第48話 守護者の審判
遺されたものには、必ず理由がある。
守る者がいる限り、
真実は簡単には手に入らない。
黒海は、まだ試練を終えてはいなかった。
――侵入者、確認。
――防衛機構、起動。
無機質な音声が記録庫全体へ響き渡る。
次の瞬間。
空間を漂っていた無数の蒼い結晶が一斉に輝き始めた。
眩い光ではない。
冷たく、静かな蒼。
まるで星空が反転したような幻想的な景色だった。
しかし、その美しさとは裏腹に、悠真は全身へ強烈な圧力を感じていた。
「身体が……重い。」
膝が震える。
スーツのアシスト機能が最大出力へ切り替わる。
それでも足が前へ出ない。
「圧力じゃない……。」
澪が苦しそうに息を吐く。
「何かに……押し返されてる。」
影の少年は二人の前へ立つと、小さく両腕を広げた。
『止まって。』
その声は誰へ向けられたものなのか。
直後、暗闇の奥で巨大な二つの光が灯る。
ゆっくりと。
確実に。
こちらを見据えていた。
ゴォォォ……
重低音が空間を震わせる。
姿が見え始める。
黒い外殻。
人型にも見える。
だが全高は十メートルを超えていた。
全身は黒海粒子で形成され、その内部には蒼い光が血管のように巡っている。
顔には目も口もない。
あるのは胸部中央で脈打つ、一つの巨大な結晶だけだった。
『第一守護者。』
少年が静かに呟く。
『……起きちゃった。』
守護者はゆっくりと一歩踏み出す。
その足音だけで空間全体が揺れる。
記録庫の結晶が細かく震えた。
――対象確認。
――継承率、九十八・七パーセント。
――未承認。
――審判を開始する。
機械音声と共に、守護者の胸の結晶が強く輝いた。
一本の蒼い光が悠真へ伸びる。
攻撃ではない。
触れるように。
確かめるように。
光は悠真の額へ到達した。
その瞬間。
景色が消えた。
深海も。
記録庫も。
澪の姿さえ消えていた。
そこは白い世界だった。
何もない。
音もない。
ただ、悠真だけが立っている。
「ここは……。」
すると正面から、一人の青年が歩いてきた。
年齢は二十代半ば。
悠真とよく似た顔立ち。
しかし、その瞳はどこか達観していた。
青年は静かに笑う。
「ようやく会えた。」
悠真は言葉を失う。
見覚えはない。
なのに、その声を知っている気がした。
「誰なんだ……。」
青年は答えず、悠真の胸へそっと手を当てる。
「大丈夫。」
「全部思い出さなくていい。」
「今のお前は、お前自身なんだから。」
その言葉と同時に、白い世界へ亀裂が走る。
バキッ――
世界が砕け散る。
悠真は再び記録庫へ引き戻された。
守護者は動きを止めていた。
胸の結晶は静かに明滅している。
そして機械音声が、これまでとは違う言葉を告げた。
――認識を更新。
――継承候補ではない。
――確認対象。
――『榊悠真』を監視対象へ変更。
その宣告に、少年は安堵したように小さく息をついた。
「……助かった。」
だが、その表情には笑顔はなかった。
「でも、時間がなくなった。」
悠真は眉をひそめる。
「どういう意味だ?」
少年は記録庫のさらに奥を見つめる。
その視線の先――
暗闇の最深部で、もう一つの鼓動が静かに鳴り始めていた。
ドクン……
ドクン……
第一守護者よりも重く。
黒海裂界そのものを震わせるほど巨大な鼓動だった。
第48話をお読みいただき、ありがとうございました。
第一守護者との邂逅は戦闘ではなく、「審判」という形で幕を開けました。
悠真が見た青年は何者なのか。
そして「継承候補ではない」という判定は何を意味するのか。
次回、黒海裂界のさらに深部に眠る存在が、その姿を現し始めます。
引き続き応援よろしくお願いいたします。




