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8 、HYDRA CHRYSALIS ―REBIRTH― 「終焉の先で、世界は再び生まれ変わる」  作者: Nao9999


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第21話 記憶の継承者

深海構造体最深部。


そこは兵器庫ではない。


墓でもない。


研究施設でもない。


そこに眠っていたのは、


人類が忘れた記憶。


そして、


誰にも知られてはならなかった

最後の願いだった。

HYDRA CHRYSALIS


REBIRTH


第21話 記憶の継承者


巨大な扉が開いていく。


重い音はしない。


ただ静かに。


まるで海そのものが

道を譲っているようだった。


蒼い風が吹く。


玲司は目を細める。


懐かしい。


知らないはずなのに。


胸が締め付けられる。


EVEは立ち止まっていた。


普段の彼女ならあり得ない。


足が動いていない。


迷っている。


そんな風に見えた。


「……EVE」


玲司が呼ぶ。


EVEはゆっくり振り返った。


その瞳は揺れている。


「怖い」


小さな声だった。


玲司もAQUA-7も固まる。


EVEが。


怖いと言った。


感情を獲得し始めているとは聞いていた。


だが。


ここまでとは思わなかった。


「何がだ」


玲司が聞く。


EVEは扉の奥を見る。


「思い出してしまう」


その言葉だけで十分だった。


ここには。


彼女の過去がある。


三人は奥へ進む。


そこは広大な空間だった。


天井が見えない。


床は鏡のような水面。


歩くたびに波紋が広がる。


中央。


そこに一つだけ台座があった。


そして。


一人の女性。


白衣姿。


長い白髪。


目を閉じたまま眠っている。


玲司は息を呑む。


EVEと似ている。


いや。


似ているどころではない。


同じだった。


AQUA-7が呟く。


「まさか……」


EVEも動かない。


女性の前へ近づく。


そして。


震える声で言った。


「管理体」


玲司の瞳が見開く。


原初側監視存在。


榊悠真と関わった存在。


終焉戦争後、

消息不明となっていた存在。


その管理体が。


ここにいた。


死んでいるように見える。


だが。


次の瞬間。


女性の瞳が開いた。


蒼い光。


空間全体が震える。


AQUA-7が武器を構える。


玲司も身構える。


しかし。


女性は微笑んだ。


穏やかに。


どこか寂しそうに。


「久しぶりですね」


声が響く。


玲司ではない。


EVEへ向けられていた。


EVEの瞳が揺れる。


「覚えているの」


管理体が頷く。


「もちろん」


静かな声。


「あなたは最後の継承体ですから」


玲司は意味が分からない。


だが。


二人には通じているらしい。


管理体は玲司を見る。


そして。


少し驚いた顔をした。


「なるほど」


「本当に選ばれたのですね」


玲司が眉をひそめる。


「何の話だ」


管理体は答えない。


代わりに手を伸ばした。


瞬間。


空間が変化する。


蒼い粒子。


無数の映像。


そして。


一人の男。


榊悠真。


玲司の呼吸が止まる。


映像ではない。


立体投影。


まるで本当にそこにいる。


榊は静かに立っていた。


少し疲れた顔。


だが優しい目。


玲司は動けなかった。


管理体が言う。


「これは記録です」


「彼が残した最後の言葉」


空気が張り詰める。


榊が口を開く。


『もしこれを見ているなら』


静かな声。


玲司の胸が熱くなる。


『多分、

俺はもういない』


沈黙。


『だから先に謝っておく』


苦笑する。


榊らしい。


『面倒なものを残した』


玲司が思わず笑う。


本当に。


面倒なものばかりだ。


榊は続ける。


『でも』


『それでも託したかった』


その瞬間。


表情が変わる。


真剣だった。


『海は終わっていない』


『終焉も終わっていない』


『そして母体も』


管理体の顔が曇る。


EVEも固まる。


玲司は息を呑む。


榊は空を見るように呟く。


『あれは敵じゃない』


『だけど』


『目覚めれば世界は変わる』


沈黙。


そして。


榊は少しだけ笑った。


『だから頼む』


『世界を救えとは言わない』


『格好いい事も言わない』


『ただ』


『お前は生きろ』


玲司の瞳が揺れる。


榊の口癖。


そのままだった。


『苦しくても』


『怖くても』


『一人だと思っても』


『生きろ』


静かな声。


だが重かった。


『人間は弱い』


『不完全だ』


『でも』


『だからこそ綺麗なんだ』


沈黙。


榊は最後に微笑む。


優しく。


本当に優しく。


『頼んだぞ』


映像が消えた。


静寂。


誰も喋れない。


玲司は俯いていた。


胸が苦しい。


涙が出そうになる。


会った事もない。


だが。


確かに伝わった。


この人は。


本当に人間だった。


その時だった。


警報が鳴り響く。


空間全体が赤く染まる。


AQUA-7が振り返る。


「何!?」


管理体の表情が変わる。


初めてだった。


明確な焦り。


「まずい」


玲司が顔を上げる。


「どうした」


管理体は天井を見る。


いや。


もっと遠く。


海の向こうを見ている。


「早すぎる」


震える声。


「母体が目覚め始めている」


全員が凍る。


次の瞬間。


蒼海区全域で警報が発令された。


世界中の海洋観測網。


全システム同時警告。


観測不能。


測定不能。


解析不能。


そして。


深海最深部。


誰も到達した事のない海域から。


巨大な反応が検出される。


過去最大。


終焉戦争時を超える。


モニターに表示された数値を見て。


全ての研究員が絶句した。


そして誰かが震える声で呟く。


「ありえない……」


その反応は。


地球サイズだった。


―――続く

第21話でした。


今回は管理体の再登場、

そして榊悠真が残した記録が描かれました。


REBIRTH編のテーマである

「継承」

「人間性」

が本格的に動き始めています。


そして物語は、

いよいよ母体生命体という

最大級の謎へ踏み込んでいきます。


次回、

世界が初めて

“海の本当の姿”

を知ることになります。

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