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8 、HYDRA CHRYSALIS ―REBIRTH― 「終焉の先で、世界は再び生まれ変わる」  作者: Nao9999


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第20話 海に残された声

深海構造体が開いた。


それは兵器なのか。


遺跡なのか。


墓標なのか。


誰にも分からない。


ただ一つ確かな事がある。


そこには、

終焉戦争の真実が眠っている。

HYDRA CHRYSALIS


REBIRTH


第20話 海に残された声


蒼海区。


都市中央。


巨大深海構造体。


その表面は、

花弁のように開いていた。


蒼い光が夜空へ伸びる。


雨は降っていない。


だが空気が濡れていた。


まるで海の中にいるようだった。


人々は立ち止まる。


車も止まる。


誰もが空を見上げていた。


理由は分からない。


それでも。


目を離せなかった。


巨大構造体の中心。


そこに。


円形の空洞が現れている。


底は見えない。


深い。


あまりにも深い。


玲司は息を吐いた。


「行くしかないか」


AQUA-7が隣へ立つ。


「本気?」


「嫌なら帰るか?」


「帰れると思う?」


玲司が苦笑する。


AQUA-7も少しだけ笑った。


その時。


EVEが前へ歩き出す。


白髪が揺れる。


蒼い翼が静かに光る。


そして。


空洞へ向かって手を伸ばした。


瞬間。


構造体全体が反応する。


低い振動。


海鳴り。


都市全体が震えた。


すると。


空洞の内部から、

蒼い階段が現れる。


粒子で形成された光の階段。


どこまでも下へ続いている。


誰かが呟いた。


「歓迎されている……?」


玲司は嫌な予感しかしなかった。


だが。


胸の奥では別の感覚がある。


懐かしい。


初めて見るはずなのに。


どこか知っている。


そんな感覚だった。


三人は階段を降り始めた。


深く。


さらに深く。


進むほど周囲の景色が変わる。


壁がない。


天井もない。


海でもない。


宇宙でもない。


蒼い粒子だけが漂う世界。


静寂。


呼吸音だけが響く。


そして。


十分ほど進んだ時だった。


広大な空間へ辿り着く。


そこには。


無数の光球が浮かんでいた。


数え切れないほど。


星空のように。


玲司は立ち止まる。


「何だよこれ」


EVEが答える。


「記録」


「記録?」


「海に保存された記憶」


玲司の背筋が震えた。


海の記憶。


終焉戦争以前から存在する、

生命の記録。


それがここにある。


その時。


一つの光球が反応した。


蒼く脈動する。


ゆっくり玲司の前へ来る。


触れてはいけない。


そう思った。


だが。


手が伸びていた。


指先が触れる。


瞬間。


世界が変わった。


視界が白く染まる。


轟音。


悲鳴。


炎。


崩壊。


終焉戦争。


玲司は知らない景色を見ていた。


空に海が浮かんでいる。


都市が沈む。


巨大海獣が暴れる。


人々が逃げ惑う。


そして。


その中心に。


一人の男。


黒髪。


蒼い瞳。


榊悠真。


玲司は息を呑む。


榊は若かった。


今まで見た記憶よりも。


まだ普通の青年だった。


疲れた顔。


眠っていない目。


それでも。


誰かを守ろうとしていた。


映像は続く。


避難所。


泣く子供。


榊が頭を撫でる。


老人を背負う。


怪我人を運ぶ。


戦うだけではない。


助け続けていた。


その姿を見て。


玲司は違和感を覚える。


英雄じゃない。


伝説でもない。


ただの人間だった。


不器用で。


疲れていて。


それでも立ち続ける。


そんな男だった。


そして。


映像が変わる。


海辺。


夕暮れ。


そこには一人の女性がいた。


長い黒髪。


知的な瞳。


水城澪。


玲司は初めて見る。


だが分かった。


榊が見つめている。


澪も榊を見ている。


言葉は少ない。


沈黙が多い。


だが。


二人の距離は近かった。


どこか苦しくなるほど。


映像の中。


澪が言う。


「また無茶したのね」


榊が苦笑する。


「そうでもない」


「嘘」


「……そうかもな」


短い会話。


だが。


そこには確かな温度があった。


玲司の胸が痛む。


これは。


失われた日常だ。


終焉戦争が奪ったもの。


榊が守ろうとしたもの。


その時だった。


映像が乱れる。


ノイズ。


海鳴り。


そして。


聞こえた。


知らない声。


女の声。


優しく。


深く。


海そのもののような声。


『ようやく来たのね』


玲司が振り返る。


だが誰もいない。


『継承者』


全身が凍る。


『あなたを待っていた』


視界が崩壊する。


記憶世界が砕け散る。


玲司は現実へ戻った。


息が荒い。


汗が流れる。


AQUA-7が驚いている。


「大丈夫!?」


玲司は答えられない。


目の前。


広大な空間。


その最奥。


今まで存在しなかったものがあった。


巨大な扉。


蒼い扉。


高さ数百メートル。


まるで神殿の門。


EVEが見上げる。


その瞳が揺れる。


初めてだった。


明らかな感情。


恐怖。


期待。


悲しみ。


様々な感情が混ざっている。


そして。


EVEは震える声で言った。


「この先にいる」


玲司が聞く。


「誰が」


長い沈黙。


EVEは扉を見つめたまま答える。


「私を作った人」


その瞬間。


巨大な扉が。


ゆっくりと開き始めた。


まるで。


三年間待ち続けていたかのように。


そして扉の向こうから。


蒼い風が吹いた。


どこか懐かしい。


海の匂いだった。


―――続く

第20話でした。


今回は戦闘回ではなく、

HYDRA CHRYSALISの根幹である

「記憶」と「継承」を描く回になりました。


榊悠真は伝説の英雄として語られています。


しかし本当は、

誰よりも普通で、

誰よりも傷ついていた人間でした。


そして次回。


深海構造体最深部。


EVE誕生の秘密。


終焉戦争の封印記録。


そして、

榊悠真が隠した真実の一端が明かされます。


物語はここから、

新章突入直前の核心部へ入っていきます。

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