賞金首と襲撃
受付が終わって晴れて冒険者シラユキとなったけれど、ギルド側の登録の関係で依頼を受けられるのは明日以降らしい。
リュートさんは私が受付している間に、冒険者仲間のところに顔を見せに行くと、もう一つの建屋に向かっていた。
もう今日は中に入るのはおっくうなので、建物の表にある掲示板を眺めながら時間をつぶすことにした。
ここには尋ね人や、探し物など冒険者以外の人が見つける可能性のあるものの依頼などが書かれていた。
さっき通った時はあまり人はいなかったはずなんだけれど、今はなぜか人が大勢掲示板を眺めてざわついていた。
「?何かあったのかな。」
気になったけれど、身長のせいでよく見えない。
隣に立っていた主婦っぽい人に聞いてみる。
「なんだかついさっきとんでもない金額の探し人依頼が張り出されたらしいよ。」
ほう、お金の匂いがしますな。
いざ見てやろうと人並みを小柄な体を生かして掻き分け掻き分け。
前の方に潜り込みことに成功した。さてさて。
掲示板の一番目立つ場所に張られた新しい張り紙には
【探し人】
今日城門前に現れた少女を探しています。
まるで妖精のようなかわいらしい少女です。
ああ、あの美しい銀の髪。透き通る白い肌と澄み渡る空のような青い瞳。
彼女は私の運命の相手に違いない。
彼女を見つけて私のところまで連れてきてくれたものには
金貨1000枚進呈しよう。
シュバオーク
「……ぁえ?」
銀の髪に青い瞳?
え?これってもしかしなくても私のこと?
なんで私は見ず知らずの相手に賞金かけられてるの?
連れて来いって?なんのために。
ていうかこんな依頼ギルドは受けていいの?犯罪じゃん。
私がわたわたしていると、まわりの人の声が聞こえてきた。
「このシュバオークって、確かあの脂ぎった豚貴族だろ?」
「ああ、あのロリコンの」
「なんかちょくちょく問題起こしてるよな。」
「貴族からの依頼は審査が緩くなっちまうから一度はどうしても依頼に上がっちまうらしい。」
「んで、少ししてからやっと不適切な依頼ってことで取り下げられるんだな。」
「でもこれを見たやつはあの豚にこの子を連れて行ったら金がもらえるってわかるって寸法だ。」
「実質これは誘拐依頼みたいなもんだな。」
「かわいそうに、金貨1000枚なんて。国中の荒くれが探し回るぞ。」
「まるで指名手配だな。」
やばい。
どうやらこれは、その豚貴族とやらが法の抜け道を使ってやってる私への指名手配らしい。
まさか城門でちょっと顔を出した時にそのシュバオークとやらに見られてたのか?
とにかく今はフードのおかげで見つかっていないけど……
もし連れていかれたら……どうなるかわからないな。
突然沸いた身の危険。今の服装ももう危ないかも。
これは本格的に変装の必要があるな。
「どうしたんだい。」
いつの間にか戻ってきていたリュートが私の肩をたたきます。
「うわぁ!」
「わぁ!どうしたの、そんなに驚いて。ん?掲示板に何かあったかい?……て、おいおいどうしたんだよ」
掲示板を覗きに行こうとするリュートの背中をぐいぐい押しながら掲示板を離れる。
「いいから。それよりも宿、紹介してくれるんでしょ。」
「ああ、そうだったね。面白い宿だから気に入ると思うよ。」
とにかくこの場を離れようと急いでリュートをせかしていく。
その宿は、確かに面白い形をしていた。
まるで部屋が一つ一つ積み木のように重なり合っていて、それぞれが階段やはしごでつながっている。
一体何を考えてこの形にしたのか。
「宿の主人が趣味で作らせたらしいよ。なんでも建築家になりたかったとか。」
「これ、崩れたりしないの?」
「ははは、見た目以上に土台はしっかりと組んであるらしいからだいじょうぶだよ。
おすすめは一番上のあの部屋(?)だね。移動が面倒だけど、いい景色が見られるんだよ。」
リュートは前からそこを予約してあけておいてもらっていたらしいけど、折角だからと私に譲ってくれるらしい。
身軽な私からしたら、部屋に入るまでの道のりはあまり苦じゃない。
ジャングルジムみたいな宿の一番下に、宿の受付兼食堂があって、そこで料金を払ってカギを受け取るらしい。
「いらっしゃい。宿泊かい?食事会かい?」
こんな妙な宿をデザインしたとは思えない不愛想な主人が対応してきた。
リュートさんが部屋を予約していたことを伝え、その予約を私がそのまま引き継がせてもらった。
料金は半銀貨一枚と、思ったより普通だった。てっぺんの部屋は人気らしく、連泊はできないと言われたけれど、折角だから明日以降はここ以外もいい宿を探してみよう。
早速部屋に向かおうとしたけれど、リュートが私を呼び止めた。
「シロちゃん、一緒に食事はどう?」
折角の誘いだけれど、そろそろポーチに残っている保存食を食べちゃわないとだめになりそうなんだよね。
でも折角の部屋を譲ってもらった恩もあるし……軽食くらいならいいかな。
リュートが私を引き連れて食堂に入ると、なぜかべスターさんが先に席で待っていた。
「あれ?べスターさん?」
「よお、嬢ちゃん。リュートがここで泊まるって聞いてたから来てたんだが、嬢ちゃんもいたのかい。」
「やっぱり来てましたね、べスターさん。そうだと思ってシロちゃんを誘ったんですよ。」
三人でテーブルに着くと、すでに頼んでいたのかどんどん料理が運ばれてくる。
