冒険者シラユキ
フェリウス城門前。
先ほどからどんどんと周りの馬車が増えていったと思っていたけど、案の定門の前には入国待ちの列が出来ていた。
どうやらこの時間は入国待ちのピークらしい。
「嬢ちゃんは身分証持っているかい?ないならあっちの列に並ばないといけないんだけど。」
べスターさんに指さされた方向を見ると、割と長い列が出来ていた。
列も長いが、進みも遅い。
どうやら面接でもしているらしく、場合によっては今日中に入れるかも怪しいらしい。
当然私はまだ身分証を持っていない。
「ううん。持っていないからここでお別れになりそう。」
私が馬車から降りてそっちの列に向かおうとすると。
「待て待て、これも何かの縁だ。裏技を使って入ろう。」
べスターさんが言うには、このままべスターさんにくっついていけば、べスターさんのチェックの時に、一緒に私の入国審査を行えるらしい。
あの列に並ばないでいいだけでも助かる。
「じゃあ、せっかくだからお願いしてもいい?」
こちらの列は順調に進み、べスターさんの馬車の番になった。
「これが俺の国民証と、交易許可書。あと馬車の目録だ。
それとにぃちゃん。この嬢ちゃん身分証がねぇんだけど、お願いしてもいいかい。」
「ええー、もうしょうがないですね。横着しないで下さいよ。」
門番さんはちょこっと注意しただけでそのまま私の手続きに入った。それでいいんだ。
何かの書類を持ってきて椅子に座った私の対面に座る。
「字は書ける?」
「はい、大丈夫。」
書類に書いてある質問に対する答えを書くだけみたいだった。
あれ、この書類入国の目的とか書かないといけないけど、名前とか種族は書かなくていいみたいだな。
なんでだろう。
フードが邪魔だったから下して書類に記入していく。
…………これで良し。
顔を上げるとこちらをぼんやり見ている門番さんと目があった。
「書き終わったよ。」
門番さんはなんだかぼんやりとしたまま反応しない。
「?終わったよ、おーい!」
「ああはい、どうも」
ハッとした表情で門番さんが再起動する。
あれ、腕輪してるよね?なんかおかしかったかな。
思わず耳を触って確かめる。うん、こちらの世界に来る前と同じ、人族の耳にちゃんとなってるはず。
後ろで様子を見ていたリュートさんが声をかけてきた。
「シロちゃん美人さんだったんだね」
ハッとして周りを見ると、城門周りにいた人たちがみんなこちらを見て門番さんと同じような顔でこちらをみていた。
慌ててフードを深くかぶりなおす。
しまった。エルフの美貌チートは腕輪じゃ隠せないのか。
「じゃあ、最後にこの端っこの魔法陣に指を押し当てて魔力の登録をしてね。」
言われたとおりに指を押し当てる。魔力はどんな種族でも必ず少しはもっているらしい。
なるほどこれが本人確認の代わりになるから名前とか書かなくていいのか。
門番さんから仮入国証を受け取って門をくぐる。
べスターさんとの約束は国に入るまでだからここでお別れだ。
「べスターさん。ありがとう、助かったよ。」
お礼を言って馬車から降りる。
「おう、嬢ちゃんも……」
「シロちゃん。今から冒険者ギルド行くんだろ?場所わからないなら案内してあげるよ。」
急にリュートさんが遮って話しかけてきた。なんだか距離近くない?
遠慮してたんだけど、べスターさんもあとは商業ギルドに報告して自分の店に戻るだけだからと、
リュートさんを私に付けて行ってしまった。
そういえばリュートさんとはあまり話をしていなかった。ちょっと気まずい?
「で、僕はそろそろCランクに上がりそうでさ。やっと一人前になれそうで~」
と思ったらギルドまでの道すがら、延々と私に話しかけてきていた。
この人こんなにおしゃべりだったのか。
割と門から近いところに冒険者ギルドはあった。
さて、いよいよここにたどり着きました。
私知っています。新人が登録に来るとベテラン冒険者にいちゃもんをつけられるんです。
物語集に書いてました。
何が来ても慌てないように覚悟を決めつつ、目の前の重そうな扉に手をかけ、いざ……
「おおい、シロちゃん。そっちは冒険者用の入り口で、登録したい人とか依頼したい人用の受け付けは
こっちから入るんだよ。」
リュートさんが建物をぐるりと回ったところから声をかけてきました。
こ、この決めた覚悟は一体どこにおいておけばいいのでしょう。
建物の中は、受付と待ち受けが並ぶ銀行の受付みたいな場所でした。
普通に整理券を受け取って、それほど待たずに番号を呼ばれました。
なんか思ってたのと違います。
酒場と併設されてて、荒くれ物ががはははと笑いながら今日の収入を自慢してたりしてると思っていたのに。
「向こう側はまさにシロちゃんの思っているような感じだから安心しなよ。」
いや、まあそれはそれで安心できないんですけどね。
「ぼうけんしゃとうろく、おねがいします。」
受付のおばさんに声をかける。
べスターさんに指摘されたけど、私の共通語は敬語に当たるものがうまく使えていないみたいです。
少しべスターさんに教えてもらったのを付け焼刃だけど使います。
初めて挑戦することは何でも緊張してしまいますね。
「はい嬢ちゃん。まずはお名前は?」
あれ、おばちゃんが代筆する流れになっています。
もしかして敬語がたどたどしかったから、文字も怪しいと思われたのでしょうか。
とりあえず名乗らないと。
「しろ……ぁ」
お姉ちゃんたちが探しているのなら、本名の方で登録しておけば気づいてもらえるかもしれない。
「ゆき、です」
「ん?シロユキちゃんかい?」
しまったつながった。しかもその組み合わせだと
「しらゆき、です。」
あ、違う。修正するところをまちがえた。
「シラユキちゃんね。この名前でギルドカード作るよ。
このカードは正式な身分証にもなるからなくさないように注意するんだよ。」
やばい、訂正する間もなく話が進んでいく。このおばちゃん会話のテンポが速いタイプのおばちゃんだ。
「あ、あの」
「大体のことはこの冊子に書いてあるから、もしそれでもわからないことがあったら向こうの建屋の職員さんに聞いてね。」
違います。質問じゃなくて。
「次の方―」
こうして私は正式な身分上 シラユキ になった。
まあ、響きは好きだからいいか。
最初の予定では、国に入ったところから1話にしようかと思ってました。
それを無理やりここまでの分の話を入れたので、下手にキャラクターを増やせなくて大変でした。




