異世界への選択
ヒロ君は別にかませ要因とかじゃなく、普通にいいやつのはずです。
姉が取られた気がして弟妹として気に入らないだけで
目が覚めると不思議な空間にいました。
真っ白な床にどれだけ見渡しても果ての見えない景色。
上を見上げると夜の星空のようだけど、明らかに大きすぎる星がいくつも浮かんでいました。
「雪ちゃん、起きたの?」
どうやらハナねぇに抱きかかえられていたみたいで、ツキにぃと一緒に私の顔を覗き込んでいました。
眼鏡が無くなってますね。さっき吹っ飛んだ時にどこかに飛んで行ったみたいです。
あれ、でもよく見えているような……
起きたのは私が最後みたいです。さっきまでみんなでここが何なのか調べていたみたいですけどよくわからなかったそうです。
「やっぱり、私たちはあの時バスと一緒に峠から落ちたはずなのよ。」
ハーレム要因のなかの一人がつぶやきます。
私も落ちるところは覚えている気がします。
どれくらい落ちたのかわかりませんが、あれが事故ならみんなけがをしている様子もないのは不自然な気がします。あと、なんとなく全員体が光っています。
運転手さんが青い顔をして話します。
「事故は確かにあったはずなんです。急に鹿か何かが飛び出してきて……思わず急ハンドルをしてしまったんです。ああ、私はなんてことを……」
そういったきりうつむいてすすり泣いてしまいました。
『どうやら全員の魂が揃ったようですね。』
急にこの場所に響いたその声に、その場の全員が驚いて周りを見渡します。
老夫婦が何かに向かって拝んでいる姿を見て、その方向を見ます。
……なんでしょうね、その方向にはいかにも女神でございますとでも言いそうな神聖な見た目をした女性が、
空からゆっくりと後光に照らされながら降りてきていました。
『私は女神。あなたたちには異世界に行ってほしいのです。』
そりゃあその見た目で女神じゃないはずがないでしょう。
あと、話を端折りすぎです。
「なんだって!?女神さま。異世界とはどういうことです。」
私たちが唖然としている間に、ハーレムさんが代表で質問してくれました。
そこからハーレムさんと女神さまの質疑応答が始まりました。
まとめると。
私たちのいた世界とは違う、剣と魔法のファンタジー異世界が存在します。
そちらの世界で召喚が行われて、女神はそれに答えてこちらの人間を召喚しようとしています。
普通は生きている人を送ることが多いけれど、今回そのタイミングに重なって私たちが事故死しました。
折角なので私たちに選択肢を与えることにしました。
一つはこのままこちらの世界で死亡し、輪廻に戻ってすべてを忘れ、赤ん坊からやり直すこと。
そして、今の記憶などを引き継いで、召喚に応じて異世界に行くこと。
その場合は、私たちの体はすでにないため、あちらの世界に行く前に体をあちらのもので作り直す。
(異世界の病原菌の耐性とか、生まれたであろう場所での言葉とかが分かったりするようになるそうで、
女神としてもそちらのやり方の方が、ただ送るより楽らしい。)
割とハーレムさんの質問が効率的でなかなか情報がまとまってきました。
優秀なんでしょうが、やけにこの状況に生き生きしている気がします。男の子ですね
あ、そういえば……
「あの、もし異世界を選んだとして、私たちはそこに行って何をすればいいんですか?」
私も質問します。
目が覚めてからなんとなく離してもらうタイミングがなくて、いまだに私はハナねぇに抱えられてます。
『私からは何かをしてほしいと頼むことはありません。召喚主の願いを聞いてもらってもいいですし、
断って異世界を楽しんでもらっても構いません。』
女神さまが言うには、女神さまの目的は魂をあちらに送ることまでで、あちらの世界の人と目的がうまくかみ合ったから召喚に手を貸しているだけだそうです。
別に召喚が行われなくてもちょくちょくこちらの転生直前のまっさらな魂を送ったりもしているそうです。
なぜわざわざ異世界に魂を送るのかというと、問題がある世界は向こうではなくこちらの世界で、魂は転生を繰り返しながら成長していくものなんだけど、
何故かこちらの世界では人間という段階まで魂が成長すると、そこを頂点だと思い込みそれ以上の成長をしなくなってしまう、ということが起きているそうです。
本当はもっと成長できるはずの魂が、成長を止めて しかも年々爆発的に人間が増えていっている世界の状況は、女神さまたちからするととてももったいないそうなんです。
だから人間以外の強い魂を持つ存在のいる世界に送り込み、成長を促したいそうです。
『まあ、そのあたりはあなたたちの来世のことになるので、あまり気にしないでもらっていいでしょう。』
『では、そろそろ選択してください。異世界に行くのか、それとも残って輪廻に戻るのか。』
異世界ですか。
