(12)ヴァストリアントゥオ中北部、ベスメラフ北々西8キロ、3月6日午後3時09分
ダバニユ離陸の6分後、ディアダメン攻撃部隊隊長機に、歌声が充満していた。隊長自身が歌を歌っていて、部下が唱和していたのである。
「セリプメス・ダハ・デドナツ・ツニアガ・ノミス、デチエレス・ヴイ―カント・ロフ・ポポミス(諸国民は砂嵐に立ち向かいて、盟主を自ら選出し)……」
凱旋行進曲の異名をとる「ストイルタパス・ウクラム(愛国行進曲)」を繰り返し歌っているのである。隊長の名前はトイルタップ・ナムリム。愛国者という名前の隊長が操縦する飛行機は砂嵐にもてあそばれていて、中では「愛国行進曲」を歌っている。……皮肉な状況か? ナムリム機長は苦笑をもらした。
機体は、より一層、揺れを増す。歌声が弱まる。ナムリムはより一層大きな声で歌を続ける。
「オグ・ドラウノ、オグ・ドラウノ(前進せよ、前進せよ)
ウクラム・オト・ルオ・ユロツイヴ(われらの勝利に向かって行進せよ)!」
コクピットの右側に座る副長は、見るはずのない物を見たかのように、ふっと、右前方を凝視する。その様子に気づいた機長の歌声が小さくなった。
「ロフ・ルス・デト・ス―トルス・スレニウス・エニヴ(われらに勝利の美酒を与えよ)」
「敵地上兵力、西南に発見! 北々東へ進撃中!」副長が大声で怒鳴り、歌声は止む。機長は小声で、
「アヴイヴ・デト・フロイデイア(大フロイディアに栄光あれ)」
と歌い終わる。
レーダー士官が怒鳴る、「敵、地対空ミサイル多数、急速接近!」
機長は、無線機のマイクを取る、「全機、散開、回避運動をとれ!」彼はフットバーを踏み、操縦桿を大きく傾ける。「おい、航法士官、このコースで本当にあっているのだろうな?」
「間違いありません」と航法士官、航法コンピューターを操作して、画面を読み上げる、「あと10分足らずで、ディアダメン上空につくはずです!」
「なぜだ? なぜ、西南に敵がいる? 西南にはグラゼウン・ゲリラしかいない……」
考えられる事は、ただ一つ。グラゼウン・ゲリラの大軍がダバニユを攻略すべく、北上しているという事である。
「タミトル・トニャス(大変だ)……」
「どうします、奴らを叩いておきます?」と副長。
「それは、われわれの任務ではない」とナムリム機長、「だが、途中で出くわした敵について司令部に報告する義務はある」
ナムリムは回避運動をとりながら、グラゼウン軍上空で右旋回を始めた。
「どうだ、副長、見えるか」
「見えます。DCM六十二式対空ミサイル車両二〇台、自走砲一〇台、戦車、兵員、多数!」
「通信士、司令部へ報告しろ!」
通信士は規則どおりに、電文を暗号化する作業に取り掛かる。
「馬鹿野郎! 平文で送れ!」
レーダー士官が怒鳴る、「第2波攻撃、きます!」
トイルタップ・ナトリムは通信機のマイクをとった。
「ノイル1から各機に告ぐ、ノイル1から各機に告ぐ。回避運動をとりつつ、全機、目的地へ迎え」
彼は右旋回をやめる。
「よし、長居は無用だ」
隊長機は回避運動をとりながら、悔しがるグラゼウン軍を尻目に、ディアダメンへと向かった。




