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馬車に引っこ抜かれました

この世界には魔獣がいる。

神々によって安全地帯が作られたといっても、世界のほとんどは魔獣が闊歩する危険な土地だ。

そんな中を旅するということは魔獣との戦闘は避けられないということ。


「ふぅ。見失ってくれたかな。」

私はフェリウスへ向かう旅の途中、少しでも楽をするために森の中に分け入って進んでいた。

この森はすでにエルフの影響下にないただの森だったが、精霊の力は木の少ない場所よりはよっぽど多いため、中の方が安全だと思ってのことだったのだが。


「なんなんだよう、あの大きなサルは。」

普通の森というのは、野生動物なども住み着きやすい場所だということを、うっかり失念していた。

森の中で、木の枝から枝へ駆けていた私を、いつの間にか追いかけてきている魔獣がいた。

すぐに追いかけられていることには気が付いていたのだけれど、身軽さには自信があったから無視して進んだつもりが、いつまでたっても引き離せなかった。

精霊魔法に制限がある今は、不要な戦闘は避けたかった。

ギルドに登録した後なら魔獣を倒すことでランクアップの近道になったのだけれど。

しょうがないので、少しだけ精霊魔法を使い、木にお願いして後ろの魔獣の妨害をして、その間に魔獣に探知されないように隠れたのだった。


こんな時に役に立つのが風絹のマフラー。

ちょっとした木のくぼみに体を滑り込ませ、これを広げて潜り込めばめったなことでは見つからない。

風布や風絹には、空気を少し操れるという効果がある。

私がコートだけを買って、下はその服のままだったのは、この機能が旅で役に立つと思ったからだった。

服やマフラーが私の匂いを隠す。

たとえ野生の魔獣でも、嗅覚で私を探すことは困難になるのだ。


さっきまで見失っていたあたりを探し回っていたサル魔獣は、あきらめたのかどこかへ去っていった。


「うーん、やっぱりナイフだけじゃ火力不足かなぁ」

私が今使えるのは、あちこちに仕込んだナイフと精霊魔法が少し。

さっきのサルとも戦って負けるとは思わなかったけれど、決定打に乏しいからどうしても戦闘が長引くだろう。

ロングソードでも買えと思われるかもしれないけれど、実は私は重たい武器との相性がとても悪い。

私は持ち前の身軽さで高速起動が得意なんだけど、実はそれには秘密がある。

今、私は適化によって本当の姿よりも大きくなっている。

でも、私の重さは適化前と変わらない。

質量までは補ってくれないのだ。

だから見た目よりも軽い体でピョンピョン飛ぶのは得意だけど、重い武器を持つと武器の重さで体が振り回されてしまう。

だから苦肉の策としてナイフを使っている。

村の近くの森で熊の魔獣と戦った時に、わざわざ上を取ったのに、落下する勢いでナイフを突き立てなかったのはそのせいだった。

なんだかアサシンじみているね……



隠れていた木のくぼみから出て、おとなしく街道に向かう。

道に出たら、さすがに少しは魔獣と出くわす可能性も低くなる。

森の中を行くより少し速度は落ちてしまうけど、運がよかったら行商の荷馬車に相乗りさせてもらえるかもしれない。


「こんなことなら最初からフェリウス行きの馬車を探しておけばよかったな。」


数日かけて街道をてこてこ歩いている。

割と村で森でと走り回っていたので、一日中歩き回るのはそこまで苦ではなかった。

でも


「飽きてきたなぁ」

ただひたすら街道を歩くだけの日々。馬車は通りかからず、たまに出てくる小動物や小型の魔獣を投げナイフで仕留めたり仕留めなかったりするだけの一日が続く。

やっぱり街道は安全なようだった。


「気が付いたんだけど。私は森から離れるとテンション下がるみたい。」

エルフらしくなったものだ。

変わらない景色にうんざりしながら歩いていると、後ろから馬車のゴトゴト走る音が聞こえてきた。


「おお、乗せてもらえるかな」

街道の向こう側から馬車がこっちに向かってくるのが見える。

交渉できるかもと大きく手を振った。


「おおーい」

「―… ――― ―……」


おお、コミュニケーション成功です。

でもまだ遠いのでよく聞こえません。

あれ、あの馬車かなりスピードを出している気がします。


なかなかのスピードのままこちらに向かってきている馬車の御者をしている男の人は、こちらに何か叫び続けています。


「魔獣に追われてるんだ!!あぶねぇから逃げろ。」

「ええ!!逃げろと言われても。」


土煙を上げながらやってきた馬車は、どうやら魔獣に追われている様子。

少し遠いけれど森まで走って逃げ込めれば……なんて思っていると。


「しょうがねぇ、つかまれ坊主!!」

と言って御者台から身を乗り出して私を救い上げるように拾い上げました。

ぐふ!!つかまれとか言っておきながら問答無用で引っ張り上げられました。


「うを!!なんだ坊主、えらく軽いな」

そんなことを言いながら御者さんは私を荷台に放り込みました。

ていうか坊主とは失礼な。と思いましたが、今の私は大きめのコートのフードを目深にかぶっているのでした。

荷台にころころと転がり込むと、弓を構えたお兄さんが先客でいました。護衛の人かな?


「大丈夫かい、全くなんでこんな街道に近いところにエテハンターが!!」

荷台の上から外を見るとどこかで見たサルの魔獣が追いかけてきていました。

どこかで見たサルの魔獣です!!


「あいつらはもっと森の深いところにいるはずなのに……どうしてこんなところまで来てやがるんだ!!」

御者さんが悲鳴のような声を上げます。


「さ、さあナンデデショウネ~」

どっかの誰かが森の奥の方から引っ張ってきたりしたんでしょうかね。


「振りきれそうか?」

「馬の足なら多分振り切れるだろうけど、こいつをこのまま放っておくのはまずい

出来れば仕留めたいんだけれど。」

弓を構えたお兄さんがけん制のように矢を放ちますけどなかなか当たりそうにありません。


「お兄さん、当てないと!!」

「無茶言わないでよ!!こんな揺れる馬車の上で矢が当たるはずないだろ」

「当たるよ!!貸してみて。」

お兄さんから弓をひょいと奪います。


「あ!おい」


きりきりと弓の弦を引き絞ります。

狙いを定めて~


ばしゅ!!


矢は狙い通りにサルの眉間に突き刺さります。

サルはもんどりうってひっくり返りました。


「うお!!当てたのかい!?」

「うん。もう大丈夫だと思うよ。」


馬車を止めてサルのところまで戻りました。

当然サルは絶命しています。


ううむこないだも弓矢があったら倒せたのかな~でも木の上を逃げながらこんなにきれいに狙えないしな~

なんて考えていると追いついてきた御者さんと護衛のお兄さんがサルを見て感心します。


「よくもまぁあんなに揺れる馬車の上から狙えたもんだな。」

「僕も弓が本職じゃないといっても自身はあったんだけどな。」

「木の上を走りながら狙うよりは簡単だよ。それに……」


腰の後ろにあるナイフを抜き出し、両手でくるくる回してから構えます。

気分はガンマン!!

「ボクだって獲物はこれだ!!」

最大級のどや顔で決めました。

人恋しさの反動でテンションがおかしなことになってます。

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