現代日本に生きてきた私たちには、危険なことがありそうな異世界は厳しいものになるかもしれません。
これまでの生活に未練だってあります。私はやっと中学生になったところで、まだまだこれからいろんな楽しいことがあったはずなのです。
でも、
視線を上げるとハナねぇと、ツキにぃの二人と目があいました。
残ることを選ぶと、この二人とも二度と会えなくなってしまいます。
本来なら私たちはあの事故で死んでしまったので、選択肢をもらえているこの幸運を考えると……
うん、離れ離れなんか考えられません。
「私は、二人とまだ一緒にいたい。」
「「雪」ちゃん」
二人は、その言葉で決意を固めてくれたみたいで、三人でうなずき合いました。
すると、ハーレムさんたちも決心したようで、
「ハナ、俺たちと一緒に異世界に行こう。」
「ヒロ君……うん私、みんなと一緒にいくよ。」
と、ハーレム要因たちと一緒にうなずき合っていました。 イラッ
私たちは異世界行きを決意しましたが、老夫婦と運転手さんはいかない選択をしたようです。
見事に学生たちだけが異世界行きを決めた形になりました。
「わしらはもう十分生きた。今更新しい生活を選ぶほどの気力はないよ。」
「もういつお迎えがあってもおかしくなかったですからねぇ。生まれ変わってもまた一緒になりましょう。」
「なんじゃお前、これだけ長いこと顔を突き合わせてたのに、まだ一緒にいたいっていうのか。」
「これだけ一緒にいたんですよ。今更いなくなられると落ち着きませんよ。」
なんだかウルっときました。
私たちは離れ離れになりたくないと嘆いていましたが、老夫婦は一緒にいられると信じているみたいです。
あの二人は生まれ変わっても一緒になってほしいです。
「私も、もう会えないといっても家族はこっちにみんないるからね。
それに私の起こした事故でみんなを死なせて、そんな私が新しい人生をのうのうと生きようとはどうしても思えないよ。」
やっぱり事故を起こしたことで、自分を責めていたようです。この場所に来てからもずっとつらそうにしていました。
私たちには運よく選択肢が与えられて、ここにいる人たちは誰も彼を責めようとはしません、それでも彼は異世界に行ったとしても自分を責めてしまうのでしょう。
『わかりました。あなたたち三人は元の輪廻に戻ってもらいます。』
三人の体の光が強くなり。輪郭がどんどんぼやけていきました。
最後には炎のような形になって女神さまが示した光に吸い込まれていきました。
『あなたたち七人は異世界へ行くことを了承してくれるのですね。』
私たちはそれぞれの顔を見渡した後、しっかりとうなずきました。
『では、あなたたちには異世界へ行く前に、私からの祝福を送りましょう』
なんですかそれ。 初耳です。
『折角の異世界です。あなたたちも簡単に死んしまってはつまらないでしょう
ですので、祝福という形で特別な力を与え、生き残りやすいようにしましょう。』
いや、つまらないというか……
『祝福の内容は、あなたたちの深層心理から望みを読み取って、それに沿うものを与えます。』
そう言うと、女神さまはこちらに手をかざしました。
ぴきんと体が動かなくなって、頭の中に女神さまの声が聞こえます。
『異世界では自分の力は隠しておくものです。
それぞれの力の内容は本人にのみ伝えます。信頼できると思った相手にだけ教えてあげるといいですよ。』
ユキ
望み
:この中で一番小さいから早く成長してみんなの役に立てるようになりたい。
加護
:成長促進
効果
:ありとあらゆる技能の取得に大きな補正。
肉体の成長を早めるのは後々問題になりそうなので女神の独断で技能への補正へ
職業補正
:加護自体が補正の強化なのでなし。
急に頭に妙な情報が出てきました。
これが私の加護なのでしょう。
他のみんなは……
伊花は女神と声を出さずに会話していた。
『聞きたいことはわかっている。お前の妹のことだろう。』
「雪は、異世界に行ったら助かるんですか!!」
『問題ない。異世界に行った時点で彼女は別の体で生きることになる。
脳の腫瘍はもう彼女の中にはない。』
「っっ! よかった……」
雪本人には教えられていなかったが、彼女は病魔に侵されていた。
急な視力の低下や、突発的な頭痛もそれが原因で、医者にも数年以内には、と余命宣告されており。雪以外の家族全員が悲しみに嘆いていた。
両親とは悲しい別れになってしまったが、弟妹たちと別れることが無くなったことは、特に雪の死を回避できたことは、こんなことを言っていいのかと思うが、うれしい誤算だった。
『さあ。お前にも加護を与えよう。なるほど、妹思いのよい願いだ。』
イハナ
望み
:大切な人に何かあったら今度こそ治してあげられるように……
加護
:全能治療
効果
:一日に一度だけ、どんな怪我・病気も必ず治せる治療術を使える。
職業補正
:治療師関連の技能の習得に補正
夏月も同じ内容を女神と話していた。
