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8 、HYDRA CHRYSALIS ―REBIRTH― 「終焉の先で、世界は再び生まれ変わる」  作者: Nao9999


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第55話 もう一人の榊悠真

人は、自分自身と出会うことはない。


もし出会ったのなら。


その瞬間から、「自分」という存在は問い直される。

「……俺。」


悠真の口から、かすれた声が漏れた。


黒い球体の亀裂から現れた青年は、ゆっくりとこちらへ歩み寄る。


その顔立ち。


その背格好。


その歩き方。


鏡を見ているようだった。


違うのは、その瞳だけ。


青年の瞳は、深海よりも深い蒼に染まっていた。


「そんな……。」


澪は息を呑む。


計器を向ける。


反応は一つしか表示されない。


【個体識別:榊 悠真】


「嘘でしょ……。」


澪は端末を何度も確認する。


だが結果は変わらない。


目の前には二人いる。


それなのに、システムは一人しか認識していなかった。


青年は悠真の前で立ち止まる。


静かに微笑んだ。


「久しぶりだ。」


その一言に、悠真は首を振る。


「違う。」


「俺は、お前を知らない。」


青年は否定しなかった。


「そうだろうな。」


「君は、忘れることを選んだから。」


その言葉に、少年が強く反応する。


「やめろ!」


「まだ話すな!」


青年は少年へ穏やかな視線を向ける。


「時間がない。」


「封印は、もう長くは持たない。」


第一守護者の胸部結晶から蒼い粒子が漏れ続けている。


第二管理者の鼓動も、次第に大きくなっていた。


記録庫そのものが悲鳴を上げ始めている。


青年は再び悠真を見る。


「君は知りたいはずだ。」


「榊悠真とは、誰だったのか。」


悠真は拳を握る。


「……俺は榊悠真だ。」


「そう。」


青年は優しく頷く。


「だから間違ってはいない。」


「でも、それは半分だけだ。」


澪が思わず口を開く。


「半分……?」


青年は記録庫を見渡した。


無数の結晶。


砕けた記録。


倒れかけた第一守護者。


「人類は滅びを前に、一つの決断をした。」


「一人の人間を未来へ送る。」


「記憶ではない。」


「肉体でもない。」


「――可能性を。」


悠真の胸が大きく脈打つ。


ドクン。


青年は自分の胸へ手を当てる。


「私は、記憶。」


そして悠真を見る。


「君は、可能性。」


静寂が訪れる。


誰もその意味を理解できなかった。


「私は最後までここへ残った。」


「君は未来へ託された。」


「それだけの違いだ。」


悠真は一歩前へ出る。


「つまり、お前は……。」


青年は微笑む。


「榊悠真。」


「HYDRA計画以前の、本来の榊悠真。」


その瞬間だった。


記録庫全体が激しく揺れた。


ゴゴゴゴゴッ――!!


天井の見えない暗闇に巨大な亀裂が走る。


そこから黒い海水が滝のように流れ込み始めた。


第二管理者の声が初めて焦りを帯びる。


『境界崩壊。』


『記録庫、維持不能。』


『全管理個体へ通達。』


『終末防衛機構を起動する。』


第一守護者がゆっくりと立ち上がる。


砕けた胸部結晶を押さえながら、それでも悠真たちの前へ立つ。


その背中は、まるで最後の砦だった。


青年は静かに目を閉じる。


「……始まる。」


「本当の黒海が。」

第55話をお読みいただき、ありがとうございました。


ついに現れた「もう一人の榊悠真」。


彼が語った「私は記憶、君は可能性」という言葉が、HYDRA計画の核心へと繋がっていきます。


そして記録庫の崩壊により、物語は大きな転換点へ向かいます。


次回は「終末防衛機構」が始動し、第3章最大の山場へ突入します。


引き続き応援よろしくお願いいたします。

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