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8 、HYDRA CHRYSALIS ―REBIRTH― 「終焉の先で、世界は再び生まれ変わる」  作者: Nao9999


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第18話 海が鳴く夜

黒海裂界の拡大。


母体由来生命反応の出現。


そして、海底から響く謎の鼓動。


蒼海区で起きる異変は、

少しずつ世界規模の災厄へ姿を変え始めていた。


玲司達はまだ知らない。


海の奥底で、

何かが目覚めようとしている事を。

HYDRA CHRYSALIS


REBIRTH


第18話 海が鳴く夜


夜だった。


蒼海区。


海は静かだった。


あまりにも静かだった。


波の音すらない。


風もない。


まるで世界から、

音だけが消えたようだった。


玲司は防波堤に立っていた。


EVEも隣にいる。


白髪が夜風に揺れる。


「……変だな」


玲司が呟く。


EVEは海を見ていた。


その瞳は、

普段より僅かに揺れている。


「海が静かすぎる」


玲司も同じ事を感じていた。


ここ数日。


海がおかしい。


深海粒子濃度。


海流。


気圧。


生物反応。


全てが不自然だった。


何かを待っている。


そんな気配がある。


その時だった。


――ドクン。


玲司の身体が震えた。


胸ではない。


地面でもない。


海だ。


海そのものが脈打った。


「っ!?」


玲司が海面を見る。


波が広がっている。


だが風は吹いていない。


海底からだ。


何かが鼓動している。


――ドクン。


――ドクン。


――ドクン。


規則的な脈動。


巨大すぎる心臓。


そんな音だった。


EVEが小さく呟く。


「聞こえる」


玲司が振り返る。


「何がだ」


EVEは答えない。


ただ海を見つめている。


その横顔は、

どこか悲しそうだった。


「海が呼んでいる」


玲司の背筋に寒気が走る。


その瞬間。


通信が入った。


『神崎玲司!』


AQUA-7だった。


珍しく焦っている。


『今すぐ本部へ来なさい!』


「何があった」


数秒の沈黙。


そして。


『深海観測基地が一つ消えた』


玲司の顔が固まる。


「消えた?」


『そう』


AQUA-7の声が低い。


『爆発じゃない』


『襲撃でもない』


『施設そのものが無くなった』


玲司が眉をひそめる。


意味が分からない。


AQUA-7が続ける。


『監視映像を見た』


『正直、私も信じたくない』


通信が切れる。


玲司とEVEは顔を見合わせた。


数十分後。


NEREID本部。


作戦会議室。


大型モニターに映像が表示される。


海底観測基地。


深度三千メートル。


異常なし。


研究員達が作業している。


その時。


画面端を、

何かが横切った。


小さな影。


魚ではない。


人でもない。


白い何か。


映像が乱れる。


ノイズ。


研究員達が振り返る。


そして。


全員が止まった。


まるで何かを見たように。


次の瞬間。


施設全体が揺れる。


照明消失。


警報。


叫び声。


そして。


映像の奥。


暗闇の中で。


巨大な何かが目を開いた。


玲司が息を呑む。


赤でもない。


青でもない。


深海色の瞳。


あまりにも巨大だった。


施設の何倍もある。


それだけではない。


映像の最後。


その瞳の周囲に。


無数の人影が見えた。


人ではない。


だが人に似ている。


静かに漂う。


白い群れ。


そこで映像は終了した。


会議室が沈黙する。


誰も喋れない。


AQUA-7が口を開く。


「生存者はゼロ」


「施設も残っていない」


玲司が映像を見つめる。


胸がざわつく。


見覚えがあった。


どこかで。


記憶の奥で。


榊悠真の記憶。


海の中。


巨大な影。


脈動する海。


その断片が蘇る。


そして。


玲司の口から言葉が漏れた。


「……母体」


会議室の空気が凍る。


NEREID上層部が顔を上げた。


AQUA-7も驚いている。


「何故その名前を知っているの」


玲司自身も分からない。


だが知っていた。


海の奥。


誰も見た事がない存在。


生命の原点。


海の意志。


榊悠真が一度だけ接触した存在。


母体生命体。


その時だった。


EVEが突然立ち上がる。


全員の視線が集まる。


白髪の少女は、

静かにモニターを見ていた。


そして。


小さく呟く。


「違う」


会議室が静まる。


EVEの瞳が揺れる。


「これは母体じゃない」


玲司が振り返る。


「どういう意味だ」


EVEは震えていた。


初めて見る反応だった。


恐怖。


まるでそんな感情。


そして。


彼女は言った。


「母体はもっと大きい」


沈黙。


誰も声を出せない。


EVEはモニターを見つめたまま続ける。


「これは……」


「母体の子供」


その瞬間。


世界中の海洋観測網で、

同時警報が鳴り響いた。


太平洋。


大西洋。


インド洋。


北極海。


南極海。


全海域。


同時に。


巨大生命反応確認。


観測史上最大。


誰かが震える声で呟く。


「ありえない……」


モニターに表示される数値。


そして。


世界地図上へ、

無数の蒼い光点が灯った。


まるで。


海の底で。


何かが一斉に目覚めたように。


――ドクン。


再び鼓動が響く。


今度は。


玲司にも。


世界中の人間にも。


聞こえていた。


海が鳴いていた。


まるで。


母親が子供を呼ぶように。


静かに。


深く。


どこまでも優しく。


そして恐ろしく。


―――続く

第18話でした。


今回は母体生命体へ繋がる大きな伏線回です。


ここから物語は、

深海変異体や黒海裂界だけではなく、

「生命そのものの起源」へ近づいていきます。


次回、

世界同時異常発生。


そしてNEREIDが隠し続けていた、

終焉戦争最大級の機密が姿を現します。


HYDRA CHRYSALIS ―REBIRTH―

これからさらに深海へ潜っていきます。

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