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第1部・ 開戦前夜、(1)フロイディア、首都フロイデントゥク、クロイゼドラウグ宮、帝国紀元211年3月4日午前11時20分

 ヴィオング外相は紅茶茶碗を片手で揺すっていた。元首の言葉に困惑していたのである。当初、彼は元首をなめてかかっていた。ザーリップ朝フロイディア初の女帝には「扱いやすい」という前評判があったためである。しかし、女帝アンナ・カーニエ・ザーリップは、外相の方針に対して強硬に「反対」の意志を示したのである。

 「先帝陛下がお聞きになれば悲しまれるでしょうね」

 とアンナ・カーニエ、背後の亡夫の肖像画を見上げる。

 「私に、よく、砂賊を撃て(ママ)と仰っていましたから。それに、『ヴァストリアントゥオを牛耳る武装勢力に対して断固たる措置を取るべきだ』とも内務大臣が言っておりましたわ」

 外相は紅茶茶碗を受け皿に置く。

 「そのような上奏をアクスープ内相閣下がしたのですか」

 「ええ、私に言っておりましてよ」

 女帝は「君臨すれども統治せず」という中世以来の大原則を無視した。

 「もう一度、お願いいたします。ヴァストリアントゥオ3つの武装勢力すなわち、ムルドスのジョンゴン、タクジェトのジェグズイ、そしてグラゼウンの元に行き、彼らを武装解除させてください」

 「しかし……」

 「これらの勢力に自治権のみならず『国家』と認定し国家主権までを認めたのは、ほかならぬ外相閣下なのですよ。わが国民に対して行われている彼らの犯罪行為について、外相閣下に責任を取っていただきたい」

 「しかし」

 「至急、行っていただきたいのです」

 女帝は机の上の電話を取った。

 「執務室のアンナです(シヒ・ツイ・アンナ・フオイヴオ)。すぐに私の専用機を、連邦外相のために用意していただきたいのですが……。行き先? ヴァストリアントゥオの各武装勢力……だめですか。ザゾまでならよろしいでしょうか? ザゾからは……? わかりました。お願いします。……あ、もしもし連邦統合軍空軍作戦本部? 執務室のアンナです。連邦外相がヴァストリアントゥオへ向かいます。ザゾまでは私の専用機で送りますので、ザゾからダバニユまで、そちらの軍用機をお借りしたいのですが。ええ、そうです。そうです。よろしいですか? ありがとうございます。はい、どうも」

 外相は、ぼんやりと女帝の電話を聞いていた。あっけに取られる外相をよそに、女帝は、「ヴァストリアントゥオ歴訪」を次々に手配していく。

 アンナ・カーニエは白紙を一枚取り、非常に簡単な地図を描く。「フロイデントゥク」と書き、「ザゾ」と書いた二重丸の個所まで大きな矢印を引く。そしてザゾから「ダバニユ」まで小さな矢印を伸ばした。彼女は地図を外相に渡す。

 「これからすぐ、アラクリア空港へ向かってください。専用機を用意しましたので。ザゾからは連邦統合軍が、外相閣下のために軍用機を用意してくれます。早ければ今日中に現地に到着できるでしょう」

 無言で外相は、機械的に、メモを受け取る。女帝の声が、ひどく遠くから聞こえて来るように外相は感じた。

 「お気をつけて行ってきてくださいね」

 外相はそっと溜め息をつき、立礼をして執務室を出た。

 アンナ・カーニエは電話を取る、「執務室のアンナです。外相が執務室を出ました。すべて、計画通りです」


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