第13話 女王核
地下最深部。
終焉戦争時代の禁忌研究施設で、
玲司達が出会った存在。
流体知性体――女王核。
そして彼女は、
榊悠真の名を口にした。
海に沈められた記憶が、
静かに目を覚まそうとしていた。
地下海が揺れていた。
深海色の波紋。
巨大な繭。
その中心で、
白髪の女が玲司を見つめている。
静かな瞳。
だが。
その奥には、
底知れない孤独が沈んでいた。
『――榊悠真』
女王核が、
もう一度その名を呟く。
玲司の胸が脈動した。
ドクン。
海が共鳴する。
原初因子が、
異常反応を起こしていた。
AQUA-7が武装を構える。
「識別コードを出せ」
低い声。
だが女王核は、
彼女を見ない。
視線は、
玲司だけへ向けられていた。
『……似ている』
玲司が眉をひそめる。
「何がだよ」
女王核は答えない。
代わりに。
地下海が、
静かに発光し始めた。
蒼い粒子。
海中へ無数の光が漂う。
まるで。
星空だった。
玲司の視界が揺れる。
次の瞬間。
大量の記憶が、
脳へ流れ込む。
終焉戦争。
崩壊した都市。
海霧。
黒海裂界。
泣き叫ぶ人々。
そして。
巨大研究施設。
地下水槽の中で、
無数の蒼泡が脈動していた。
研究員の声。
『流体知性体、
自己進化を開始』
『人間記憶との融合反応あり』
『制御不能です!!』
映像が変わる。
白衣姿の女。
長い黒髪。
冷静な瞳。
玲司が息を呑む。
「……水城?」
水城澪だった。
若い。
だが今より、
遥かに疲れた顔をしている。
彼女は水槽を見つめていた。
その中。
半透明の液体内で、
白髪の少女が眠っている。
『……この子は、
ただの兵器じゃない』
水城の声。
静かだった。
『感情を学習してる』
研究員が怒鳴る。
『だから危険なんだ!』
『終焉存在へ対抗するには、
存在侵食兵器が必要だ!』
『もう時間が無い!』
水城が唇を噛む。
悲しそうに。
『……だからって』
『人間を溶かしていい理由にはならない』
映像がノイズ混じりに揺れる。
警報。
施設崩壊。
蒼泡暴走。
逃げ惑う研究員。
その中。
水城澪が、
眠る白髪の少女へ触れる。
『あなたは、
こんな場所にいてはいけない』
少女が、
ゆっくり目を開く。
深海色の瞳。
『……コドク』
水城が目を見開く。
少女は、
涙のような液体を流しながら言った。
『……ワタシ、
イラナイノ?』
玲司の呼吸が止まる。
映像が崩壊。
現実へ戻される。
地下海。
女王核が、
静かに玲司を見ていた。
『――人間は、
いつも孤独を捨てる』
『理解できないものを、
怪物に変える』
玲司は何も言えなかった。
胸が苦しい。
あれは兵器じゃない。
感情を持ってしまった、
生命だった。
AQUA-7が低く呟く。
「……終焉戦争の、
存在侵食研究」
「まさか、
ここまで狂ってたなんて」
その時。
地下海全体が、
突然大きく脈動した。
ドクン!!
巨大な揺れ。
天井が軋む。
EVEの声が響く。
『――警告』
『黒海裂界反応急上昇』
『地下深部で、
未知生命活動を確認』
玲司が顔を上げる。
海の奥。
暗い深海。
そこに。
巨大な“影”が見えた。
大きすぎる。
施設より遥かに巨大。
ゆっくり。
海の底を移動している。
ドクン。
ドクン。
心臓のような音。
地下海全体が、
その鼓動へ共鳴していた。
女王核の表情が変わる。
初めて。
恐怖が浮かぶ。
『……母体』
玲司の背筋が凍る。
海の奥。
巨大な瞳が、
ゆっくり開いた。
そして。
地下海そのものが、
呼吸を始めた。
―――続く
第13話
「女王核」でした。
流体知性体は、
ただの禁忌兵器ではありませんでした。
そして、
地下深部で目覚め始めた
“母体”。
海そのもののような存在が、
ついに玲司達へ接触を始めます。




