第16話 封印区画
終焉戦争が終わっても。
全てが終わった訳ではない。
人類は多くの禁忌を封印した。
見つかれば世界を滅ぼしかねないもの。
思い出してはいけないもの。
そして今。
海の底で眠っていた過去が、
再び目を覚ます。
HYDRA CHRYSALIS
REBIRTH
第16話 封印区画
NEREID本部。
作戦会議室。
空気は重かった。
誰も口を開かない。
巨大モニターには、
深海地図が表示されている。
その一点だけが赤く点滅していた。
第零封印区画。
終焉戦争末期。
人類が最も危険と判断した存在を封印した海底施設。
玲司は腕を組む。
「何がいるんだ」
沈黙。
上層部の男が答える。
「深海融合兵だ」
部屋の空気が変わる。
玲司は眉をひそめる。
知らない単語だった。
だが。
AQUA-7の表情を見て理解する。
まともな話ではない。
「人間を兵器にした」
低い声。
AQUA-7だった。
「終焉戦争で人類が作った怪物」
モニターが切り替わる。
古い映像。
ノイズだらけ。
研究施設。
拘束された人間。
その身体へ流し込まれる深海粒子。
そして。
絶叫。
映像が乱れる。
肉体が変形する。
腕が増える。
皮膚が蒼く染まる。
目が発光する。
誰かが叫んでいた。
『適合率が高すぎる!』
『止めろ!!』
『止まらない!!』
映像終了。
静寂。
玲司は思わず目を逸らした。
胸が悪い。
「これを……人間にやったのか」
誰も答えない。
答える必要もなかった。
それが答えだった。
その時。
警報が鳴る。
赤色灯。
『海底第零封印区画より緊急信号』
『生体反応増加』
『融合兵反応増加』
『反応数――』
一瞬。
通信が止まる。
次の瞬間。
数字が表示された。
12。
48。
103。
279。
711。
増え続ける。
会議室が凍りつく。
「……増殖している?」
誰かが呟いた。
上層部の男が首を振る。
青ざめながら。
「違う」
「最初からいたんだ」
玲司の背筋が冷える。
つまり。
封印区画には最初から。
それだけの数の融合兵が。
生きたまま閉じ込められていた。
その時。
EVEが初めて口を開く。
「――違う」
全員が振り向く。
EVEはモニターを見つめていた。
感情の薄い瞳。
だが。
どこか怯えているようにも見える。
「――融合兵ではない」
「別の反応が混ざっている」
部屋が静まる。
上層部が問う。
「何だ」
EVEは答えない。
数秒。
そして。
小さく呟いた。
「……母体由来生命体」
空気が止まる。
玲司が顔を上げる。
母体。
またその名前だ。
終焉戦争の亡霊。
海そのもの。
EVEの声が続く。
「封印区画内部で、
母体由来反応が増殖している」
「融合兵と接触した可能性が高い」
誰も意味を理解できなかった。
だが。
理解できないからこそ恐ろしい。
その時。
海底映像が映し出された。
暗闇。
封印区画。
壊れたゲート。
崩壊した隔壁。
そして。
監視カメラの奥。
何かが動いた。
人影。
いや。
人間だったもの。
蒼い皮膚。
発光する瞳。
異常に長い腕。
ゆっくり。
こちらを見る。
映像越しなのに。
目が合った。
次の瞬間。
通信が途切れた。
ノイズ。
黒画面。
誰も喋れない。
玲司だけが画面を見つめていた。
理由は分からない。
だが。
最後に映ったその存在。
どこか悲しそうな目をしていた。
まるで。
助けを求めるように。
その夜。
蒼海区の海で異変が起きる。
海面一帯へ。
無数の蒼い人影が浮かび上がった。
誰もいないはずの海。
波間に立つ影。
数百。
数千。
全てが海を見ていた。
まるで。
何かを待っているように。
そして。
海底最深部。
誰も到達できない暗闇の中。
巨大な心音が響く。
どくん。
どくん。
どくん。
海そのものが脈動する。
その奥で。
巨大な瞳が静かに開いた。
――続く
第16話でした。
今回は終焉戦争の禁忌、
深海融合兵を本格的に登場させました。
ただしHYDRAでは、
怪物は単なる敵ではありません。
彼らもまた、
人類が生み出した被害者です。
そして今回から、
母体由来生命体と融合兵の異常な関係が動き始めました。
次回は海底第零封印区画へ。
終焉戦争の闇が、
少しずつ明らかになります。




