第35話 裂界の扉
世界は終わっていなかった。
終焉戦争は、
ただ終わったように見えただけだった。
海は覚えている。
空も覚えている。
そして、
世界の外側にいる"何か"も、
人類を忘れてはいなかった。
HYDRA CHRYSALIS
REBIRTH
第3章 黒海裂界
第35話 裂界の扉
ギギギギ……
空が軋む。
黒海裂界。
終焉戦争から三年間、
静かに眠り続けていた巨大な裂け目。
その黒い亀裂が、
今まさに世界を押し広げようとしていた。
港にいた全員が空を見上げる。
誰も言葉を発しない。
ただ、
本能だけが叫んでいた。
逃げろ。
その時だった。
ピシッ。
空間へ一本の白い亀裂が走る。
続いて二本。
三本。
まるでガラスが砕けるように、
世界そのものへ無数の傷が刻まれていく。
「観測不能!」
NEREID司令部が混乱する。
「裂界半径急拡大!」
「深海粒子指数……上限突破!」
「重力場崩壊!」
警報が鳴り止まない。
港のコンテナが浮き始める。
海水が空へ流れていく。
誰も見た事のない光景。
海が、
空へ落ちていた。
玲司は拳を握る。
「これが……
黒海裂界……。」
EVEが静かに答える。
「違う。」
玲司が振り返る。
「え?」
「これは入口。」
「本当の裂界は、
まだ開いていない。」
玲司の身体へ寒気が走る。
入口だけで、
この惨状なのか。
その瞬間。
海面へ巨大な波紋が広がる。
ドクン。
ドクン。
守護者が動いた。
巨大な腕をゆっくり持ち上げ、
裂界へ向ける。
まるで。
誰かへ警告するように。
すると。
裂界の奥から、
低い笑い声が響いた。
『────』
言葉ではない。
意味でもない。
だが聞いた全員が理解した。
嗤われている。
人類そのものが。
玲司の胸の奥で、
原初因子が激しく脈打つ。
同時に、
榊悠真の記憶が流れ込む。
終焉戦争。
宇宙境界海域。
黒海裂界。
そして。
榊悠真が、
一人で裂界へ歩いていく姿。
『……来るな。』
誰かへ向けた言葉。
その視線の先には。
泣いている女性。
水城澪だった。
玲司は息を呑む。
「水城……。」
榊は振り返らない。
ただ静かに笑う。
『必ず帰る。』
その約束だけを残し、
黒海裂界へ消えていく。
映像は終わる。
玲司は震えていた。
「帰って……
来られなかったのか。」
EVEは何も言わない。
それが答えだった。
その時。
白い女性が玲司へ近付く。
「継承者。」
玲司は顔を上げる。
「あなたは、
同じ選択をしてはいけない。」
「え?」
「榊悠真は、
世界を救いました。」
「ですが。」
彼女は空を見上げる。
「自分を救えなかった。」
玲司の胸へ、
その言葉が深く刺さる。
海風が吹く。
蒼泡達が玲司の足元へ集まる。
守護者は静かに跪いている。
EVEも玲司を見ている。
皆が、
玲司を待っていた。
その時だった。
裂界の奥から、
一本の蒼い光が世界へ降り注ぐ。
それは真っ直ぐ港へ落下する。
轟音。
土煙。
衝撃。
港が揺れる。
煙の中から、
一つの人影が現れた。
黒いコート。
銀色の髪。
深海色の瞳。
その姿を見た瞬間。
EVEが凍り付く。
「そんな……。」
白い女性も目を見開く。
玲司は言葉を失った。
男はゆっくり顔を上げる。
そして静かに笑った。
「……よう。」
その顔は。
榊悠真と、
まったく同じだった。
―――続く
第35話を読んでいただき、ありがとうございました。
本話よりREBIRTH編・第3章「黒海裂界」が開幕しました。
ここから物語は、終焉戦争の真実と黒海裂界の謎へ本格的に踏み込んでいきます。
そして最後に現れた、榊悠真と同じ姿を持つ男。
彼は本当に榊悠真なのか。
それとも別の存在なのか。
次回、その正体の一端が明らかになります。




