第4話 継承体
人は死ぬ。
だが、
想いまで消えるとは限らない。
世界には時々、
“受け継がれてしまう意志”が存在する。
HYDRA CHRYSALIS
REBIRTH
第4話 継承体
蒼い光が夜空を染めていた。
港湾都市・蒼海区。
都市中央へ浮上した、
巨大深海構造体。
その最上部。
空中へ浮かぶ、
白髪の女。
深海色の翼が静かに揺れている。
「――継承者を確認」
女の声が、
都市全域へ響く。
玲司の胸が熱い。
原初因子が、
異常なほど反応していた。
「がっ……!」
膝をつく。
視界が揺れる。
深海。
白い世界。
蒼い光。
知らないはずの記憶が、
頭へ流れ込んでくる。
「――玲司!」
AQUA-7が駆け寄る。
だが。
玲司の周囲へ、
水膜が展開された。
自動防御。
「……触るな」
玲司の声が低い。
二重に響く。
一瞬だけ。
AQUA-7の顔が強張る。
「まさか……」
玲司の瞳。
深海色。
榊悠真と同じ。
その時。
空の女が、
ゆっくり降下を始める。
深海粒子を纏いながら。
都市の人々が見上げる。
恐怖。
畏怖。
誰も動けない。
女が玲司の前へ着地する。
静かに。
水が波紋のように広がる。
「……誰だよ」
玲司が睨む。
女は少しだけ目を細める。
どこか、
懐かしそうに。
「――私は継承体」
「――コード:EVE」
AQUA-7が反応する。
「EVE……!?」
玲司が振り返る。
「知ってるのか?」
AQUA-7の顔色が悪い。
「NEREIDの最高機密よ」
静かな声。
「終焉戦争後、
海底で発見された“原初記録体”」
玲司の目が細くなる。
EVEが玲司を見る。
真っ直ぐ。
「――あなたの中に、
榊悠真の因子が存在する」
その瞬間。
玲司の鼓動が止まりかける。
「……は?」
海風が吹く。
静寂。
AQUA-7も黙っている。
EVEが続ける。
「――完全ではない」
「――しかし確かに継承されている」
玲司が笑う。
乾いた笑い。
「意味分かんねぇよ」
だが。
胸の奥では、
理解してしまっていた。
海へ落ちた時。
聞こえた声。
見えた光。
あれは。
「……榊悠真って、
本当にいたのか」
AQUA-7が頷く。
静かに。
「世界を救った英雄」
「でも公式記録では、
戦死扱いになってる」
玲司が空を見る。
雨雲の切れ間。
青い月。
「……じゃあ俺は何なんだよ」
EVEが近づく。
玲司の胸へ、
そっと手を当てる。
その瞬間。
深海色の光が溢れる。
「――っ!!」
玲司の視界へ、
大量の映像が流れ込む。
終焉戦争。
星海翼。
黒い宇宙。
そして。
病室。
目を覚ます榊悠真。
「……あ」
玲司が息を呑む。
最後の映像。
海辺。
一人の男。
榊悠真。
その胸から、
蒼い粒子が海へ溶けていく。
「――継承は始まっていた」
EVEの声。
「――彼は力を海へ還した」
玲司の身体が震える。
つまり。
海そのものに、
榊の因子が拡散している。
「……だから俺が」
EVEが頷く。
「――選ばれた」
その瞬間。
深海構造体が脈動する。
警報。
NEREID隊員達の叫び。
「――高エネルギー反応!」
「――深海ゲート形成!!」
海が割れる。
巨大な黒い裂け目。
空間断裂。
その奥。
“何か”が動く。
AQUA-7が武装展開。
「全員下がれ!!」
EVEの顔から感情が消える。
「――来る」
玲司が裂け目を見る。
寒気。
本能が警告する。
あれは。
終焉戦争で現れた存在に近い。
そして。
黒い裂け目の奥から、
巨大な“目”が開いた。
深海ではない。
宇宙でもない。
もっと外側。
理解不能の闇。
その瞬間。
EVEが玲司の前へ立つ。
翼を広げながら。
「――継承者を守る」
黒い“目”が、
ゆっくり玲司を見つめた。
まるで。
“見つけた”と言うように。
―――続く
第4話を読んでいただきありがとうございます。
ついに明かされた、
玲司と榊悠真の因子の関係。
そして現れた、
新たな“外側の存在”。
REBIRTH編は、
継承と進化、
そして終焉の残響へ踏み込んでいきます。




