第7話 深海の亡霊
人は時々、
“忘れられなかった想い”だけで、
存在し続けてしまうことがある。
それが救いなのか。
呪いなのかは、
誰にも分からない。
HYDRA CHRYSALIS
REBIRTH
第7話 深海の亡霊
黒海裂界が揺れていた。
空を覆う巨大な闇。
その中心。
裂け目の奥から現れた、
黒い人影。
深海粒子で構成された身体。
背中には、
崩れかけた蒼い翼。
そして。
深海色の瞳。
玲司は動けなかった。
「……榊、悠真」
無意識に名前が漏れる。
その存在は答えない。
ただ静かに、
玲司を見下ろしている。
AQUA-7が武装を構える。
「全隊、戦闘態勢!!」
だが。
声が震えていた。
EVEの瞳も揺れている。
「――違う」
小さな声。
玲司が振り返る。
「……何が」
EVEが黒い人影を見る。
悲しそうに。
「――あれは本人ではない」
黒い人影が動く。
ゆっくり。
空間を歪めながら。
その瞬間。
都市中の海水が暴走する。
ビルの配管。
地下水。
人体内部の水分まで共鳴し始める。
「うぁぁぁっ!!」
人々が苦しみ始める。
玲司の胸も激しく脈動する。
「がっ……!」
膝をつく。
頭へノイズが流れ込む。
終焉。
孤独。
絶望。
大量の感情。
「――残響侵食」
EVEが玲司を支える。
「――精神を持っていかれる!」
黒い人影が口を開く。
ノイズ混じりの声。
『……海……』
玲司の目が揺れる。
その声。
確かに榊に似ていた。
『……還レ……』
黒海裂界が脈動する。
巨大な“目”が開く。
「――回収対象、安定化」
AQUA-7が叫ぶ。
「こいつ……終焉側に利用されてるの!?」
EVEが頷く。
「――終焉存在は、
残留因子を取り込んで学習する」
玲司の背筋が凍る。
つまり。
榊悠真の残留因子が、
黒海裂界へ取り込まれた結果。
“あれ”が生まれた。
「……ふざけんな」
玲司が立ち上がる。
怒り。
胸の奥が熱い。
「死んだ人まで利用すんのかよ」
その瞬間。
黒い人影が玲司を見る。
深海色の瞳。
一瞬だけ。
悲しそうに揺れた。
『……逃ゲロ……』
玲司が息を呑む。
「……っ!」
黒海裂界の“目”が反応する。
「――自我ノイズ確認」
次の瞬間。
黒い粒子が、
人影の身体へ突き刺さる。
『■■■■■■ッ!!』
絶叫。
空間が震える。
都市中のガラスが砕け散る。
玲司が耳を押さえる。
「やめろ!!」
黒い人影が暴走する。
崩れた蒼い翼が拡大。
空を覆うほど巨大化する。
海が浮き上がる。
津波。
都市全域へ。
AQUA-7が叫ぶ。
「防壁展開!!」
NEREID部隊が水障壁を形成。
だが。
押し切れない。
「クソッ……!」
玲司が空を見る。
暴走する蒼い翼。
どこか苦しそうな人影。
その瞬間。
玲司の中で、
榊の残響が響く。
『……止めろ』
玲司の瞳が深海色へ染まる。
「……分かった」
海が共鳴する。
深海色の粒子が玲司を包む。
未完成の星海翼が展開。
「――玲司!?」
EVEが目を見開く。
玲司が空へ飛ぶ。
一直線に。
暴走する人影へ。
「うぉぉぉぉ!!」
咆哮。
水流が加速する。
その瞬間。
黒い人影も玲司へ向かって突撃した。
蒼と黒。
二つの翼が、
夜空で激突する。
轟音。
都市が揺れる。
そして。
玲司の拳が、
黒い人影へ届いた瞬間。
大量の記憶が流れ込んだ。
白い世界。
青い星。
そして。
一人で深海へ沈んでいく、
榊悠真の後ろ姿――。
―――続く
第7話を読んでいただきありがとうございます。
ついに現れた、
“深海の亡霊”。
それは榊悠真本人ではなく、
終焉に利用された残留因子の集合体でした。
そして玲司は、
その奥に眠る榊の記憶へ触れ始めます。
REBIRTH編は、
ここからさらに深い真実へ進んでいきます。