「そっか、雪。よかったなぁ」
少し涙ぐんでしまう。
彼も思春期に入って家族が疎ましく、少しぐれかけていたのだが 雪のことがあり、家族が自分にとって
どれくらい大切なものなのかを知った。
ナツキ
望み
:何事にも動じないくらい強い男になって大切な家族を守りたい。
加護
:不遮
効果
:五分間に一度発動可能、三秒間だけありとあらゆる動きが遮られない。
遮ろうとしたものは容赦なく押しのけられる。
職業補正
:防御、格闘関連の技能の習得に補正
ハーレム野郎ことヒロ君は、物語の中のような出来事に期待で胸を膨らませていた。
「まるで主人公みたいだ。どんな冒険が待っているんだろう。」
『ふふふ。あなたが一番異世界を楽しめるのかもしれませんね。
あなたには期待してもいいかもしれません』
ヒロ
望み
:折角だから派手で強い力がほしいかな
加護
:断空
効果
:一日に三度、視界の中すべてを切り裂く斬撃を放てる。
職業補正
:戦士関連の技能の習得に補正
以下、ハーレム要因の三人の加護は割愛。
全員に加護を渡した後、女神はユキ、という少女を眺めた。
(彼女は、加護には関係なく生まれつき莫大な魔力と大いなる魔法の才能を持っていますね。こちらの世界ではなんの意味もない才能ですが。これから行く世界ではどんな風にその才能を伸ばすのでしょうか。)
目的は魂を異世界に移すことだけといっても。その世界の様子を見るのは神々にとってとても楽しみなことだった。
今回の転移者たちは、みんな面白そうな子が揃っている。
女神は彼らを送るための魔法人を彼らの足元に展開する。
『では、そろそろ皆さんを異世界に送りたいと思い……?』
女神は急にこの空間に違和感を覚えた。
空間の一部にひずみがあるようなのだ。
「女神さま?」
急に言葉を止めた女神を不思議そうにみんなが見つめる。
と、突然ガラスが割れるような音とともに、白一色だった空間が割れて黒い影が這いずるように出てきた。
『っっ!!何者かがこの召喚に干渉しようとしています。急いであなた達をあちらに送ります!!』
影が雪たちの方に迫ってくるのを見て、女神が慌てて召喚陣の発動を早める。
どうにか間に合いそうだと女神が思っていたとき、急に影が形を変えて、巨大な腕のように姿を変えた。
その腕は勢いを増して雪たちに迫り、いまだに伊花に抱えられたままの、その場で一番強い魔力を持った雪を、その腕の中から奪い去った。
「きゃあああ!!」
「っっ!!雪ちゃん」
「雪!!」
伊花と夏月は雪を取り返そうと手を伸ばすが、そのタイミングで陣が発動し、彼女らを異世界にとばした。
「「ゆきーーーー!!」」
『いけない!!』
女神は、雪をつかんで出てきたひずみに引きずり込もうとしている腕に向かって加護を込めた力を飛ばす。
バチィ!!
さすがに女神の力を受ければ耐えきれなかったようで、腕はちぎれた。
しかし雪はすでにひずみの中へと取り込まれてしまっていた。
ひずみはみるみる閉じていき、そんなものは最初からなかったとでも言うようにもとのように消えてしまった。
『くっ、間に合いませんでしたか。おそらくは彼らの仕業でしょうが。ここにまで干渉できるようになっているとは思いませんでした。』
女神はどこか感心したように相手の手際を評価した。
『おそらくは、彼女を彼らのもとへ連れていかれることは回避することはできましたが、私とのつながりを断ち切られてしまったようですね。』
これでは彼女へ与えた加護は、大きく力を失うことになるでしょう。
『しかし、とっさに彼女に加護の力を大量に込めたものを打ち込めました。つながりがなくてもしばらく加護の効果を得ることができるはずです。』
しかも大量に込めたために、本来の効果の何百倍もの効果を得た可能性もある。
『しかし、私とのつながりがない以上、効果は一時的なものでしかないでしょう。
もって一年、といったところでしょうか。
彼女の才能を見れば、それだけの時間があれば膨れ上がった加護の力で強力な魔法使いになることは可能なはずです。』
女神はそう願い、先に送った彼女の姉たちに神託として起こったことを伝えるのだった。
女神は思いもしなかった。
まさか女神の加護からはじき出された雪が、神々の保護下にある種族以外に転生するなんて。
まさかそれが、偶然にもエルフの王族であるハイエルフだなんて。
まさか雪が、はじき出された衝撃で記憶を失っていたなんて。
まさか雪が、女神の見た自分の才能に、全く気が付かなかったなんて。
まさか雪が、精霊魔法という、エルフであれば才能なんて関係なくつかえる魔法以外を学ばないなんて。
まさか雪が、一年という猶予をすべて、エルフとしての技能を習得するために使い切ったなんて。
まさか雪が、…… …… ……
説明をできるだけ入れていたら
メインキャラ(予定)たちの存在感が薄くなってしまいました。




