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8 、HYDRA CHRYSALIS ―REBIRTH― 「終焉の先で、世界は再び生まれ変わる」  作者: Nao9999


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第9話 揺れる深海

海は、全てを呑み込む。


命も。

記憶も。

孤独さえも。


だが時折、

深海は“失われた声”を返してくる。


それは救いなのか。

それとも、終わりの残響なのか。

HYDRA CHRYSALIS一REBIRTH


第9話 揺れる深海


宇宙のような海だった。


静寂が広がっている。


だが完全な無音ではない。


遠くで、何かが脈打っている。


鼓動。


まるで巨大な海そのものが、

呼吸しているようだった。


玲司はゆっくりと周囲を見渡す。


白い世界。


境界の曖昧な空間。


その中心で、

蒼い地球だけが静かに浮かんでいる。


「……ここが、あんたの記憶なのか」


返事はない。


榊悠真は動かない。


黒い戦闘装甲。

崩壊しかけた蒼い翼。


そして、

どこまでも疲れ切った背中。


玲司は奥歯を噛む。


自分が知っている“英雄”とは違う。


世界を救った存在。

伝説。

最強の適合者。


そんな言葉では片付けられない。


目の前にいるのは、

ただ壊れかけた一人の人間だった。


「……なんでそこまで戦えた」


玲司の声が落ちる。


「全部背負って、

何で壊れなかったんだよ」


榊の肩がわずかに揺れる。


その瞬間。


空間へ波紋が走った。


白い世界へ、

大量の“海”が流れ込んでくる。


玲司が目を見開く。


それは映像だった。


崩壊する都市。


燃える海上施設。


深海変異体。


泣き叫ぶ人々。


終焉戦争。


大量の記憶が、

濁流のように押し寄せる。


「っ……!!」


玲司が頭を押さえる。


感情が流れ込んでくる。


恐怖。

絶望。

怒り。

孤独。


そして。


“助けて”


無数の声。


榊悠真は、

ずっとこの声を聞き続けていた。


玲司の呼吸が乱れる。


「こんなの……」


耐えられるわけがない。


人間が。


一人で。


その時。


榊が初めて口を開いた。


「……慣れる」


小さな声だった。


感情を押し潰したような声。


玲司が顔を上げる。


榊は地球を見たまま、

続ける。


「最初は苦しい」


「けど、そのうち……」


そこで言葉が止まる。


深海色の瞳が、

わずかに揺れた。


「……自分が、

何なのか分からなくなる」


玲司の胸が強く脈打つ。


それは、

玲司自身も感じ始めていた感覚だった。


海へ近づくほど、

感情が曖昧になる。


人の声が、

遠くなる。


世界との境界が、

溶けていく。


榊はそれを、

もっと深い場所で耐えていた。


完全に独りで。


その瞬間。


宇宙が軋んだ。


蒼い地球の表面へ、

巨大な“黒”が浮かび上がる。


玲司の背筋が凍る。


黒海裂界。


いや、違う。


もっと巨大だ。


星そのものへ、

黒い亀裂が走っている。


『――理解、開始』


ノイズ混じりの声。


空間全体が震える。


玲司が振り返る。


白い世界の奥。


そこに“目”があった。


巨大すぎる。


星よりも。

海よりも。


存在そのものを覗き込むような、

深淵の瞳。


外宇宙捕食者。


玲司の呼吸が止まる。


だが。


榊は振り返らなかった。


静かに立ったまま、

小さく呟く。


「……来るな」


その声は、

恐怖ではなかった。


諦めでもない。


ただ。


誰かを守ろうとする、

静かな声だった。


次の瞬間。


“目”が玲司を見た。


世界が割れる。


海が悲鳴を上げる。


玲司の身体へ、

黒いノイズが流れ込む。


「がぁぁぁぁっ!!」


膝をつく。


脳が焼ける。


存在を書き換えられる感覚。


意識が崩れる。


その時。


玲司の前へ、

榊が立った。


崩れた蒼い翼が広がる。


静かに。


だが圧倒的に。


宇宙へ、

蒼い波紋が広がった。


『……何故、抵抗スル』


深淵の声。


榊は小さく息を吐く。


そして。


ほんの少しだけ笑った。


「……うるせぇよ」


その瞬間。


宇宙が、

蒼く染まった。

英雄は、最初から強かったわけじゃない。


壊れながら。

削れながら。

それでも誰かを守ろうとした。


だからこそ、

その背中は今も海へ残り続けている。

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