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8 、HYDRA CHRYSALIS ―REBIRTH― 「終焉の先で、世界は再び生まれ変わる」  作者: Nao9999


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第23話 黒海の呼び声

海が目覚めた。


だが。


目覚めたのは母体だけではない。


終焉戦争で閉じたはずの扉もまた、

静かに開き始めていた。


世界は再び、

理解できない何かへ触れようとしていた。

HYDRA CHRYSALIS


REBIRTH


第23話 黒海の呼び声


世界中の警報が鳴り続けていた。


黒海裂界。


終焉戦争後も残り続けた傷跡。


その全てが。


同時に脈動していた。


NEREID本部では、

誰も席を立てなかった。


モニターへ映る数値。


過去最大。


終焉戦争時の記録を超えている。


「裂界拡大!」


「止まりません!」


「粒子濃度上昇!」


「観測不能領域発生!」


叫び声が飛び交う。


だが。


管理体は違うものを見ていた。


その表情から血の気が消えている。


玲司が気付く。


「何だ」


管理体は答えない。


ただ。


黒海裂界の映像を見つめていた。


映像の向こう。


裂け目の奥。


そこに何かがいる。


玲司には分からない。


だが。


管理体には見えているらしい。


「そんな……」


震える声。


EVEも顔を上げる。


そして。


初めて恐怖の表情を浮かべた。


「来ている」


玲司の背筋が冷える。


「何が」


静寂。


数秒後。


管理体が呟いた。


「観測者」


空気が凍った。


その単語は誰も知らない。


だが。


聞いただけで嫌な予感がした。


管理体は続ける。


「終焉存在より外側」


「外宇宙捕食者より古い存在」


玲司の瞳が見開く。


終焉存在より外。


そんなものがいるのか。


管理体はゆっくり首を振る。


「存在という表現すら正しくありません」


「彼らは観測そのものです」


意味が分からない。


AQUA-7も理解できていない。


しかし。


管理体は本気だった。


冗談など一切ない。


その時。


モニター映像が乱れる。


砂嵐。


ノイズ。


そして。


一瞬だけ映った。


巨大な眼。


いや。


眼のようなもの。


星だった。


無数の星が集まり、

瞳を形成している。


見た瞬間。


オペレーターの一人が悲鳴を上げた。


鼻血。


耳から出血。


そのまま倒れる。


「医療班!」


誰かが叫ぶ。


だが。


異常はそれだけではなかった。


複数の職員が頭を抱える。


泣き始める者。


笑い出す者。


記憶障害を起こす者。


映像を見ただけ。


それだけで。


精神が侵食されていた。


管理体が叫ぶ。


「映像を切って!」


モニターが消される。


ようやく異常が止まる。


玲司は息を呑む。


映像だけで人を壊す。


そんな存在がいるのか。


EVEが小さく呟いた。


「見てはいけないもの」


その声には恐怖が滲んでいた。


その時だった。


玲司の頭へ声が響く。


『継承者』


玲司が顔を上げる。


誰も喋っていない。


だが。


聞こえる。


『継承者』


再び。


今度ははっきりと。


海の奥から。


母体の声。


玲司は反射的に外へ飛び出した。


港。


夜の海。


海面は蒼く光り続けている。


風が吹く。


誰もいない。


だが。


そこにいた。


海面の上。


一人の少女。


白い髪。


裸足。


蒼い瞳。


玲司は固まる。


EVEではない。


管理体でもない。


だが。


どこか似ている。


少女は微笑む。


「見つけた」


優しい声だった。


玲司が警戒する。


「誰だ」


少女は少し考える。


そして。


困ったように笑った。


「名前はない」


「みんなは母体って呼ぶ」


玲司の呼吸が止まる。


目の前の少女。


その姿は仮のもの。


本体ではない。


分かっている。


だが。


それでも理解してしまった。


この少女は。


母体そのものだ。


海が静かになる。


波が止まる。


風も止まる。


世界が息を潜める。


母体は玲司へ近づく。


ゆっくり。


まるで子供を見るように。


そして。


玲司の胸へ手を伸ばした。


その瞬間。


玲司の脳裏へ大量の映像が流れ込む。


生命誕生。


太古の海。


原初存在。


文明。


戦争。


絶滅。


進化。


そして。


一人の男。


榊悠真。


深海最深部。


母体の前に立っている。


若い頃の榊だ。


傷だらけだった。


それでも笑っていた。


そして。


母体へ言った。


「もし俺が失敗したら」


映像の榊が笑う。


「その時は頼む」


母体が悲しそうな顔をする。


榊は続ける。


「人類を見捨てないでくれ」


玲司の瞳が見開く。


約束。


前回見た記憶。


その続きだった。


母体は小さく頷く。


榊は安心したように笑った。


映像が消える。


玲司は呆然と立ち尽くす。


母体が静かに言う。


「約束した」


「だから守る」


優しい声。


だが。


その直後だった。


空が割れた。


轟音。


黒海裂界。


蒼海区上空。


巨大な裂け目が出現する。


今までとは違う。


圧倒的な大きさ。


空そのものが裂けている。


管理体が飛び出してくる。


顔色は真っ青だった。


「逃げて!」


母体が空を見上げる。


その表情が変わる。


初めてだった。


悲しみ。


怒り。


恐怖。


それらが混ざっている。


裂界の奥。


暗闇。


そこから。


何かがこちらを見ていた。


無数の星で構成された瞳。


観測者。


終焉存在すら恐れる存在。


その瞳が。


ゆっくり開いた。


そして。


世界中の人間へ向けて。


初めて言葉を発した。


『発見』


その瞬間。


全世界の海が震えた。


―――続く

第23話でした。


今回は母体生命体が初めて玲司と直接接触しました。


そして、

終焉存在より外側にいる新たな脅威、

「観測者」が姿を現しました。


ここからREBIRTH編は、

深海SFから宇宙存在論SFへと少しずつスケールを広げていきます。


ただしテーマの中心は変わりません。


孤独。

継承。

そして人間性。


次回、

世界同時異常現象が発生します。

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