第5話 黒海裂界
過去は終わらない。
どれだけ時間が流れても、
世界が傷を覚えている限り、
“終焉”は静かに残り続ける。
HYDRA CHRYSALIS
REBIRTH
第5話 黒海裂界
空が割れていた。
港湾都市・蒼海区。
巨大深海構造体の上空。
黒い裂け目。
まるで、
宇宙そのものへ傷が入ったような闇。
その奥。
巨大な“目”。
人間では理解できない存在感。
「――確認」
低い声。
直接脳へ響く。
都市中の人々が頭を押さえる。
「うぁぁぁっ!!」
悲鳴。
吐き気。
意識障害。
存在圧。
それだけで、
人間の精神が壊れ始めていた。
「総員退避!!」
NEREID隊員達が叫ぶ。
AQUA-7が前へ出る。
背部ユニット展開。
複数の浮遊砲台が黒い裂け目へ照準を合わせる。
「高圧縮水弾――発射!」
轟音。
青白い閃光。
超圧水流弾が、
裂け目へ突き刺さる。
だが。
消えた。
飲み込まれるように。
「……っ」
AQUA-7の表情が変わる。
効いていない。
完全に。
「――解析完了」
黒い“目”が揺れる。
その瞬間。
裂け目から、
黒い粒子が降り始めた。
雪のように。
ゆっくり。
都市全域へ。
「――侵食粒子確認!」
通信が乱れる。
「――接触禁止!!」
だが遅い。
粒子へ触れた街灯が、
消滅する。
音もなく。
存在ごと。
「なんだよ……これ」
玲司が後退する。
本能が叫ぶ。
危険。
深海変異体とは違う。
もっと根本的に、
“世界の法則が違う”。
その時。
EVEが前へ出る。
白い髪が揺れる。
深海色の翼が展開。
「――黒海裂界」
玲司が振り返る。
「黒海……?」
EVEが裂け目を見上げる。
「――終焉戦争で閉じきれなかった領域」
AQUA-7が息を呑む。
「まさか……まだ残ってたの?」
EVEの瞳が暗い。
「――終焉存在は完全には消えていない」
都市が静まり返る。
玲司の胸が重くなる。
つまり。
三年前の戦いは、
終わっていなかった。
その瞬間。
黒い裂け目が脈動する。
巨大な腕。
闇で構成された異形。
空間を削りながら現れる。
「――侵入開始」
AQUA-7が叫ぶ。
「迎撃!!」
NEREID部隊が一斉砲撃。
ミサイル。
水圧砲。
レーザー。
全弾直撃。
だが。
効かない。
闇の腕は止まらない。
防壁を破壊。
高層ビルへ接近。
「くそっ!!」
玲司が前へ出る。
胸が熱い。
海が呼んでいる。
「――玲司」
EVEの声。
静かに。
「――まだ使い方を知らない」
玲司が叫ぶ。
「じゃあどうすればいい!」
沈黙。
次の瞬間。
EVEが玲司の胸へ触れる。
深海色の光。
流れ込む。
大量の感覚。
海流。
水圧。
原初因子。
「――感じて」
玲司の瞳が揺れる。
海が見える。
都市中の水。
地下水。
空気中の水分。
全部。
繋がっている。
「……っ」
玲司が手を伸ばす。
その瞬間。
海が持ち上がった。
轟音。
巨大水流。
龍のように空へ昇る。
都市中の人々が息を呑む。
「――成功」
EVEが小さく呟く。
玲司が叫ぶ。
「うぉぉぉぉ!!」
巨大水龍が、
黒い腕へ激突。
衝撃。
闇が削れる。
初めて。
黒い腕が後退した。
「効いた!?」
AQUA-7が目を見開く。
だが。
玲司の身体が崩れる。
膝をつく。
鼻血。
視界が赤い。
「がっ……!」
脳が焼けるように痛い。
EVEが玲司を支える。
「――まだ未完成」
玲司が息を荒くする。
「……こんなの、
榊悠真は使ってたのかよ」
EVEの目が揺れる。
どこか寂しそうに。
「――彼は、
もっと深い海を見ていた」
その瞬間。
黒い裂け目がさらに開く。
巨大な“目”が、
完全にこちらを向く。
「――継承因子確認」
玲司の背筋が凍る。
“目”が笑った。
理解不能なまま。
だが確実に。
「――回収開始」
その瞬間。
黒い闇が、
玲司へ向かって落下した。
―――続く
第5話を読んでいただきありがとうございます。
ついに始まった、
黒海裂界との本格接触。
玲司は継承因子の力を初めて引き出しましたが、
まだその力を制御できていません。
そして、
終焉の残滓は、
再び世界へ手を伸ばし始めます。




