(11)ヴァストリアントゥオ中北部、ダバニユ空軍基地、3月6日午後3時06分
クレリックは双眼鏡をずっと見ていた。6分前にダバニユ空港を出発した第2飛行師団の偵察機は、南東の空に消えた。風がきつい。ダバニユ軍政ビル地上27階の司令官室の窓を、砂利交じりの強い風が断続的に叩いている。クレリック中将は、電動防砂シャッターを降ろした。……砂嵐になるかもしれん。
クレリック空軍中将は、今や、ダバニユ方面軍暫定総司令官を任命されていた。陸海空三軍の司令権限を与えられている。が、本来は指揮下に入るはずのない陸軍士官の一部に、強い不満を抱かれている。彼は、ジェグズイ軍が前線基地を建設しているロジェタへの侵攻命令を、政府から受け取った。だが、彼の動かせる陸戦力は微弱で、しかも攻撃目標は遠い。どうしても、空爆主体の作戦になってしまう。……これで、戦えるのだろうか?
クレリック暫定司令は、机に広げた戦略地図を凝視する。ヘリコプターに分乗した第3飛行師団空挺部隊は、シェルルードを出発、エルクシキットを制圧すべく移動中である。一方、ダバニユからは先行するS11偵察哨戒機4機に続いて、第2飛行師団の爆撃機3個大隊が、ベスメラフ、バタン、ディアダメンの町を爆撃すべく、移動中である。……現在、どの部隊も、敵軍を発見していない。
「しまった」
そう、クレリック中将は、敵軍の対空車両に迎撃される可能性を計算に入れなかったのである。空軍戦力は、既に第1戦車大隊の上空を飛び越してしまっている。そして、もう一つ。彼は、爆撃機に護衛のための戦闘機をつけていない。クレリックは、ばっと、窓に振り向く。断続的に砂粒に打たれるシャッターが、彼の目に映る。もう、砂嵐はそこまで来ている。リファノイ・レノッドカム社製のリファノイ21式戦闘機には、離陸時のエンジントラブル予防のため、防砂用のシャッターが空気取り入れ口についている。しかし、そんな飛行機でも砂嵐の中を離陸するのは不可能である。ナトラム・クレリックは三度、「しまった」と呟いた。




