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8 、HYDRA CHRYSALIS ―REBIRTH― 「終焉の先で、世界は再び生まれ変わる」  作者: Nao9999


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第56話 終末防衛機構

世界は、滅びる瞬間だけを恐れていた。


だが本当に恐れるべきだったのは、

滅びに備え続けた者たちの、果てしない孤独だった。


終末は、今も終わっていない。

『終末防衛機構を起動する。』


第二管理者の声が響いた瞬間、記録庫の空気が一変した。


ゴォォォォ……


壁面に埋め込まれていた蒼い結晶が、一つ、また一つと消灯していく。


その代わりに、床へ巨大な紋様が浮かび上がった。


幾重にも重なった円環。


そこを黒海粒子が血流のように巡っている。


「これは……。」


澪は端末を向ける。


しかし画面は真っ白になり、数秒後、文字だけが表示された。


【SYSTEM:NOAH】


「ノア……?」


その名を見た青年――もう一人の悠真が静かに目を閉じた。


「まだ動いていたのか。」


少年が驚いたように振り返る。


「知ってるの?」


「知っている。」


青年は苦く笑った。


「私たちが最後に造った防衛機構だ。」


その一言に悠真は目を見開く。


「最後に……?」


青年は頷く。


「HYDRA計画が完成した日。」


「人類は、自分たちが敗北する未来を理解した。」


「だから勝つことは諦めた。」


「代わりに未来へ繋ぐことだけを選んだ。」


その言葉と同時に、記録庫全体へ重低音が響く。


ゴゴゴゴゴ……


床がゆっくりと左右へ開いていく。


暗闇の底から、巨大な構造物が姿を現した。


あまりにも巨大だった。


円柱状の塔。


その表面には無数の紋様が刻まれ、黒海粒子が静かに流れている。


先端には蒼白い結晶。


まるで一本の巨大な槍だった。


『対終末兵装――NOAH。』


第二管理者が告げる。


『起動率、三十一パーセント。』


『管理者不在のため、完全起動不可。』


悠真は塔を見上げる。


「兵器……なのか。」


「違う。」


青年は首を横に振った。


「これは兵器じゃない。」


「世界そのものを固定する錨だ。」


「錨?」


澪が聞き返す。


「黒海は海じゃない。」


青年は静かに答える。


「境界が壊れたことで流れ込んできた"現象"なんだ。」


「NOAHは、その境界を縫い止める最後の杭だった。」


悠真の脳裏に、榊蒼一の言葉がよぎる。


――HYDRAは時間を稼ぐための檻だ。


すべてが一本の線で繋がり始めていた。


その時だった。


バキィィィッ!!


記録庫の天井が大きく裂ける。


漆黒の海水が滝のように流れ込み、空間全体を激しく揺らした。


第一守護者が両腕を広げ、崩落を食い止める。


しかし、その身体には限界が近づいていた。


胸部結晶の亀裂は肩まで広がり、蒼い粒子が絶え間なく溢れている。


『損傷率、九十一パーセント。』


『任務……継続。』


その姿を見た悠真は拳を握り締めた。


「どうして、そこまで……。」


第一守護者は振り返らない。


ただ一言だけ、静かに告げた。


『約束……だからだ。』


短い言葉だった。


だが、その一言には数え切れない年月の重みが宿っていた。


その瞬間。


黒い海水の奥で、巨大な影が動く。


一つではない。


二つ。


三つ。


さらに、その奥にも。


無数の蒼い瞳が、ゆっくりと開かれていく。


青年の表情から笑みが消えた。


「来たか……。」


「記録の外側にいた者たちが。」


悠真は息を呑む。


「あれが……。」


青年はゆっくりと頷く。


「あれこそが。」


「榊蒼一が、人類のすべてを懸けて封じようとした存在だ。」

第56話をお読みいただき、ありがとうございました。


ついに「終末防衛機構 NOAH」が姿を現しました。


そして黒海の向こう側に潜んでいた存在も、ついに動き始めます。


第3章はいよいよクライマックスへ突入します。

ここから第60話に向けて、これまで張ってきた伏線を一つずつ回収しながら、黒海裂界編を締めくくっていきます。


次回もよろしくお願いいたします。

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