「二人とも、食べてくれ。今日はおごろうじゃないか。」
べスターさんが気前のいいことを言ってくれるけれど、私はあまり食べるつもりはないんだけどな。
しばらく飲み物でお茶を濁していると。
「どうしたよ嬢ちゃん、どんどん食ってくれ。この芋の料理なんてなかなか行けるぜ。」
と、私の皿の上に料理を盛ってこようとしてきたので、仕方なく断る。
「ごめんねべスターさん。私今おなかすいてないんだ。」
そのあと、しばらく三人で話をしながら食事をして解散となった。
リュートさんとべスターさんも、折角だからとこの宿に泊まるらしい。
さて、私があまり食べなかったのは理由がある。
この後激しく動く可能性があるからだ。
私は荷物を解かずに部屋の中でも身に着けたまま過ごす。
ポーチの中から里から持ってきた木の枝のようなハーブを取り出してかじる。
これはエルフの狩人が徹夜して獲物を待つときにかじる眠気覚ましのハーブだ。(多分中毒性とかはないはず)
くわえたままハーブをピコピコ動かしながら夜が更けるのを待つ。
あの掲示板を見た時から警戒は怠っていない。
私の予想が間違っていなければ、多分今夜にでも襲いに来るだろう。
出来れば外れていてほしい予想だけど。
深夜、住人は完全に寝静まったころ。
この部屋に続く通路を足音を忍ばせながら近づいてくる何人かの足音を私の耳が感じ取った。
腕輪で形が変わってもエルフのけた外れの聴覚はかわらないみたいだった。
「やっぱりか。できれば予想は外れてほしかったけどな。」
部屋の扉を蹴破って、いかにも乱暴者という人相の男たちが4人、部屋になだれ込んでくる。
手にはロープや、人がすっぽり入りそうな大きな袋を持っていた。
しかし、部屋のベッドの上が空っぽなのを見ていぶかしむ。
「おい、いねえじゃねえか。」
「クソ、どういうことだ。寝てるんじゃなかったのか。」
「感付かれたのか?」
「いや、部屋からは出ていないはずだ。探せ!!どこかにいる。」
4人はランタンらしき明かりをつけて部屋をひっくり返しだす。
「おじさんたちは強盗?ボクはあんまりお金持ってないよ。」
男たちは驚いたようにこちらを振り返る。
実は最初から扉の裏に隠れていたんだけどね。べただけど意外と気が付かなかったな。
私のことを見つけた男たちは、途端にいやらしい顔で気持ち悪い声で、私に話しかける。
「へへへ、嬢ちゃん。そのフードを取って見せてくれないかな。」
「おじさんたちとちょーっと一緒に来てくれないかな。」
「合わせたい人がいるんだよ。おとなしくついておいで。」
「抵抗しなけりゃ痛い目に合わずに済むんだぜ」
なるほどね。やっぱり昼間の掲示板がらみだったか。
さて、ここで暴れるのはさすがにまずいかな。
狭くても動ける自信はあるけれど、あまり場所がよくない。万が一があるかもしれない。
私は4人に向かって舌を出してみせる。
バカにされているのが分かったのか一番年上らしき一人がこちらに向かって手を伸ばしてくる。
「おいガキ!!いいからおとなしくついてくればいいんだよ!!」
その男の伸ばした腕をかいくぐり、窓に向かって走り出した。
ドアを塞ごうと動いていたほかの男たちは、私の急な動きに付いてこられずに見送ることになった。
さすがに窓はガラスではなくて木でできていたけれど、あらかじめ少し開けて置いたおかげで、
簡単に飛び出すことができた。
この部屋の窓は、景色を楽しむためか宿の他の部屋よりも突き出している。
つまり飛び出すとはるか下の地面まで真っ逆さまだ。
私は夜の闇の中に落ちていった。
「ああ!?あのガキ落ちて行っちまいやがった。」
「くそ、この宿窓から逃げられないって言ってたのに!!」
「死んじまったんじゃねえか?」
「いや、落ちた音はしなかった。どうにかして着地したのかもしれねぇ」
男たちは目的の少女が飛び降りた窓から下を見下ろす。
しかし夜の暗闇が広がるばかりで何も見えなかった。
今から降りても逃げられたのなら見つけることは難しいだろう。
男たちは悪態をつきながら、騒ぎすぎたためにそろそろやってくるだろう宿の主人たちに鉢合わせにならないうちに、急いで撤収した。
シラユキは夜の闇の中、ふわふわと風に揺られながらゆっくりと落ちて行っていた。
その手には広げられた風絹
風を操るその1枚の大きな布は、広げたまま飛び降りれば、シラユキくらいの軽さならタンポポの綿毛のようにゆっくりと降りることができる。
地面に着いたら、その布を手早く折りたたんで、いつものように首にマフラーのように巻き付ける。
周りは暗闇に覆われていて、普通なら何も見えないのだろうけど、今、シラユキの目は猫のように光っていた。
そもそも夜目はかなり利く方だが、さらに精霊魔法で夜の闇を見渡しているのだ。
これくらいなら対して消耗もしないので、ブローチに込めている力だけで十分だろう。
そのままシラユキは自然の力を多く感じる方に走り出した。
しばらく行くと、木々が多く植えられている自然公園のような場所にたどり着いた。
その中でもひときわ大きな木を見つけ、精霊魔法で大樹にお願いをして中に空洞を作ってもらった。
その中に潜り込んで、入り口を木の枝の葉で隠して、周りを警戒しつつやっと眠りについたのだった。
「う~ん、宿よりこっちの方が落ち着けるかもしれない。」
大丈夫です。次でちゃんと戦います




