参佰参
家まで送ってもらうことは、これまで何度もあった。
珋二さんと2人きりの状況だって、これが初めてというわけでもない。
けれど最近は、常に悠二くんや柳一さんが一緒だったから。
わたしと彼しかいない今日だけは、いつもより落ち着かない気持ちでいた。
隣にいる人は、本当にこんな人間のことを好きだと言うのだろうか?
酔って醜態をさらした女が?
むかし好きだった男にお金を渡す、馬鹿な女のことが?
後悔して自分自身を嫌うばかりで、特別なことをした覚えなどない。
「あの……」
「……俺は……お前が良いんだ。それを忘れるなよ」
こちらの戸惑いを感じ取ったのか、息を整えるように間をあけた彼は、真剣な瞳を向けてくる。
わたしの不安や疑問が消えたわけじゃあないけれど、珋二さんの言葉で浮かれそうになる自分を、不思議と嫌いにはなれなかった。
そういえば、女科さんの家で言われた時も、ちょうど今の暖かい季節だ。
そっか……もう一年経つんだ。
何もかもがそのまま未来へ繰り越したみたいに、あの瞬間の空気が車内にも流れているような気がする。
彼の想いを聞いて、限りも設けず待たせるだけ待たせて。
それでも、想い続けてくれているのだ。
「珋二さん。ありがと」
「なんだよ、急に」
「ううん。なんとなく」
視線は逸らされたけれど、薄暗いなかでも分かる。
批難の色はない。
こっちの様子を横目で窺いながら、声音はひたすらに優しかった。
「今ので笑顔になるのかよ」
「だって、こんな会話久々だなって思って」
「はあ……。わかった。これからはいつでも“こんな会話”に付き合ってやるよ。お前の好きな時に連絡くれたらいいし、いつでも会ってやるから」
「ふうん?」
「んだよ?」
「だって、あの夜のお店には行くんでしょ?」
「まあな。仕事だから仕方ねえだろ」
「そっちが行くことに言及してるんじゃあなくて、わたしが夜飲みに出かけたときに何か言われるんじゃあないかってことを危惧してるんだよ」
「………………言う。行くなよ」
「むり」
──即答かよ、という声が聞こえた気がしたけれど、あまりにも小さかったので聞かなかったことにした。
わたしの家の前に着くと、彼は大袈裟に息をこぼす。
「いやー、待たされたわ」
珋二さんがニヤリと笑うから、わたしも口の端をあげて笑った。
まさか浮かれている上に照れているなんて、相手には知られたくない。
「はいはい。お待たせ」
「よし、じゃあ挨拶だ」
ふざけながら応えると、相手は突拍子のないことを言う。わたしにとっては、予想してなかった言葉だ。
「ん? 誰に?」
「お前の親父さんたちに決まってんだろ。報告だよ、報告」
「え、報告って……するものなの?」
「え?」
「え?」
一応、付き合ったことになるのかな……。
まだ実感なんて何もないけれど、わざわざ実家に行くと言うのだ。
わたしでは推し量れない大事な用事がきっとあるのだろう。
「するだろ。つーかお前、俺の女なるんだろ?」
「え? もしかしてそういうこと? 婚前恋愛ってこと?」
「…………違うのかよ」
「あ、ううん。じゃあそれでいい」
「なんか判然としねぇな」
うん。わたしもいまいち、この関係に名前をつけられない感じがする。
「あ、そういうことなら話しておかなくちゃだね」
「ん?」
「両親の形見があるの。今度持ってくるね」
「……ああ、分かった」
あの日、すべて話したつもりになっていた。
だけど。形見だけは話せなかったことに気が付いた。
クリスマスに叔父さんからもらったプレゼント。
両親の形見のことは、珋二さんにも話しておくべきなのかもしれない。




