旅立ち
すべて思い出した。
私はあのバス事故で死んで、女神様に異世界に送られる直前に妙な腕につかまれて穴に引きずり込まれてしまったんだった。
だとしたら、この世界は果たしてハナ姉たちが送られた異世界と同じ場所なのかも怪しいのかもしれない。
いや、でもあの腕が出てきたのは女神様が異世界につないだといっていた直後だった。
きっとあの瞬間だったからこそあの妙な腕はあそこに現れたんだ。……と思う
とりあえず、ここはハナ姉たちのいる世界だと考えよう。
シロ―雪は、シンメと読んでいた本のおかげで失われた記憶を取り戻していた。
思い出した以上、のんびりしているわけにはいかない。
きっとハナ姉たちも心配して、私のことを探しているはずだ。
あれから一年も経ってしまっている。
私の方から会いに行かないと。
どうやら記憶が戻った時から、今まで寝込んでしまっていたらしい。
少し前までシンメがいたようだけど、外も暗くなっているし帰らされたらしい。
心配させちゃったみたいだな。
少し悩んで、シロは村長達にすべて打ち明けることにした。
「村長、話があります。」
「ふ、うぅむ……異世界の戦士、シロがなぁ」
「しかし、それならシロがあんな場所で一人でいた理由も、他のハイエルフたちがシロのことを知らなかったことも納得できますな」
「でも、女神は私たちエルフには干渉しないはずなんじゃなかったの?ましてやハイエルフだなんて。」
今、村長の家には村長、ツルギ、ツナギの三人に集まってもらっていた。
やっぱり話すのなら、最初に私を見つけたこの三人に、と思ったからだ。
「私はあちらで死んで、こちらに来るときに生まれなおすという風に聞きました。
多分女神様の管理下から外れて、たまたまエルフとして生まれることになったんじゃないかと。」
「まあ、女神に含むところがあったとは思わん。それよりシロよ、記憶が戻った今、どうするつもりじゃ?」
「シロちゃん、たとえあなたが異世界の戦士だったとしても、今は同族。
私たちの家族であることは変わらないわ。」
三人は純粋な一族ではなかった私のことも受け入れてくれるそうだった。
とてもありがたいことだと思う、けれど。
「私は、一緒に召喚されていたはずの姉たちに会いに行こうと思います。」
「それは、村を出て森の外に行くということか。」
村長が難しい顔をする。村長は反対してくるのだろうか。
「シロよ、おぬしのいたところではどうだったのかは知らないが、われわれからすればおぬしはまだまだ親元にいて、守られているような小さな子供なのじゃ。
そんなおぬしを一人旅立たせることは、心配でならん。とはいえ、一緒についていってやれるほどわしらは外の世界を知らぬ。一番知っているワタリですら、せいぜい一番近い町くらいじゃ。」
つまり、行くのなら一人で行くことになる。
そこは最初から覚悟していたことだった。
「私は、もう一人でも戦う術を教わりました。危険なことも多いでしょうが、
対応力で言うならこの村の中でも随一の自信があります。」
「うぅむ。確かにそうじゃが……」
「シロ、わかっているとは思うが。森を出たなら精霊魔法はほとんど使えなくなるぞ。」
「うっ。わ、わかってるよ、ツルギ」
そう。エルフの切り札の精霊魔法は森の中という力が潤沢にある場所だからこそ存分に使えたものだ。
森の外では対して使えないはずだ。
「幼児の姿で旅をするわけにもいかないだろう。おそらく常に適化を使い続ける必要がある。
そうすると、シロ自身が発する力すらほとんど残らない。」
だとすると、私が使える武器はかなり制限されてしまう。
主にナイフが主流になるのかな。
「わかってる。覚悟の上だよ。」
「そうか。なら私たちからは何も言うまい。」
「待て待て、わしとしてはこんなに小さなシロを外に放り出すなど……」
「シロは小さくても、すでに一人前の証を持っています。それもいくつも」
私は魔獣を倒して作った証のほかにも、職人さんたちから認められた証をいくつも手に入れている。
「一人前と認められた以上、そこからどう過ごすのかは本人にゆだねられるものなのでしょう。」
「むむむ、確かにのう。……よしわかった、わしもシロの旅立ちを認めよう。」
とりあえず、村長達の説得には成功した。
「でもシロちゃん。一緒には行けないけど、せめて私たちにも旅の手助けくらいはさせてね。」
ツナギが私を抱きしめながらそう言った。
善は急げ、と私は早速旅の準備を進め、数日後には旅に出る準備を終えた。
ワタリさんと一緒に近くの町までついていき、そこから私は旅に出ることになった。
「シロ、これを持っていけ。」
ツルギが私にブローチを渡してきた。
中心に玉虫色に光る鉱石がはめ込まれた不思議な光り方をするものだった。
「風絹の洞窟の鉱石を使っている。いくらか精霊の力をため込んでおける。それがあれば、森の外だったとしても少しだけでも精霊魔法が使えるはずだ。」
なるほど。あそこの壁は祝詞で力を集めた時も、しばらく光続けていた。
それを利用したものなんだろう。
「シロちゃん、これも」
ツナギさんも、私に小さな鈴を渡してくれる。
「私たちエルフが、聖域の影響のある森同士を行き来するために使う鈴よ。条件さえ整えば、普通の森の中からでもその鈴を使って、いつでもとはいかなくても戻ってくることができるはずだわ。」
「ありがとう。二人とも」
二人に礼を言う。
二人以外にも村のみんなが見送りに来てくれていた。
「うう~グスっ いきなりいっちゃうなんて~」
「ごめんねシンメ。できるだけ戻ってくるようにするからさ。」
村では一番年が近かったシンメが、いきなりの別れに泣きじゃくりながら手を握ってくる。
私が来るまでは、一番年下だったこともあって。私のことをことさらかわいがってくれていた。
そのあとも職人さんや、風絹織の被害者仲間のみんなとも別れの挨拶を済ませる。
そしてついに旅立ちの時がやってくる。
「じゃあ、シロちゃん。行こうか」
ワタリさんが私に最後の確認をする。
私は振り返って村を眺める。
一年しかいなかったけれど、この村がこの世界での私の故郷だ。
「行ってきます。」




