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8 、HYDRA CHRYSALIS ―REBIRTH― 「終焉の先で、世界は再び生まれ変わる」  作者: Nao9999


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第58話 最後の選択

守ることと、拒むことは似ている。


相手を知らなければ、

その違いに気付くことはできない。


終わりを迎える世界で、

最後に問われるのは力ではなく、選択だった。

巨大な手が、境界へ触れる。


その瞬間。


NOAHの境界線が大きく揺らいだ。


バチッ……


空間が裂ける音。


海水が流れ込んでいるのではない。


世界と世界の隙間から、何かが侵入しようとしている。


『境界維持率、三十八パーセント。』


『低下継続。』


第二管理者の声が淡々と響く。


しかし、その内容とは裏腹に、記録庫は崩壊寸前だった。


「どうすれば止められる。」


悠真が問う。


青年は静かに答える。


「倒すことはできない。」


「なら……。」


「理解するしかない。」


その言葉に、悠真は眉をひそめる。


「理解?」


青年は黒海の向こうを見る。


「あれは侵略者じゃない。」


「帰る場所を探しているだけだ。」


澪は困惑した表情を浮かべる。


「でも、世界を壊している。」


青年は頷く。


「そうだ。」


「だから人類は恐れた。」


「でも、恐怖だけで判断した結果……。」


「この境界を作り、すべてを閉じ込めた。」


黒海の向こうから、再び声が響く。


『閉じ込めたのは、我々だけではない。』


悠真は息を止める。


『貴様ら自身もまた、境界の中にいる。』


その言葉の意味は理解できなかった。


しかし、胸の奥で何かが反応する。


白い実験室。


幼い自分。


泣いていた女性。


そして、榊蒼一。


断片的な記憶が繋がり始める。


「蒼一は……。」


悠真は呟く。


「最初から知っていたのか。」


青年は目を伏せる。


「知っていた。」


「だから、HYDRA計画を作った。」


「人類を守るために。」


「でも同時に、誰かを犠牲にする計画でもあった。」


少年が拳を握る。


「……僕も。」


悠真が見る。


少年は苦しそうに続けた。


「僕も、そのために作られた。」


「記録を守るため。」


「継承者が来るまで、全部を残すために。」


静寂。


悠真は初めて少年の孤独を理解した。


何千年。


何万年。


誰にも会えない場所で。


ただ待ち続けていた。


「名前は?」


悠真が尋ねる。


少年は少し驚いた顔をする。


「名前?」


「ずっと番号や役割で呼ばれてきたんだろ。」


「なら、自分の名前くらい持っていい。」


少年はしばらく黙った。


そして、小さく笑った。


「……ない。」


悠真は少し考える。


「じゃあ。」


「今から決めればいい。」


その言葉に、少年の瞳から小さな光が落ちる。


涙だった。


その瞬間。


黒海の向こう側から、巨大な衝撃が走る。


NOAHが大きく揺れる。


『境界維持率、十パーセント。』


『最終防衛段階へ移行。』


青年の表情が変わる。


「時間がない。」


悠真は頷く。


もう迷っている暇はなかった。


敵か味方か。


過去か未来か。


そんなことではない。


今、目の前で苦しんでいる存在をどうするか。


それだけだった。


悠真は境界へ向かって歩き出す。


「何をする気?」


澪が叫ぶ。


悠真は振り返らない。


「話をする。」


「そんなこと……!」


「でも、それしかない。」


青年が静かに笑う。


「やっぱり。」


「君は私とは違う。」


悠真は足を止める。


「何が。」


青年は答えた。


「私は未来を守ろうとした。」


「君は、未来を選ぼうとしている。」


その瞬間。


悠真の手が境界へ触れた。


黒海粒子が一斉に集まる。


そして――


世界の向こう側から。


初めて、返事があった。


『……なぜ。』


『なぜ、お前は恐れない。』

第58話をお読みいただき、ありがとうございました。


黒海の向こう側にいる存在との対立は、戦いではなく「理解」へと変化し始めました。


悠真が選ぶ答えは、人類がこれまで選べなかった新しい道になるのか。


第3章「黒海裂界」も終盤へ向かいます。


第60話では、この章の大きな区切りを迎える予定です。


引き続きよろしくお願いいたします。

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