エルフスキーの町
村を出てから数時間。
私はワタリさんと一緒に森の中を駆けていた。
とはいっても木の上を飛び移っているのだけど。
「ところでワタリさん。今回交易品はどうしたんですか?」
「うん?持ってきてるよ?」
ワタリさんは肩に担いでいる布袋をポンとたたいて見せた。
ぺったんこになっているその布袋にはとても荷物が入っているようには見えなかった。
「町には便利なものがあってね。この袋には魔法がかかっていて、見た目以上のものが入ってるんだ。」
「そうだったんですね。いつもワタリさんどうやって交易品を持ったまま森を抜けてるのかと思ってました」
「でも、これたっかいんだよね。もしかしたら風絹と交換しなきゃいけないくらいするんだよ。」
風絹はよっぽどのことがない限り交易には出さない。
村でも織れる人が少ない貴重品なので、村の中の需要で精いっぱいだった。
「まあ、今回はいつもの周期からずれていくから、いつもの商人さんはさすがにいないだろうし、
シロちゃんの旅装備をそろえるためにいくつかお金になりそうなものを持ってきているよ。」
今回、ワタリさんは私のためにわざわざついてきてくれている。
さすがに村の中だけでは十分な旅支度はできなかったから。手に入れるのを手伝ってくれるそうだ。
「そろそろ森を出るよ。そしたらすぐに町がある。」
「もうそんなところまで来れたんですね。」
いつかは三日さまよった森も、今では半日もかからずに抜けることができそうだった。
まあ、今はあの時とは違って、適化して体を大きくしているというのもあるのだろうけど。
「さあ、着いたよ。ここからは共通語で離さないと通じないからね。」
いきなりワタリさんが共通語に切り替えた。
「大丈夫かな。ボクはちゃんと共通語喋る人と会話したことはないんだよ。」
共通語が分かるのは、ワタリさんと村長が少しだけだった。
ちゃんと使うのは今日が初めてだから、少し不安だ。
「だ―いじょうぶだって。」
町に入る入り口は森の反対側にあるみたいなんだけど、森側の壁にもエルフたちとの交易のために小さな門がわざわざ用意されているそうだ。
ちなみに、町というのは最初に神々に保護された土地ではなく、そのあとに魔物を一掃し、あとから神に頼んで結界を施してもらった開拓地のことらしい。
町の所有権は、開拓した国にあるそうで、功労者は町を収める権利をもらえることも多いらしい。
「あれ?どうしたんだいエルフの兄ちゃん。前回の交易はつい数日前だったじゃねぇか!」
門に着いてワタリさんが声をかけると、門の内側から門番らしいおじさんが顔を出してきた。
エルフにはありえないその厳ついひげ面に驚いて、思わずワタリさんの後ろに隠れる。
「ちょっと事情ができてね。この子の旅装をそろえなくちゃならないんだよ。」
「うん?エルフが旅に出るのかい?」
ワタリさんが私を前に押し出します。ひぃぃ 怖い。
「あん?なんだか真っ白な子供だが、この子もエルフなのか?」
「ああ、ボクたちの一族の中でもさらに希少な子でね。」
「ここ以外にもエルフはいるが、森エルフの子供は初めて見た気がするな。
なんだか物語の妖精みたいに可憐な嬢ちゃんだな。」
なんかすっごく照れくさい。でも褒められたからか、少し門番のおじさんへの恐怖が薄れてきた。
そのあと普通に私たちは門を通ることができた。
「森エルフ?」
森じゃないエルフもいるのかな。
「ああ~~」
ワタリさんが少し苦い顔をしてうなった後、教えてくれた。
「なんて言うか、森での生活に飽き飽きしたといって、町に出たエルフが昔いたらしいんだ。
そして、生まれてからずっと町で暮らしているようなエルフもいて。」
「町エルフってこと?」
「一度も森に入らないまま大人になったエルフは、精霊が見えないんだ。」
