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8 、HYDRA CHRYSALIS ―REBIRTH― 「終焉の先で、世界は再び生まれ変わる」  作者: Nao9999


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第15話 海の記憶

海は記憶を保存する。


それは神話でも、

比喩でもない。


終焉戦争を生きた者達は、

皆その事実を知っていた。


そして今。


海は再び、

失われた記憶を語り始める。

HYDRA CHRYSALIS


REBIRTH


第15話 海の記憶


蒼い粒子が降っていた。


雪のように。


雨のように。


静かに。


どこまでも静かに。


蒼海区の夜空を、

淡い光が包んでいる。


誰も声を出せなかった。


海面から浮かぶ、

巨大な影。


都市より巨大。


山より巨大。


だが。


全貌は見えない。


見えているのに、

脳が認識できない。


まるで。


世界そのものが、

存在を拒絶しているかのようだった。


玲司は立ち尽くす。


心臓が早い。


だが恐怖ではない。


懐かしさだった。


会ったこともない。


見たこともない。


なのに。


涙が出そうになる。


『――こども』


再び。


あの声が響く。


優しい。


温かい。


深海のように静かな声。


玲司の胸が熱くなる。


「……誰なんだ」


返事は無い。


代わりに。


海面が揺れた。


波紋。


蒼い波紋。


その瞬間。


玲司の視界が反転した。


「――っ!?」


景色が消える。


夜空も。


都市も。


海も。


全てが。


消えた。


気付けば。


玲司は海の中にいた。


深海。


静寂。


音が無い。


暗闇だけが続く。


だが。


不思議と苦しくない。


身体も沈まない。


ただ。


漂っている。


その時だった。


遠くに光が見えた。


蒼い光。


玲司は吸い寄せられるように近づく。


そこには。


一人の男が立っていた。


黒髪。


静かな瞳。


見覚えがある。


いや。


何度も見た。


記憶の中で。


夢の中で。


海の中で。


男は振り返る。


小さく苦笑した。


「……またか」


玲司の呼吸が止まる。


「榊……悠真」


男は否定しない。


ただ。


少し困ったように笑う。


「正確には違う」


「これは記録だ」


玲司は言葉を失う。


榊は海を見た。


どこまでも続く深海。


静かな世界。


「海は忘れない」


「人も」


「感情も」


「痛みもな」


その声は穏やかだった。


だが。


どこか疲れている。


長い旅を終えた人間の声だった。


玲司が拳を握る。


「何で俺なんだ」


榊は答えない。


代わりに。


玲司を見る。


真っ直ぐ。


静かに。


「……お前はどう思う」


「何を」


「生きる理由だ」


玲司が黙る。


答えられない。


まだ。


そんな事を考えた事もなかった。


榊は小さく笑った。


「そうだよな」


「俺も分からなかった」


静寂。


深海の闇。


その時。


遠くで何かが動いた。


巨大な影。


あまりにも巨大。


玲司の視界へ収まりきらない。


深海全体が脈動している。


どくん。


どくん。


まるで心臓。


榊が振り返る。


その影を見上げる。


そして。


静かに呟いた。


「……母さん」


玲司の目が見開く。


母さん。


今。


そう言った。


巨大な影が脈動する。


優しく。


まるで子供を見守るように。


玲司の身体が震える。


母体。


海母。


海そのもの。


榊は知っていた。


終焉戦争の時から。


その瞬間。


世界が割れた。


轟音。


深海へ亀裂が走る。


黒い闇。


黒海裂界。


深海の中へ。


存在しないはずの裂け目。


そこから。


巨大な“目”が現れた。


玲司の本能が叫ぶ。


外宇宙捕食者。


榊の表情が変わる。


静かな怒り。


かつて見せた事のないほど冷たい瞳。


「……来るな」


その声だけで。


深海が震えた。


次の瞬間。


玲司の視界が白く染まる。


世界が崩壊する。


蒼い光。


波音。


誰かの叫び。


そして。


目を開く。


気付けば。


元の港だった。


玲司は膝をつく。


息が荒い。


EVEが隣にいた。


静かに。


そして。


初めて。


少しだけ悲しそうな顔をしていた。


「――記憶接続を確認」


玲司が顔を上げる。


海を見る。


巨大な影はまだいる。


だが。


少しずつ沈んでいた。


まるで。


役目を終えたかのように。


その時。


NEREID本部から緊急通信が入る。


『全隊員へ通達』


『海底第零封印区画の封鎖が破られた』


沈黙。


そして。


次の言葉で全員が凍りついた。


『深海融合兵反応を確認』


『生存個体数――不明』


海風が吹く。


蒼い粒子が舞う。


そして。


誰も知らない終焉戦争の亡霊達が、


再び目を覚まそうとしていた。


――続く

第15話でした。


今回は初めて、

榊悠真本人の記録との接触を描きました。


ただし、

まだ本人ではありません。


海に残された「記録」です。


そして今回の重要伏線は、

榊が母体を「母さん」と呼んだ事。


これは今後、

HYDRA最大級の謎へ繋がっていきます。


次回から、

終焉戦争の禁忌である

深海融合兵編へ突入します。

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