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8 、HYDRA CHRYSALIS ―REBIRTH― 「終焉の先で、世界は再び生まれ変わる」  作者: Nao9999


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第46話 扉の向こう側

人は未知を恐れる。


だが、本当に恐ろしいのは、

その未知が自分を知っていることなのかもしれない。


黒海は、また一つ真実への扉を開く。

ズズズズズ……


巨大な扉は、音もなく開き続けていた。


本来なら、これほど巨大な構造物が動けば激しい水流が発生するはずだった。


しかし、海水は揺れない。


黒海粒子だけが静かに流れ、扉の奥へ吸い込まれていく。


「……水が動いていない。」


澪が呟く。


計器を確認する。


流速はゼロ。


圧力にも変化はない。


目の前で起きている現象そのものが、物理法則を拒絶していた。


悠真は扉の奥を見つめる。


暗闇の中に、淡い蒼い光がゆっくりと脈打っている。


まるで誰かが呼吸をしているようだった。


『進行を許可。』


白い深海服が静かに告げる。


『継承者のみ、境界内部への侵入を認証。』


その瞬間。


悠真のスーツが一度だけ震えた。


胸部モニターに見覚えのない表示が浮かぶ。


【認証完了】


【境界コード:YUMA-SAKAKI】


「誰が認証した……?」


澪も同じ画面を見ていた。


「外部ネットワークには繋がっていない……。」


「じゃあ、どうやって……。」


答えは返ってこない。


代わりに、塔の奥から小さな足音が響いた。


コツ……


コツ……


一定の間隔。


ゆっくりと近付いてくる。


悠真はライトを向けた。


だが光は途中で吸い込まれ、何も映さない。


音だけが近付く。


そして。


暗闇の境界で、それは止まった。


小さな影。


人間ほどの大きさ。


しかし、その輪郭は黒海粒子に包まれ、はっきりとは見えない。


「子ども……?」


澪が思わず声を漏らした。


影は答えない。


ただ悠真だけを見つめている。


その瞬間、悠真の脳裏に再び映像が流れ込んだ。


白い研究施設。


無数の培養槽。


その中央で眠る、一人の少年。


年齢は十歳ほど。


眠る顔は驚くほど穏やかだった。


そして培養槽のガラスには、こう記されていた。


【Project HYDRA】


【Subject:Y-01】


映像は一瞬で途切れる。


「っ!」


悠真は頭を押さえ、膝をつく。


「悠真!」


澪が支える。


呼吸が乱れる。


鼓動が速い。


しかし苦しさとは違う。


忘れていた何かを、無理やり思い出そうとする感覚。


その時。


影が初めて口を開いた。


『遅かったね。』


幼い声だった。


男とも女とも分からない。


澄み切ったその声は、深海には似つかわしくないほど優しかった。


『ずっと待っていたよ。』


悠真はゆっくりと顔を上げる。


「……誰だ。」


影は小さく首を傾げる。


そして、どこか寂しそうに微笑んだ。


『忘れちゃったんだね。』


『……お兄ちゃん。』


その一言で、悠真の時間は止まった。


知らないはずの呼び方。


なのに胸の奥で、消えかけていた鼓動が強く脈打つ。


ドクン――


ドクン――


黒海裂界全体が、その鼓動に応えるように静かに震え始めた。

第46話をお読みいただき、ありがとうございました。


扉の向こうで悠真を待っていたのは、「最後の継承者」を知る存在でした。


しかし、その存在は新たな謎を残します。


「Project HYDRA」と「Y-01」、そして「お兄ちゃん」という言葉が意味するものとは何なのか。


物語はここから、世界の起源と悠真自身の過去へと踏み込んでいきます。


次回もよろしくお願いいたします。

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