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ヤーさんのお姫様  作者: 不知火 初子
五章 ひとりでだって強くはなれるよ
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参佰捌




昨日の女科さんとの会話を思い出しながら、『mild'S』にきた珋二さんの横顔を眺める。




伯父さんと伯母さんへの挨拶を終えて、珋二さんはすっかり『mild'S』の一員のように入り浸るようになった。



お客としての体裁は取っているみたいだが、どうやらこの辺りの土地も梓先の不動産が管理しているらしい。



後学も兼ねて、新しくこの地域を担当することになったからと、休みの日以外は毎日顔を見せている。


まあ、わたしが毎日働いてるからだと言っていたけれど。



それなら休日は何をしているのかと言えば、土曜は朝から夕方まで働き通しのわたしを迎えに来て、そのまま珋二さんの家で夜ご飯をご馳走になる。



少しのあいだ2人きりで他愛ない話をしたあと、悠二くんに家まで送ってもらう。



日曜は午前だけアルバイトなので、昼ごはんも兼ねてショッピングモールに行き、そのまま靴だの服だの鞄だのとお店を連れ回されていた。




わたしは自分に関する物欲は少ない。


身綺麗にしていたいとは考えるけれど、着飾りたいとは思わない。


去年や一昨年に買った服を着回すし、靴も流行とは程遠いものを履くし、鞄は気に入ったものを何年も使う。



着心地、履き心地、使い心地が重視。それ以外の理由で買うことはない。


特に鞄なんて、書類ケースやファイルが入るような大きくてカッチリしたものと、何十年も前から同じ形で流行の前線を走り続ける、少しだけ背伸びをしたお洒落なものが1つずつあればいい。




ずっと交際相手にしか使い道を考えられなかったのに、今になって自分に使い道を増やすなんて難しい。



そうそう直ぐには切り替えられない。



自分にお金を使うのは、何故か後ろめたい気持ちになるのだ。




なのに珋二さんは、しきりに買えと勧めてくる。


わたしは必死になって拒むのだが、スイーツのお店で夢中になっているあいだに、勝手に買ってきてしまう。


それも全部、店頭に並んでいたものやマネキンが着ていたものに惹かれて、来月のお給料で買おうかと思案し通り過ぎた物だけ。



わたしがどんな服や靴に目を留めているのか、後ろから観察しているのかもしれない。





おかげでまだ2度しか出掛けてないというのに、わたしの部屋のクローゼットは悲惨な姿になっていた。



持っているものが少ないからと、整理することに頭を使ってこなかったツケだろうか。


袋に入ったまま放置された服は、崩れる余裕もないくらいに積み重なって壁を築いている。


邪魔になるしゴミにもなるからと、箱での持ち帰りを断った靴たちは、3つの袋に分けて玄関のそばに吊るしてある。



鞄に関しては、半分怒りながら拒んだ。


さすがに使い勝手とか、容量の都合もあるから鞄だけは自分で選ばせて、と。



自分で買わせてなんて言おうものなら、買ってやるから選べなんて言いそうだ。


でも選ばせてと強くお願いしても、なら選べと返事がくる。



呆れ半分、諦め半分といった感じで、今じゃあなくていいと涙ながらに訴えると、漸く財布から取り出した真っ黒なカードを引っ込めてくれる。



じゃあ欲しいもんあったら呼べよ。


なんでも買ってやる。




そう念を押されて、もちろん嬉しい。……嬉しいけれど、ここで甘えたら、なんだか物に釣られてる気がして落ち着かない。



もっと、2人で楽しめることにお金を使いたいな……。



家で映画見るのが好きなら、ホームシアターセットを揃えてもいいかもしれない。


1つの作品に何時間も没入するのは嫌いじゃあない。



ゲームは、わたしは凄く下手だから退屈な思いをさせちゃうかもしれない。


でもそれが彼の趣味なら、頑張って上手くなる。




そんなことを考えていて、ふと気付いた事実に愕然とした。



わたしは、彼の好きなものを何も知らない……。



好きなものに囲まれて、相手の好きなものを探そうとしなかった。


彼はわたしの好きを知っているのに、わたしは彼の好きを知らない。


与えられることを拒んでばかりの自分が、今は無性に恥ずかしかった。





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