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8 、HYDRA CHRYSALIS ―REBIRTH― 「終焉の先で、世界は再び生まれ変わる」  作者: Nao9999


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第32話 海の子ら

人類は知らなかった。


「兵器」と呼んでいたものが、

本当に兵器だったのかを。


戦争は、

多くの真実を書き換える。


勝者の記録は残る。


だが。


失われた声は、

海だけが覚えている。

HYDRA CHRYSALIS


REBIRTH


第32話 海の子ら


港を包む空気が変わった。


風が吹かない。


波も立たない。


時間だけが止まったような静寂。


白い女性は海面に立ったまま、

玲司を見つめていた。


長い白髪。


透き通るような白い衣。


足元には波紋が広がる。


しかし、

海面は一切沈まない。


まるで海そのものが、

彼女を支えているようだった。


玲司が一歩踏み出す。


「お前は……」


その言葉より早く。


無数の蒼泡が、

白い女性の足元へ集まり始めた。


ぽよん。


ぽよん。


ぽよん。


嬉しそうに跳ねながら、

彼女の周囲を回る。


まるで母親へ甘える子供達だった。


NEREID隊員達は武器を構える。


「対象確認!」


「射撃準備!」


玲司が振り返る。


「撃つな!」


だが命令は止まらない。


上空の無人戦闘機が照準を固定する。


赤いレーザーが、

白い女性の胸へ集まる。


EVEが息を呑んだ。


「駄目……!」


次の瞬間。


一発の対深海弾が発射された。


轟音。


港全体が揺れる。


しかし。


白い女性は動かない。


蒼泡が一匹だけ前へ跳ねた。


ぽよん。


弾丸が触れた瞬間。


静かに消えた。


爆発もしない。


火花も散らない。


存在そのものが、

海へ溶けるように消失した。


隊員達が凍り付く。


「消えた……?」


蒼泡は小さく鳴く。


「きゅぅ。」


その声に応えるように、

他の蒼泡達も鳴き始めた。


「きゅ。」


「きゅぅ。」


「きゅきゅ。」


港中へ、

優しい鳴き声が響く。


その光景を見た玲司の胸に、

再び記憶が流れ込む。


終焉戦争。


炎に包まれた研究都市。


研究員達が叫んでいる。


『違う!』


『この子達は兵器じゃない!』


『兵器へ作り変えられたんだ!』


ガラス容器の中で、

小さな蒼泡が震えている。


怯えていた。


怖がっていた。


それでも。


研究員達は深海粒子を注入する。


圧縮。


侵食。


崩壊。


蒼泡は苦しそうに身体を震わせる。


『やめろ!』


一人の女性研究者が叫ぶ。


『命令兵器なんかじゃない!』


『この子達は海の生命よ!』


銃声。


映像が乱れる。


そして。


全てが白く染まった。


玲司は大きく息を吸った。


「そうだったのか……」


拳を握る。


蒼泡は最初から兵器ではなかった。


人類が。


戦争が。


この小さな生命を、

禁忌兵器へ変えてしまった。


玲司の目の前で、

一匹の蒼泡が小さく震える。


玲司はゆっくりしゃがみ込む。


「苦しかったよな。」


蒼泡は玲司の手へ飛び乗った。


冷たい身体。


だが。


その奥には確かな鼓動があった。


小さな命。


その様子を見ていた白い女性が、

初めて微笑む。


どこか寂しげで、

どこまでも優しい笑顔。


そして静かに口を開いた。


「ありがとう。」


その一言だけだった。


EVEが目を見開く。


「感情……」


管理体も呟く。


「彼女は……」


白い女性は蒼泡達を見下ろす。


「この子達は。」


「私が産んだ子ではありません。」


「ですが。」


「私が最初に抱きしめた子達です。」


玲司の胸が締め付けられる。


白い女性は続ける。


「だから私は。」


「この子達を。」


「海の子らと呼んでいます。」


その瞬間だった。


港全体へ警報が鳴り響く。


『緊急警報!』


『沖合二十キロ地点に超大型生命反応!』


『母体由来反応急上昇!』


海が揺れる。


沖合から巨大な波が押し寄せる。


水平線の彼方。


海面がゆっくり盛り上がっていく。


山のように。


島のように。


いや。


違う。


それは。


巨大すぎる背中だった。


静かに。


ゆっくりと。


海の底から。


何かが目覚めようとしていた。


その鼓動に合わせるように。


蒼泡達は一斉に海へ向き直る。


そして。


悲しそうに鳴いた。


「きゅぅ……。」


―――続く

第32話でした。


今回は「蒼泡」の本当の始まりが描かれました。


禁忌兵器。


そう呼ばれてきた存在にも、

元は命がありました。


HYDRA CHRYSALISでは、

敵と味方を単純に分けません。


誰が兵器を生み、

誰が命を歪めたのか。


その答えも、

少しずつ明らかになっていきます。


そして次回。


ついに母体由来生命体が本格的に姿を現します。


ここはREBIRTH編前半の大きな転換点になります。

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