表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8 、HYDRA CHRYSALIS ―REBIRTH― 「終焉の先で、世界は再び生まれ変わる」  作者: Nao9999


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
48/59

第45話 拒絶する記憶

継承とは、力を受け入れることではない。


誰かの過去を背負い、

誰かの罪を知ることでもある。


その選択は、まだ誰にも許されていなかった。

『ようやく帰ってきたな。』


『最後の継承者よ。』


白い深海服の言葉が、黒海裂界の静寂へゆっくりと溶けていく。


悠真は動かなかった。


いや、動けなかった。


目の前で膝をつく無数の人影。


都市全体が、自分という存在を待っていたかのような光景。


それは歓迎ではない。


もっと重く、もっと古い「約束」のように感じられた。


「違う……。」


悠真は小さく呟く。


「俺は、お前たちの知っている人間じゃない。」


返答はなかった。


しかし、白い深海服は静かに首を傾ける。


『個体差異、許容範囲内。』


『記憶欠損率、九十七・二パーセント。』


『予測どおり。』


澪が顔をしかめる。


「記憶欠損……?」


「どういう意味なの……。」


悠真も理解できなかった。


自分は自分だ。


生まれてからの記憶もある。


家族も、仲間も、ここへ来るまでの人生も。


なのに、目の前の存在は、それらを「欠損」と呼んでいる。


『現在の人格は保存後に形成された補助人格。』


『本来の記録は未接続。』


その言葉に、悠真の胸がざわつく。


補助人格。


まるで今の自分が、本物ではないと言われたようだった。


「ふざけるな!」


叫んだ瞬間だった。


ゴォォォォ……


都市全体が低く唸る。


黒海粒子が激しく渦を巻き、白い深海服の周囲へ集まり始める。


澪は思わず一歩前へ出た。


「悠真から離れて!」


その声に反応したかのように、白い深海服は初めて澪へ視線を向けた。


ほんの一瞬。


それだけで澪の端末が真っ黒になる。


電源は落ちていない。


画面だけが、深い闇に塗り潰されていた。


そして、一文字だけが浮かぶ。


【保護対象】


澪は息を呑んだ。


「……私?」


次の瞬間、表示は消えた。


端末は何事もなかったかのように通常画面へ戻る。


「今の……何?」


誰も答えない。


その時だった。


都市の彼方から、鐘のような音が響いた。


カァン……


澄んだ音色。


しかし、それが鳴った瞬間。


膝をついていた深海服たちが、一斉に顔を上げる。


その動きは、まるで命令を受けた兵士だった。


『観測終了。』


白い深海服が静かに告げる。


『境界維持機構、起動。』


『侵入個体を保護せよ。』


悠真は眉をひそめる。


「保護……?」


その言葉と同時に、海底が大きく揺れた。


ズズズズズ……


街の中央にある巨大な塔が、ゆっくりと開いていく。


塔ではなかった。


それは巨大な扉だった。


暗闇の奥。


何も見えない。


それでも、その奥から確かな気配だけが流れ出してくる。


冷たく。


深く。


そして、どこか懐かしい気配。


悠真は無意識に一歩踏み出した。


その肩を澪が強く掴む。


「行っちゃ駄目。」


「……あそこへ行ったら、戻れない。」


悠真は振り返る。


澪の瞳には恐怖があった。


だが、その奥にはもっと別の感情が揺れている。


失いたくない。


そんな願いが、言葉にならず滲んでいた。


悠真は扉を見つめる。


胸の奥で、何かが鼓動している。


それは自分の心臓ではない。


もっと古く。


もっと深い場所から響く鼓動だった。

第45話をお読みいただき、ありがとうございました。


黒海裂界は、悠真を「最後の継承者」として迎え入れようとしています。


しかし、悠真自身はまだその運命を受け入れてはいません。


次回はいよいよ、巨大な扉の奥へ。

そこには、世界の起源へ繋がる最初の真実が静かに待っています。


引き続き応援よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