(2)フロイディア、某所、同年3月4日午前11時40分
Wは盗聴器の電源を切った。彼は外相のヴァストリアントゥオ訪問が気に入らない。急な歴訪も気に入らないが、彼は、連邦政府によるヴァストリアントゥオ各地への占領政策が気に入らなかったのである。彼は思う。外相のヴァストリアントゥオ訪問は、現地勢力への自治権・国家主権の追認でなければならない。女帝や側近たちの画策するような「自治権剥奪」であってはならぬのだ。Wは無線機の電源を入れた。
「こちらW。こちらW。V、諸国民の名において応答せよ」
応答は無線機からではなく、電話の呼び出し音となって現れた。
「こちらV」
「わかっているとは思うが、ヴァストリアントゥオ各勢力に対しては、自治権・国家主権を堅持できるよう、努力するのだ。分かったな?」
「非常に難しいです」
「構わぬ。彼らと密約を結べさえすれば良い。近い将来、女帝は事故死するはずだ。『それまでの辛抱』と伝えよ。……まず、ザゾからムルドスに向かえばよかろう」
「ザゾからの軍用機は、ムルドスではなく、ダバニユに向かいますが」
「その手続きは、私がやっておく」Wは受話器を置いた。
「こちらW、こちらW。M、諸国民の名において応答せよ」
空電の入り交じった弱い音声が無線機に入る、「こちらM」
「Vがそちらに向かう。予定ではそちらからダバニユへ向かうようになっているが、貴君の力で、Vをそこからムルドスへと向かわせて欲しい」
「なるほど、ダバニユに入られると、われわれからの連絡がつかないようになりますからな」
「やってくれるかね」
「もちろん、お安いごようです」
Wは無線機の電源を切り、電話の受話器を取ろうとした。いきなりドアが開き、女の子が走って入ってくる。
「おじいちゃん、遊んで」
「これ、部屋に入るときはノックをするのだぞ。もうじき12歳になるのだから、行儀作法をわきまえないと、笑われるぞ」
「……ごめんなさい」
「今度からは、気をつけるのだよ」頭髪の薄いWは、肥満ぎみの体を動かし、椅子から立ち上がった、「さあ、何をして遊ぼうか」Wは孫娘とともに外に出た。




