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8 、HYDRA CHRYSALIS ―REBIRTH― 「終焉の先で、世界は再び生まれ変わる」  作者: Nao9999


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第47話 記録庫アーカイブ

忘れられた真実は、消えたわけではない。


誰にも見つからない場所で、

誰かが静かに守り続けている。


その記録を開く資格を持つ者は、まだ一人しか存在しなかった。

「……お兄ちゃん。」


その一言だけが、黒海裂界に静かに響いた。


悠真の時間が止まる。


心臓の鼓動だけが異様なほど大きく聞こえていた。


「違う……。」


自分に言い聞かせるように呟く。


「俺には妹も弟もいない。」


小さな影は悲しそうに微笑んだ。


『今は、そう思っているだけ。』


その声には敵意も悪意もない。


ただ、長い時間を待ち続けた者だけが持つ寂しさが滲んでいた。


「君は誰なの?」


澪が一歩前へ出る。


影はゆっくりと澪を見る。


その瞬間、黒海粒子が澪の周囲を淡く漂い始めた。


『保護対象、確認。』


『同行を許可。』


短く告げると、影は再び悠真へ視線を戻した。


『来て。』


振り返り、扉の奥へ歩き始める。


黒海粒子は影の足元だけを照らし、一本の道を作っていた。


悠真は足を止めたまま動けない。


「悠真。」


澪が静かに呼ぶ。


「怖い。」


その言葉は震えていた。


「でも……ここまで来て、引き返したら何も分からない。」


悠真はゆっくり頷いた。


「行こう。」


二人は光の道を進み始めた。


一歩。


また一歩。


扉を越えた瞬間だった。


景色が変わる。


そこは街ではなかった。


巨大な円形空間。


天井は見えず、壁も見えない。


暗闇の中に、無数の蒼い結晶が浮かんでいる。


その一つ一つの中には映像が映っていた。


笑い合う人々。


研究施設。


海中都市。


子どもたち。


空。


青い海。


そして、まだ黒海が存在しなかった世界。


「……記録?」


澪が呟く。


影は静かに頷いた。


『ここは記録庫。』


『失われた文明。』


『失われた命。』


『失われた選択。』


『すべて保存されている。』


悠真は最も近い結晶へ手を伸ばす。


触れた瞬間、映像が動き始めた。


白衣姿の研究者たち。


慌ただしく端末を操作している。


その中央で、一人の老人が静かに言った。


『時間がない。』


『HYDRAは、もう止められない。』


研究室に沈黙が落ちる。


誰も反論しない。


老人はゆっくり振り返る。


その胸には、一つの名札。


【榊 蒼一】


悠真の瞳が大きく開かれた。


「榊……。」


同じ姓。


偶然とは思えなかった。


その瞬間、映像は激しく乱れた。


ノイズが走る。


結晶全体に黒い亀裂が広がっていく。


影が初めて焦ったように声を上げた。


『駄目だ!』


『まだ、その記録は早い!』


しかし、もう遅かった。


パリン――


乾いた音とともに、一つの結晶が砕け散る。


蒼い粒子が空間中へ舞い上がる。


それと同時に。


空間全体へ警報のような低い音が響き渡った。


――侵入者、確認。


機械音声だった。


冷たく。


感情の欠片もない声。


『管理者権限を持たない個体を確認。』


『防衛機構、起動。』


その瞬間。


暗闇の奥で、ゆっくりと何かが目を開いた。

第47話をお読みいただき、ありがとうございました。


黒海裂界の中心部には、「記録庫」と呼ばれる場所が存在していました。


そして初めて明かされた「榊」という姓。


それは悠真と偶然の一致なのか、それとも世界の起源へ繋がる鍵なのか。


次回、黒海裂界を守る「防衛機構」が姿を現します。


引き続き応援よろしくお願いいたします。

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