「ええ!?じゃあ精霊魔法が使えないの?」
「そういうことになるね。まあ、森にいないとそこまで恩恵がない魔法だからねぇ
そうして育ったエルフは、なんというか……残念になる。」
? どういうことでしょうか。
「まあ、もし会うことがあったらわかるさ。」
私たちは、必要なものを手に入れるためにまちの中心地に向かっている。
いつもなら懇意にしている商人さんが取引を受け持ってくれているらしいんだけど、さすがに今回は急なこともあって自分たちで売りに行かないといけない。
だけど、さっきから歩いていてとても……視線を感じる。
「見られてない?」
「ああ、この町の人たちは、森が近いこともあってエルフに好意的なんだよ。
ボク以外のエルフと一緒に買い出しに来ることも多いから、その時はいつもこんな感じだね。」
ワタリさんは気が付いていないみたいなんだけど、私はこの視線を知っている。
変態精霊が私たちを見る目だ。
どうも村で過ごすうちに忘れていたけれど、私たちエルフは容姿に優れていて、露出を気にしない。
町に来てから町人の服装を見てみると、普通に常識的な格好だけれども。
私は
太ももどーーん!!
背中ばーーん!!
肩すっぱーーん!!
ワタリさんだって
胸元のすごく広い服装だった。
視線を巡らせると男女問わずこちらをなめまわすように見てきていた。
まあ、女性はワタリさんを見ているのだろうけど。
くそう、いきなりとても恥ずかしくなってきた。
旅装そろえる時は絶対露出の低い服を買わないと。
視線に耐えながら、割と店舗が立ち並ぶ通りを歩いているとあることに気が付いた。
やたらとエルフの里との交易品を扱っている店が多いんだけど。
どれもこれもとてもいい値段がする。
いつもワタリさんがやたらといいものを持ち帰ってきていたけれど、エルフの作った工芸品とか装飾品は
なるほど、かなり良い稼ぎになっていたみたい。
その中でも風布は群を抜いて高価だ。
今私の着ている服は風布で作っているし、インナーとかソックスは実は風絹だ。
さらに大きな風絹の布を折りたたんでマフラーみたいに首に巻いている。
私の身ぐるみをはいだらお屋敷くらい建つかもしれないな。
「あ、あれはボクの作った髪留めだ。」
とある店舗の前で見覚えのある髪留めを見つけたので思わず声に出た。
ちょっとうれしくなって眺めていたんだけど、後ろから急に男の人に声をかけられた。
「し、白いエルフの子、それを君が作ったって本当かい?」
「え?う、うんそうだよ」
あれ、この人さっきから私のことを見ていた人かな。
その人は何やら真剣な顔をして、店に近づいていった。
「店主、これをもらおうか。」
なんと男の人が私の髪留めを買ってくれるみたいだ。
気に入ってくれたのかなとみていると
「ちょっとまて、それを作ったのがあの子だとしたら、譲るわけにはいかねぇな。」
違うお客さんが待ったをかけた。
「なんだよ、こいつは俺が先に買おうと。」
「待て待て、それは今俺も買おうとしてたんだ。」
「いやーそいつは俺が取り置きしておいてもらったものなんだよ悪いなははは」
「ふざけんなよ、それは……」
みるみるうちに私の作った髪飾りにお客さんが群がっていった。
ていうかそれ女性用のつもりで作ったんだけど……
かなりの男の人が群がってきたところで、さっきまで様子を見ていたらしい店主がやってきて
「いやーすいません。この商品値段つけ間違えてましたよー」
とか言いながら値札にゼロを一つ追加した。
「なっ!!このオヤジ足元見やがって。」
「ふざけんな十倍とかありえねぇだろ」
「そうですか、いやー別にいいんですよ、あなたたちが買わなくても買ってくれそうな人はいるでしょうしね。」
「ぐぐぐ、しかしこれを買ってしまうと今月の食費が……」
