参佰拾壱
いくつか借りた映画の一つを見ながら、片手間に考えごとをしていた。
いや考えごとをしながら、片手間に映画を見ていたと言うべきか。
どっちにしたって、目の前のことに集中していなかったことに変わりはない。
「おい、おいって──。聞いてんのか……? おーい」
「……。え? 何だった?」
珋二さんとその子弟だけが出入りできる離れの一角。
彼の声で意識を今に戻すと、目の前の真っ白いスクリーンの垂れ幕は映画を見る際の本編再生や設定といった初期画面を、まるで時間がそこで止まったかのように映し出していた。
「もう終わったぞ。次はどれにするんだ?」
「あ、うん……」
直前に何を観ていたのか分からない。まだ観てないものがどれかも分からない。
望んだ過ごし方なのに、隣にいる人も忘れて別のことばかり考えている。
「んだよ。今日は乗り気じゃあねぇみてぇだな」
「いいえ。そういうわけでは」
「嘘つくの下手かよ」
わたしが堅苦しい感じで応えると、彼は笑って「じゃあ次はこれな」と次の映画をセットしてくれる。
今は睦美さんのことしか頭にない、なんて言ったら、彼はきっと良い顔をしないだろう。
お前が気にかけることじゃない、とか言いそうだ。
でもそれは放置しているのと何が違うのだろう。彼女を無視しているのと同じになるんじゃあないのか。
知らないフリは、それだけは出来ない。
珋二さん達のことだって、知らないでいることなんてできなかった。
関わってくれた人たちを、自分とは関係ないと思うことなんてできない。
「なあ」
「ん?」
「今日はやめとくか」
三つ目の映画が始まって、内容は中盤くらいに差し掛かっていた。
珋二さんの声は柔らかい。鋭さなんて欠片も感じない。
だから余計に罪悪感が芽生える。
「ううん、観よう」
わたしはひたすら前を向くけれど、こっちを見る珋二さんの顔が視界の端に入る。
「…………わたしから言い出したのに、ごめん」
「ま。しょうがねぇよ」
彼はディスクをゆっくり丁寧に片付けると、ソファに身を沈めた。
「そんで? 今は何に頭悩ませてんだ?」
「いや、えっと……睦実さんは──」
──わたしのことが嫌いかな、とかここで口に出せるわけがない。
彼にも、本人にも聞く前から分かることだ。
たぶん、嫌いだろう。
好きな人を取られて、その上、居心地の悪い立場になるまで追い込んだ相手を好きになる人なんていない。
わたしは、彼女にとってそういう対象だ。
「あいつがどうかしたのか?」
「なんか、いつ見ても綺麗な人だよね」
言葉を選びなおしたは良いが、切り返しとしては雑だったかなと考え直す。
珋二さんは少し言葉を溜め込むと、呆れたように息を吐いて顔を逸らした。
「ん。よし……。何かあるんなら、ちゃんと言えよ。いつでもいいから」
「うん。ありがと」
わたしが何事もないと首を振り笑うと、彼はそれ以上の追及はしなかった。




