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8 、HYDRA CHRYSALIS ―REBIRTH― 「終焉の先で、世界は再び生まれ変わる」  作者: Nao9999


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第25話 片翼の継承者

継承とは何か。


力を受け継ぐ事か。


記憶を受け継ぐ事か。


それとも。


誰かの願いを背負う事なのか。


玲司はまだ知らない。


その答えを。

HYDRA CHRYSALIS


REBIRTH


第25話 片翼の継承者


蒼い光が夜空を染めていた。


玲司の背中。


そこから伸びる巨大な片翼。


深海色。


蒼白色。


二つの光が混ざり合いながら、

静かに揺れている。


誰も声を出せなかった。


NEREID隊員達。


研究員達。


管理体。


EVE。


そして母体。


全員がその光景を見ていた。


玲司自身ですら理解できていない。


ただ。


胸の奥が熱い。


海が近い。


そんな感覚だけがあった。


空気が震える。


海面が共鳴する。


蒼海区全域へ、

蒼い波紋が広がっていく。


管理体が呟く。


「星海翼……」


その声は震えていた。


「まさか本当に」


玲司が背後を見る。


巨大な翼。


だが。


完全ではない。


片方しか存在しない。


未完成。


だからこそ分かる。


これは榊悠真の力ではない。


自分の力でもない。


その途中。


継承の途中段階。


EVEが玲司を見つめる。


その瞳には驚きがあった。


そして。


少しだけ安心したようにも見えた。


「成功した」


玲司が眉をひそめる。


「何がだ」


EVEは答えない。


代わりに空を見上げる。


観測者。


巨大な瞳。


星々で形成された存在。


その視線は今も地球へ注がれている。


まるで実験対象を見るように。


感情はない。


興味もない。


ただ見ている。


それだけなのに。


世界が壊れ始めている。


港の海面が歪む。


空間が軋む。


遠くのビル群が一瞬だけ揺らぐ。


存在そのものが不安定化している。


管理体が叫ぶ。


「観測が強まっている!」


「このままでは世界が固定される!」


玲司が振り返る。


「固定?」


管理体が苦しそうに答える。


「観測者は可能性を消します」


空気が凍る。


「存在を一つへ確定させる」


玲司の理解が追いつかない。


管理体は続ける。


「生命は変化する」


「進化する」


「選択する」


「でも観測者は違う」


「全てを観測し」


「全てを固定する」


母体が目を閉じる。


悲しそうに。


「だから生命は滅ぶ」


玲司は息を呑んだ。


観測される事。


それ自体が終わり。


だから太古の海は隠れた。


だから母体は眠った。


だから榊悠真は戦った。


全てが少しずつ繋がり始める。


その時だった。


観測者の瞳が動いた。


ゆっくりと。


玲司へ向く。


背筋が凍る。


世界中の海が震える。


母体が前へ出る。


EVEも翼を広げる。


管理体が玲司を庇う。


だが。


観測者は誰も見ていなかった。


玲司だけを見ている。


そして。


頭の中へ声が響いた。


『異常個体』


玲司の身体が固まる。


『観測誤差』


胸が痛む。


片翼が激しく発光する。


『記録と不一致』


海が共鳴する。


母体が叫ぶ。


「玲司!」


次の瞬間。


玲司の意識は引きずり込まれた。


深海。


暗闇。


静かな海。


そこに一人の男が立っている。


榊悠真。


玲司は動けなかった。


榊は海を見ていた。


振り返らない。


ただ静かに立っている。


しばらくして。


小さく笑った。


『……来たか』


玲司の喉が震える。


「榊悠真」


榊は肩をすくめる。


『そんな大層なもんじゃない』


どこか疲れた声。


だが優しかった。


玲司は聞く。


「お前は生きてるのか」


沈黙。


榊は少し考える。


そして。


『分からん』


そう答えた。


『俺自身にもな』


海風が吹く。


静かな時間。


玲司は拳を握る。


聞きたい事は山ほどある。


だが。


最初に出た言葉は違った。


「何で俺なんだ」


榊は少しだけ笑った。


『知らん』


即答だった。


玲司が呆れる。


榊は続ける。


『選んだのは海だ』


『俺じゃない』


静かな声。


『でも』


初めて振り返る。


深海色の瞳。


どこまでも優しい目。


『お前なら大丈夫だと思った』


玲司は何も言えなかった。


その瞬間。


海が揺れる。


榊の表情が変わる。


空を見る。


いや。


海の上を見ている。


そこには。


巨大な瞳。


観測者。


この空間にまで現れていた。


榊が苦笑する。


『面倒なのに見つかったな』


玲司が息を呑む。


榊は前へ出る。


片手をポケットへ入れたまま。


まるで散歩でもしているような歩き方。


そして。


観測者を見上げる。


『久しぶりだな』


静かな声。


その瞬間。


観測者の瞳が揺れた。


初めてだった。


感情ではない。


だが。


明らかに反応した。


世界を観測する存在が。


榊悠真という人間へ。


確かに反応したのである。


―――続く

第25話でした。


今回は玲司の星海翼が「片翼」として覚醒しました。


完全覚醒ではありません。


まだ継承の途中です。


そして久しぶりに、

榊悠真本人との対話が描かれました。


ただし彼は完全な生者でも死者でもありません。


海に残る残響。


それが現在の榊悠真です。


次回、

榊悠真と観測者。


終焉戦争後初となる接触が始まります。


REBIRTH編前半の大きな山場へ突入です。

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