第11話 流体核
終焉戦争で封印された、
禁忌兵器「蒼泡」。
それは、
ただの兵器ではなかった。
海が生んだ、
“壊れた感情”だった。
ぽよっ。
静かな病室。
蒼泡が、
玲司の足元で跳ねていた。
半透明の身体。
内部を流れる、
深海色の光。
まるで小動物。
だが。
壁は溶け続けている。
音もなく。
存在そのものが、
崩壊していた。
AQUA-7の額に汗が流れる。
「動くな……!」
低い声。
だが玲司は、
蒼泡から目を離せなかった。
胸が痛む。
心臓の奥。
原初因子が、
異常共鳴していた。
ぽよっ。
蒼泡が、
玲司の靴へ触れる。
その瞬間。
玲司の脳裏へ、
大量の映像が流れ込んだ。
白い研究施設。
警報。
泣き叫ぶ研究員。
ガラス容器の中で、
増殖する蒼泡。
そして。
一人の男の声。
『……止まらない』
『もう制御できない』
映像が切り替わる。
海。
崩壊した都市。
空へ浮かぶ海水。
その中心。
黒海裂界。
そこへ向かって、
大量の蒼泡が集まっていく。
まるで。
“帰巣本能”のように。
玲司が息を呑む。
「……なんだよ、
これ……」
EVEの声が響く。
『――記録照合』
『蒼泡は、
深海粒子へ反応する』
『高適合者へ接触した場合、
記憶共鳴を起こす可能性』
玲司が蒼泡を見る。
ぽよっ。
また跳ねる。
敵意がない。
むしろ。
怯えているように見えた。
AQUA-7が叫ぶ。
「玲司!!
離れろ!!」
その瞬間。
蒼泡が、
急激に膨張した。
空気が歪む。
深海粒子濃度上昇。
警報が狂ったように鳴る。
『危険領域到達』
『存在侵食反応確認』
玲司の瞳が揺れる。
蒼泡内部。
蒼い光。
その中心に、
“人の顔”のようなものが浮かぶ。
苦しそうに。
溶けながら。
『……タスケ……』
玲司の呼吸が止まる。
「……っ!?」
AQUA-7も固まる。
「今……
喋ったの……?」
蒼泡の身体が震える。
苦しむように。
『イタ……イ……』
玲司の胸が締め付けられる。
兵器じゃない。
これは。
“誰か”だった。
EVEの声が僅かに揺れる。
『――終焉戦争記録修正』
『蒼泡内部へ、
人間意識残留反応を確認』
沈黙。
玲司が小さく呟く。
「……ふざけんな」
怒り。
静かな怒り。
「人間使って、
こんなもん作ったのかよ」
その瞬間。
病室全体が揺れた。
ゴゴゴゴ……。
天井照明が砕け散る。
AQUA-7が通信を開く。
「こちら隔離棟!
深海粒子反応が急増してる!」
『地下反応炉が暴走中!!』
『蒼泡群が増殖している!!』
玲司の顔が強張る。
「群れ……?」
次の瞬間。
隔離棟の床が、
一斉に波打った。
ぽよっ。
ぽよぽよぽよぽよ――。
大量。
数え切れない。
床。
壁。
天井。
無数の蒼泡が、
滲み出してくる。
まるで。
施設そのものが、
溶け始めていた。
AQUA-7が息を呑む。
「冗談でしょ……」
蒼泡達が、
一斉に玲司を見る。
深海色の光。
その瞬間。
玲司の脳へ、
声が流れ込む。
『……サムイ……』
『クルシイ……』
『……カエリタイ……』
大量の感情。
孤独。
痛み。
恐怖。
終焉戦争で、
兵器へ変えられた人々の残響。
玲司の瞳が震える。
海が泣いていた。
EVEが静かに呟く。
『――これは、
終焉戦争の亡霊』
『まだ終わっていない』
その時。
施設全域の照明が落ちた。
闇。
そして。
地下深くから、
巨大な脈動音が響く。
ドクン。
ドクン。
まるで。
巨大な心臓。
玲司が、
ゆっくり下を見る。
床の奥。
深海色の光。
何かいる。
蒼泡達が、
一斉に地下へ向かって震え始めた。
まるで。
“親”へ呼ばれているように。
そして。
地下から、
女の声が響く。
『――ようやく、
目覚めるのね』
玲司の瞳が見開く。
その声は。
どこか、
EVEに似ていた。
―――続く
第11話
「流体核」でした。
終焉戦争で生まれた、
禁忌兵器「蒼泡」。
ですが、
それは単なる兵器ではありませんでした。
次回、
地下深部に眠る
“流体知性体”が姿を現します。
そして、
EVEと酷似した存在の正体とは――。




