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8 、HYDRA CHRYSALIS ―REBIRTH― 「終焉の先で、世界は再び生まれ変わる」  作者: Nao9999


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第10話 蒼海の記憶

海は記憶する。


人の声も。

失われた願いも。

そして、誰にも届かなかった孤独さえも。


深海へ近づくほど、

人は“自分ではない何か”へ触れていく。

HYDRA CHRYSALIS


REBIRTH


第10話 蒼海の記憶


蒼い光が宇宙を染めていた。


波紋。


無数の深海粒子が、

星々の間を漂っている。


玲司は息を切らしていた。


目の前。


榊悠真の背中。


崩れた星海翼が、

静かに揺れている。


その先には。


巨大な“目”。


外宇宙捕食者。


存在そのものを覗き込むような、

深淵の瞳。


玲司の身体が震える。


本能が理解していた。


あれを見続けてはいけない。


存在が侵食される。


だが。


榊は一歩も引かない。


「……来るな」


静かな声。


その瞬間。


宇宙へ、

蒼い波紋が広がった。


深海色の粒子が、

海流のように流れ始める。


“目”が反応する。


『――観測対象、変質確認』


ノイズ。


低い声。


宇宙全体が軋む。


玲司が耳を押さえる。


「ぐっ……!」


頭の奥へ、

黒いノイズが流れ込む。


感情が削られる。


記憶が曖昧になる。


自分という輪郭が、

少しずつ海へ溶けていく。


怖い。


玲司は初めて理解した。


深海侵食。


あれは身体ではない。


“存在そのもの”を書き換える現象だ。


その時。


榊が振り返った。


深海色の瞳。


疲弊しきった顔。


だが。


その目だけは、

まだ死んでいなかった。


「……見るな」


玲司が息を呑む。


榊は玲司へ近づく。


ゆっくり。


重力すら曖昧な空間を。


その身体は、

限界だった。


装甲は崩れ。


皮膚には、

深海粒子の光が浮かんでいる。


人間と海の境界が、

もう曖昧になっていた。


玲司の喉が震える。


「なんで……」


「なんでそこまでして戦った」


榊は少しだけ黙る。


そして。


小さく苦笑した。


「……別に」


いつか聞いたような声。


投げやりで。


でも優しい声。


「誰かが泣くの、

嫌だっただけだ」


玲司の胸が強く脈打つ。


その瞬間。


空間が揺れた。


宇宙が歪む。


蒼い地球の海面へ、

巨大な黒い亀裂が走る。


黒海裂界。


その内部から、

大量の“声”が溢れ出した。


『痛イ』


『寒イ』


『助ケテ』


『独リダ』


玲司が耳を塞ぐ。


だが止まらない。


感情。


記憶。


絶望。


終焉戦争で消えた、

無数の人間達の残響。


榊はずっと、

これを聞き続けていた。


一人で。


玲司の目が揺れる。


「……こんなの、

耐えられるわけ」


榊は静かに地球を見る。


「耐えてねぇよ」


玲司が顔を上げる。


榊の瞳が揺れていた。


孤独。


疲労。


恐怖。


壊れそうなほど、

人間の感情が残っている。


「毎日、

壊れてた」


静かな声。


「でも」


榊が地球を見る。


蒼い星。


静かに輝く海。


「……誰かが、

笑ってたからな」


その瞬間。


宇宙へ蒼い光が走った。


海が共鳴する。


地球全域の海水が、

脈動を始める。


“目”が開く。


さらに大きく。


『――理解不能』


榊が前へ出る。


崩れた星海翼が広がる。


液体と粒子の中間の翼。


宇宙へ巨大な海が広がっていく。


玲司は動けなかった。


圧倒的だった。


力じゃない。


生き様だった。


榊悠真は。


壊れながら。


孤独を抱えながら。


それでも最後まで、

人間として立っていた。


その時。


“目”が玲司を見る。


ノイズ。


黒い侵食。


玲司の身体へ、

終焉の声が流れ込む。


『継承個体確認』


『新タナ海』


『適合開始』


玲司の瞳が見開かれる。


胸が熱い。


深海粒子が暴走する。


「がぁぁぁぁぁっ!!」


絶叫。


蒼い光が噴き上がる。


未完成の星海翼が、

玲司の背中から展開した。


榊が振り返る。


その瞳が、

初めて大きく揺れた。


「……お前」


玲司の周囲へ、

海が集まっていく。


記憶。


孤独。


感情。


全てが玲司へ流れ込む。


その瞬間。


玲司の脳裏へ、

一人の女の姿が浮かんだ。


白衣。


長い黒髪。


静かな瞳。


そして。


泣きそうな顔で、

榊を見つめている。


『……ちゃんと帰ってきなさい』


玲司が息を呑む。


水城澪。


その瞬間。


白い世界が崩壊を始めた。


宇宙が割れる。


海が悲鳴を上げる。


榊が玲司の腕を掴む。


「戻れ!!」


次の瞬間。


玲司の視界が、

黒へ落ちた。

海は、全てを覚えている。


失われた声も。

届かなかった想いも。

そして、誰にも言えなかった孤独さえも。


だからこそ。


継承は終わらない。

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