帰って本棚をひっくり返したよ。」
ベスターが腰のポーチから一冊の本を取り出す。
題名は【六の至高種と、その王たち】
「間違いない。そのガキはエルフの王族。ハイエルフだ」
「なに!?とんでもない希少種じゃねえか。」
ベスターと、その言葉を聞いたリュートたちの目が血走っていく。
おそらく、私がエルフだってことをベスターは気が付いていた。
腕輪を安く売ってくれたのは、たぶんほかの人さらいが目をつけないようにするためだったのかも
つまり、その段階で私を捕まえて売ることを少しは考えていたんだろう。
そういえば、ハイエルフが具体的に何なのかは私も知らなかった気がする。
王族とはいっても私は異世界人だし、この世界のハイエルフと血縁者ではない。
「豚貴族に渡すなんてもったいねぇ。闇奴隷のオークションに出すことが出来たら王貨が山で動くぞ。」
王貨はこの国の中でも最高の貨幣だった気がする。
一枚でも気のくらむ価値があるものが山になって、なんて夢のあるお話を言っている。
「夢の話なら寝てから言ってね。私はつかまるつもりはないよ。」
いい加減気分が悪いので夢から覚めてもらおう。
「お得意の弓も持ってないのに強気だねぇシロちゃん。」
「はん、おい 捕まえろ!!手足の一本でももいでやればおとなしくなるさ。大丈夫だあとで繋いでやればいい。」
ベスターが叫ぶと、改めてリュートたちが武器を構えなおした。
その時、私の耳にはきりきりと弓が鳴る音が聞こえた。
バシュ!!
私めがけて放たれた矢を半歩動くことでよける。
もう一人いたのか。
「何?今のをよけるかよ!!」
間抜けにも驚いて声を上げる弓使い。路地の壁の上からこっそりと狙ってたらしいけれど。やっぱり弓は音が大きい。
不意打ちしたいならやっぱり……
「っがぁ!!」
喉を抑え壁の後ろに倒れていく弓使い。
彼には飛んでくるナイフは見えたかな?
とにかく、包囲されている状況はあまり良くない。見方が急にやられたことに動揺している間にベスターの方に駆けていき、すれ違いざまに荒くれの脇の下から腕の付け根めがけてナイフを走らせる。
「っはえぇ!!なんてスピードで動いてやがる!!」
今更リュートが反応する。この先は……行き止まりだったか。
「おらぁぁ!!」
さっき切りつけた方とは違う方の荒くれが剣を振りかぶって襲ってきた。
でも全然隙だらけだ。それに遅い。
私は荒くれが剣を振り下す前にその手首を切りさく。
「ってえぇぇ」
剣を持っていられなくなって取り落とす。痛みでこっちへの注意がそれたのでその隙に目にナイフを突き立てた。
とりあえずここではこれくらいでいいかな。
私は路地の壁をポーンと蹴って飛び上がる。
私を追い込んだと思っていた間抜けたちは目を丸くしてこっちを見ている。
これくらいの壁で私を追い込んだつもりだなんて。甘いとしか言えないな。
そのまま壁の裏へ飛び降りる。目指すは昨日の自然公園だ。
「畜生!!追え!!」
「くそ!!ダイアンがやられた。」
「俺も腕をやられた!!くっ血が止まらねぇ」
三人はやれたからあと四人かな。
公園まではまだ距離があるし、あと一人か二人は倒しておきたい。
このあたりは本格的に人通りがないのかそれとも治安がかなり悪い場所なのか、結構騒いでいるのに誰も見に来ない。
路地に降りて公園の方に向かってのんびり歩いていると。
「!! おい、いたぞこっちっごぁ!!」
荒くれが顔を出してきたので用意していたナイフを投げて仕留める。
飛び道具を持っているのにうかつに顔を出しすぎだね。
結局そのまま公園についてしまった。
私が木の多い場所で待っているとようやく残りの三人プラス一人がやってきた。
「よくも仲間を殺してくれたな!!お前は八つ裂きにしてから売り払ってやる」
リュートもさっきまでのすかした態度が崩れていた。
「やってくれたなぁクソガキぃ てめえは嗜虐趣味の変態野郎に売りつけねぇと気がすまねぇぞ!!」
ベスターが顔を真っ赤にして私に怒鳴る。
隣には荒くれが真っ青な顔で立っていた。
「ベスターさん。隣のその人、放っておいていいの?死んじゃうよ」
私の声にやっとその男の様子に気が付いたらしく、慌ててリュートが声をかける。
「おい!どうしたんだよ」
