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8 、HYDRA CHRYSALIS ―REBIRTH― 「終焉の先で、世界は再び生まれ変わる」  作者: Nao9999


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第52話 封印の綻び

封印とは、閉じ込めるためのものではない。


誰かが未来へ辿り着く、その時まで――

静かに時間を稼ぐための約束だった。

「封印が、壊れ始めた。」


少年の声は震えていた。


その一言が、記録庫の静寂を切り裂く。


パキッ……


オリジン・セルの欠片に走った亀裂は、ゆっくりと広がっていく。


そこから漏れ出した黒い粒子は、水中へ拡散することなく、一つの球体を形成していた。


それは光を吸い込んでいた。


蒼い結晶の輝き。


第一守護者の胸部結晶。


悠真たちのライト。


あらゆる光が黒い球体へ飲み込まれていく。


「光が……消えてる。」


澪は計器へ目を向けた。


数値が次々と異常を示す。


深海粒子濃度。


水圧。


温度。


重力。


すべてが一定ではない。


まるで空間そのものが書き換えられている。


『空間固定率、六十二パーセント。』


第二管理者の声が響く。


『維持限界まで残り百二十秒。』


第一守護者が一歩前へ出る。


その巨大な腕がゆっくりと掲げられた。


胸の結晶から蒼い光が放たれ、黒い球体を包み込む。


しかし――


ジュ……


蒼い光は音もなく消えた。


まるで存在そのものを喰われたように。


『第一封印、無効。』


機械音声が冷たく告げる。


少年は唇を噛み締めた。


「駄目だ……。」


「あれは封じられない。」


悠真は球体から目を離せなかった。


何かがいる。


姿はまだ見えない。


それでも、確かに"視線"だけは感じる。


球体の奥から、自分を見つめる何者か。


その瞬間だった。


悠真の腕に埋め込まれた生体センサーが突然点灯する。


赤ではない。


蒼でもない。


今まで見たことのない、白銀色の光だった。


『未知の適合反応を確認。』


澪が画面を見つめる。


「こんな反応……データベースにない。」


すると黒い球体が、小さく震えた。


ドクン。


鼓動。


それは悠真の心臓と完全に同期していた。


ドクン。


ドクン。


鼓動が重なるたび、悠真の視界に断片的な映像が映る。


白い実験室。


泣いている子ども。


ガラス越しに何かを見つめる女性。


そして――


『蒼一先生、本当にこれでいいんですか!』


誰かの叫び。


榊蒼一は振り返らなかった。


ただ静かに答える。


『未来に、生き残る者が一人でもいるなら。』


『私は、人類に憎まれても構わない。』


映像はそこで途切れた。


悠真は大きく息を吸う。


「あの人は……。」


「世界を壊そうとしたんじゃない。」


「世界を残そうとしていた……。」


少年は驚いた表情で悠真を見る。


「その記録が……見えたの?」


悠真は静かに頷いた。


その瞬間だった。


黒い球体へ、一本の亀裂が入る。


バキィッ!!


記録庫全体を震わせる轟音。


第一守護者が初めて後退する。


第二管理者の声が僅かに乱れる。


『封印率……二十八パーセント。』


『予測誤差、拡大。』


『……対象、覚醒。』


亀裂の奥。


完全な闇の中で、ゆっくりと"何か"が笑った。


その笑い声は耳では聞こえない。


頭の中へ直接流れ込む。


『……ようやく。』


『ようやく、会えた。』


その声は、悠真だけに届いていた。

第52話をお読みいただき、ありがとうございました。


封印は綻び始め、榊蒼一が背負っていた真実も少しずつ明らかになってきました。


彼は本当に世界を滅ぼそうとした人物だったのか、それとも世界を救おうとした人物だったのか。


そして、封印の奥から悠真へ語りかけた存在とは――。


次回、黒海裂界最大の秘密が静かに姿を現し始めます。


引き続き応援よろしくお願いいたします。

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