参佰拾捌
《今から遊びに出掛けるぞ》
という電話越しの珋二さんの声に、耳から離したスマホで時間を確認した。
午前6時。日曜日の朝だ。
寝ぼけつつ応じたら、しばらく休みは取れないからと珋二さんは話した。
別に行く理由は何だって良いし、一緒にいて苦になることはないからそれで良いと思う。
だけど、いつもはもう少し遅い時間から出かけるため、急な予定にわたしは慌ててベッドから飛び出た。
下で待ってくれていた、最近わたしの送迎役を担っている車に近付く。
後部座席の扉を開けようとしたら、先に向こうから開いた。
中から出てきたのは椎名だ。
ゆっくり驚いている暇も与えられず、珋二さんと椎名の真ん中に座らされる。
「な、なんでいるの!?」
「テーマパークと言えば、僕でしょ?」
左側の椎名に問い詰めると、相手はニヤッと笑った。
「冗談っぽく聞こえない……。──ねえ。今度は、あんな閑散としたところ嫌だからね!」
反応に困って苦笑を返し、今度は右側の珋二さんに顔を向ける。
なんだか嫌味のように聞こえるかもしれないけれど、わたしだって必死なのだ。
通話を切る直前、どこに行くつもりなのかと聞いた。
ただのテーマパークだと返されてから、顔を合わせた今でもずっと不安は消えないのだ。
今回は別の場所に行くらしいけれど、人気のないテーマパークはもう懲り懲りだった。
目に光のないパンダの乗り物とか、錆び付いていて回る度に軋む音が聞こえるコーヒーカップのアトラクションなんかは、もう目にしたくない。
体感した人ならきっと分かる。あれは結構トラウマになるのだ。
まともそうなアトラクションがお化け屋敷しかなかった点も、ちょっと恐怖ものだった。
まあ。そこで悠二くんの可愛らしい一面が見れたから、楽しむことはできたけれど。
ただ、あの日は色々あった。
椎名とはじめて会った日だ。
悠二くんと強引に肩を組んだ彼は、その後、友人に戻りたいだけだと言って接触してきた。
実際は珋二さんのことを陥れようとした組のところで協力していたらしい。
椎名は梓先と梓会の敵だった。さいしょは。
1度目のテーマパークを思い出していたけれど、思考を切り替えて隣の珋二さんを少し咎めるように見る。
今から行くところは、ちゃんと大勢の人が楽しんで過ごしている場所がいい。
明るくて心弾むような雰囲気が充満しているかどうかは、ものすごく重要なことだ。
ほんの一瞬わたしの顔を見つめた彼は、ふい、と顔を逸らした。
「あれは、……あの時は仕方なかったんだよ」
「なんで?」
「いや……、えっと……」
「……」
「……」
沈黙する珋二さんは少しだけ悲しそうな、でも寂しそうにも見える表情を浮かべた。
この人が、何の考えもなく行動するはずがない。
むしろ理由に薄々気付いてしまったから、わたしも同じように黙ることしかできなかった。
確かに、あの時の梓先はそれどころじゃあなかったのだろう。
遊んでいる場合でも、楽しんでいる場合でもなかったはずだ。
珋二さんの次期総頭の問題だか何だかが付きまとって、今でもまだ解決はしてないのだと思う。
わたしの想像も及ばない忙しさに見舞われている彼らが、今までも、そして今日も時間を割いてくれている。
感謝こそすれ、というやつである。
だから特に怒ってもいないし、責めるつもりもない。
でも、やっぱり、1年前にも行ったあの場所は嫌だ。
良い思い出だけで終わることが出来なかったから。