「血が、血が止まらねぇんだ。」
ガタガタと震えだす男。
「首の血管を切られると血が止まらなくなっちゃうことは知ってる人多いけど、似たような[切られちゃいけない場所]って他にもあるんだよ。」
要するに四肢の付け根の部分だ。そこには太い血管が集中していて、さらに付け根だから縛ったり圧迫しての止血が出来ない。
だから男は私に切られたときにはもう終わっていた。
完全に顔から血の気を失った男は、ゆっくりと倒れていった。
「畜生!!お前は何なんだよ!!」
「言ってなかったっけ?数日前までは森で狩人をしてたんだよ。」
狩るのは食べるための動物だけじゃない。
侵入してきた魔物や。
森を荒らしに来た人間
エルフの住む豊かな森の中には外部の者がほしがるものも多い。
しかし、エルフは神聖な森を好き勝手荒らされることを許さない。
私がこちらに来て初めて会った幽霊さん。
遺体は荒らされていなかった。食料も水もまだもっていた。魔物にはめったに出会わないあの森で、なぜ命を失うことになったのか。
要するに彼も侵入者だったのだろう。
私も一年の中で数度、密猟者を始末している。
記憶を失っていたからか、同族以外を殺すことには何の拒否感もわかなかった。
記憶を取り戻して思うこともあったが、すでに私は一人前の戦士だった。
「てめぇぇぇ!!」
リュートの隣にいた男が腰から何かをこちらに向ける。
反射的に身をかわすと、何か小さなものがかすめるように飛んできた。
「へえ、小型のクロスボウかな?」
どちらかというと暗器のようなものらしい。音もあまりしなかったのでなかなかのものかもしれない。
「くそう!!なんで当たらないんだよ」
単発式なのか、装填しようと手元の道具をいじる男。
そんな暇与えるはずないでしょう
こちらから目を離した男の首筋を狙ってとびかかる。
男はよける間もなくナイフを突き入れられた。
「……あとは二人だけだね。」
ナイフを抜きながらベスターとリュートに向き合う。
「クソっどうしてこうなった。ハイエルフをとらえて大金を手に入れられるはずだったんだ!!」
「俺のパーティが壊滅だ。なんてことをしてくれたんだ……なっなんだ!?」
「先にボクを売ろうとしたのはそっちだよ。それとベスター」
二人はようやく足元の違和感に気が付いた。
「さっきの本には植物の近くでエルフと争うな。って
書いてなかったのかな。」
二人の足に絡みつく草たち。
すでに二人は足を持ち上げることもできないだろう。
「待ってくれ。助けてくれ!!」
「畜生!!このガキ 許さないからな!!」
二人がそのことに焦って騒ぎ出す。
「二人を生かしておくと、ボクがあの依頼の女の子だってばれるかもしれないしね。
それに僕がハイエルフだってことも。」
二人の周りにある木に精霊魔法でお願いする。
『つらぬけ』
二人は木の間に縫い付けらえるように無数の根や枝に突き刺された。
男たちの死体とかを公園に運び込む。
私は被害者だけど。それを証明する手段を持たない。
最悪疑われるかもしれないから、いっそのことこの襲撃ごとなかったことにしようと思う。
神は国を保護してくれるけれど、その中での争いには関与しない。
七人分の死体は、精霊魔法を使って大きめの木の下に埋めた。簡単には掘り返せないから多分見つかることはないだろう。
この木には泊めてもらわないようにしよう。
折角なので、戦利品をもらうことにした。
ベスターが腰につけていたアイテムポーチと、男が使っていた暗器、それと【六の至高種と、その王たち】の本。ちょっと気になったからね。
お金は持って来てなかったみたいだし、価値のありそうなものは、売ると足が付きそうな気がしたので一緒に埋めることにした。
おかげでアイテムポーチが二つに増えた。買うと高いものだから正直助かる。
これでとりあえずは私のことを知っている人間はいなくなったはず。
数日は身を隠して過ごしながら服などをそろえよう。そうしてからようやく冒険者としての活動を始めようと思う。
……記憶が戻ってから始めて人を殺したけど、やっぱりそこまで気にならない。
雪という自分が変わってしまっている気がして、少しかなしくなった。
ハナ姉たちと再開した時に、嫌われたりしないといいな。