「おや、売れ残ったらあの子がかわいそうですねぇ せっかくあのかわいらしいおててで頑張って作ったというのに。」
うわ、こっちまで利用してきた。
「畜生!!俺が買うよ」
最初の男の人が私から見ても明らかにぼったくりの値段での購入を決めた。
ていうかさすがにここまで見ていてわかった。
このやけに高い工芸品の理由は、出来以上にエルフが作っているっていう付加価値からくるものなんだろうと。
ようやく目当ての店にやってきた。
ワタリさんは、さっき私が店の騒動を眺めていた間にさっさと持ってきたものをお金に換えてきていたみたいだ。
そしてそのお金をそのまま私に渡す。覗くと金貨が数枚入っていた。
結構な大金のはずだけど。ほんとにこの町ではエルフの作ったものはいい値段になるみたいだ。
「それは君の作ったものを売ったお金だから、君が自由に使うといい。
旅に必要なものはさすがにボクも詳しくないから。店の人に聞きながら買い物をするんだよ。」
「わかった。」
「すいませーん」
そうと決まればまずは真っ先に
「体をすっぽりと覆える服はありますか?」
身の安全を確保しななければ。
旅の準備も整い、ついに町を出る時が来た。
今の私はまるでローブのように体を覆うことのできるコート(一応旅人御用達らしい)をきて、腰のベルトには、収納の魔法がかかったアイテムポーチが付いていた。
このポーチは一応前世のキャリーバックくらいのものが入れられるらしく、これだけで金貨が一枚無くなった。
中には保存食や水の小樽、野営のための装備やロープなどの道具が入っている。
それ以外に自衛のためのナイフが体のあちこちに。
「まず最初はこのあたりの一番大きな”国”を目指すんだ。
他の国へ行くには許可証が必要なんだけど、どの国の国民でもないボクたちがそれを手に入れるのに
一番早いのは、冒険者ギルドに所属してランクを上げることだ。
ある程度のランクに上がれば護衛依頼のために、国家間の移動が自由になるそうなんだ。」
ワタリさんが仕入れた情報を教えてくれる。
ハナ姉たちがどの国にいるのかはまだ分からない。
この世界で、国にはそれぞれ守護している神様がいる。
おそらくみんなは、私たちをこちらに送った女神が守護している国にいるはずだ。
その神様の名前がそのまま国の名前になっているそうだ。
でも、私は私を転生させた女神の名前を聞いていない。
だから、確実にあの女神様がかかわっている場所へ向かうことにした。
世界の割れ目
魔獣が現れ、神々に封印された場所。
いま、その場所には封印の下へ潜れるダンジョンがあるらしい。
ダンジョンは利益を生む。
今そのダンジョンを囲むようにして町が存在していて、その町はすべての神から少しずつ守護をもらって
成り立っているらしい。
多分女神ならば私が自分の守護下にある場所に行くことさえできれば、私を見つけてくれる……かも
だから、私はそこへ向かうことにした。
まずは一番近い国、『フェリウス』へ
「じゃあね、ワタリ ここまでありがとう。」
「気を付けるんだよ。あ、あとこの町は大丈夫だけど、他ではエルフってことは隠した方がいいよ
ただでさえ女の子の一人旅なんだから。」
「分かった。」
ワタリに最後に挨拶をし、森とは反対側の町の正面から道に出る。道の左右には森が広がっているが、
そこはもうエルフの領域の森ではない。
最後に一度だけ振り返ると。
「うわぁ」
こちらに向かって手を振っているワタリはいいんだけれど、町の門の上に大きく看板が立っているのが、今更ながら見えた。
『おいでませ もりの えるふ にあえるまち エルフスキーの町へようこそ』
この町は徹底的に私たちを利用していた。
村の文献は偏っていたようで、それで共通語を学んだエルフはもれなくボクっ子になるようです




