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8 、HYDRA CHRYSALIS ―REBIRTH― 「終焉の先で、世界は再び生まれ変わる」  作者: Nao9999


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第49話 第二の鼓動

深海は沈黙している。


そう思っていた。


だが、本当の沈黙とは、

あまりにも長い時間を待ち続けた者だけが纏うものだった。

ドクン――


記録庫全体が揺れた。


先ほどまで感じていた振動とは違う。


もっと深く。


もっと重い。


まるで海そのものが鼓動しているようだった。


「また……始まった。」


少年の表情から笑みが消える。


その瞳には、初めてはっきりとした焦りが浮かんでいた。


「何が起きる?」


悠真が問い掛ける。


少年は答えず、暗闇の奥を見つめ続けた。


やがて静かに口を開く。


『目を覚ます。』


短い一言だった。


しかし、その言葉だけで空気が変わる。


記録庫を漂う蒼い結晶が、一斉に光を失い始めた。


一つ。


また一つ。


まるで星空から星が消えていくようだった。


澪は思わず周囲を見回す。


「記録が……消えてる?」


「違う。」


少年は首を横に振る。


『隠してるんだ。』


『見つからないように。』


その瞬間だった。


ゴォォォォ……


暗闇の奥から黒海粒子が濁流のように押し寄せる。


記録庫の床を這い、壁を駆け上がり、天井の見えない闇へ吸い込まれていく。


第一守護者が初めて動いた。


巨大な身体をゆっくりと反転させる。


そして悠真たちではなく、暗闇へ向かって跪いた。


「……え?」


澪が息を呑む。


守護者が跪く。


それはつまり。


守護者より上位の存在がいるということだった。


暗闇の中で、一筋の蒼い線が浮かぶ。


それは「目」だった。


巨大な瞳。


ゆっくりと開かれたその瞳は、記録庫すべてを見渡しているようだった。


悠真は息をすることさえ忘れる。


あまりにも巨大だった。


姿の全貌は見えない。


見えているのは瞳だけ。


それだけで、この空間を埋め尽くしている。


『第二管理者。』


少年は小さく呟いた。


『まだ眠っていて……。』


願うような声だった。


しかし、その願いは届かなかった。


巨大な瞳が、ゆっくりと悠真へ向く。


その瞬間。


胸の奥に埋もれていた記憶が、激しく疼いた。


見知らぬ海。


黒く染まる空。


誰かの泣き声。


「逃げて!」


幼い声。


振り返る自分。


その先には、白衣を着た女性が立っていた。


女性は涙を流しながら叫ぶ。


『悠真だけは、生かして!』


景色が砕ける。


悠真は膝をつき、頭を抱えた。


「ぐっ……!」


「悠真!」


澪が駆け寄る。


その肩へ手を伸ばした瞬間。


巨大な瞳が、静かに閉じられた。


同時に。


空間全体へ、低く澄んだ声が響く。


『……違う。』


男とも女とも判別できない声。


古く。


果てしなく静かな声だった。


『この個体ではない。』


沈黙。


少年は目を見開く。


「そんな……。」


第一守護者の胸部結晶が淡く明滅する。


――判定更新。


――適合率、再計測。


――記録との誤差を確認。


――検索対象を変更。


その瞬間。


記録庫の壁一面に、無数の名前が浮かび上がった。


数え切れないほどの人名。


その中で、一つだけ。


血のような深紅に染まった名前があった。


【榊 蒼一】


その名前が脈打つたびに、悠真の胸も同じリズムで鼓動を刻んでいた。

第49話をお読みいただき、ありがとうございました。


「最後の継承者」と呼ばれた悠真ですが、第二管理者は「この個体ではない」と告げました。


悠真は何者なのか。

そして、赤く浮かび上がった「榊蒼一」という名前は何を意味するのか。


少しずつ、物語は「継承」の謎から、「起源」の真実へと近づいていきます。


次回もよろしくお願いいたします。

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