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風刺画家と共和国の抱擁・・・許容という名の処刑

その絵は、展示室の最も奥の、ほとんど非常口に近い壁面にひっそりと掛けられていた。


新・共和国絵画展の審査は、ダヴィドが委員長を務める五名の選考委員が行った。数百点の応募作品から百二十点が選ばれ、旧アカデミーの広大な展示室に配置された。配置はダヴィドとサン=ジュストが共同で設計した。冒頭にヴィジェ=ルブラン。中盤にゴヤとターナー。終盤にカウフマンとダヴィド自身の新作。すべてが精密に計算された動線で、観客の感情を導いていく。


だが、最後の壁面動線の終着点のさらに先、カタログにも載っていない場所に、一枚の絵が追加されていた。


審査を通過していない作品だった。


展示設営の最終日の深夜、誰かが夜間の警備員を買収したのか、あるいは設営作業員に紛れ込んだのか、この絵を壁に掛けて去った。釘一本と麻紐だけで、雑に、しかし確実に。


翌朝、最初にこの絵を発見したのは展示室の清掃を担当する老婦人だった。彼女は絵の内容を理解しなかったが、カタログにない作品が壁にあることは理解した。設営責任者に報告し、責任者がダヴィドに報告し、ダヴィドがサン=ジュストに報告した。


サン=ジュストが展示室に駆けつけ絵を見た瞬間、美青年の顔から血の気が引いた。


* * *


絵は、油彩だった。

縦九十センチ、横百二十センチ。画布は安物の麻で、絵具の質も上等とは言えない。だが、技術は確かだった。デッサンは正確で、色彩感覚は鋭く、構図には計算された大胆さがあった。明らかにアカデミーの教育を受けた人間の手による作品だった。


描かれているのは、パリの街だった。

画面の左側に巨大な女性の姿がある。トリコロールの旗を掲げ、裸足で瓦礫の上に立ち、右手を前方に差し伸べて人々を導いている。革命の図像学の中によくある自由の女神が画面の左半分で、力強く人々を導いている。


問題は、右半分だった。

画面の右側には、暗い部屋が描かれている。机。蝋燭。帳簿の山。計算板。そして、その机に向かう数人の男たち。痩身で蒼白な男が中央に座り、ペンを走らせている。その顔は誰がどう見てもマクシミリアン・ロベスピエールだった。


ロベスピエールの周囲には、他の男たちがいる。杖をついた跛行の男タレーラン。軍服を着た小柄な男ナポレオン。白衣の男ラヴォアジエ。彼らは全員、自由の女神に背を向けている。女神が掲げるトリコロールの旗は、彼らの視界に入っていない。彼らの目は、帳簿と数字だけを見ている。


画面の最下部に、小さな文字で題名が記されていた。


『自由を数えた男たち(Les Comptables de la Liberté)』

そして、さらに小さく署名。

J.-P.M.


* * *


サン=ジュストは、この絵の前で三十秒間動かなかった。

それから、振り向いた。美しい顔は蒼白で、目にはかつて議場で「低俗だ」と叫んだときよりも激しい怒りが燃えていた。


「ダヴィド。この絵を描いた者を特定しろ。今すぐに」


「落ち着け、サン=ジュスト」


「落ち着いていられるか!これは反逆だ!共和国の指導者を公然と侮辱する風刺画だ!憲法が保障する表現の自由には限界がある。国家の安全を脅かす表現は…」


「サン=ジュスト」


声が、展示室の入口から響いた。

ロベスピエールだった。


報告を受けて駆けつけたのではなかった。この朝、展示室の開場前に自ら足を運んだのだ。前夜にタレーランから懺悔室のネットワーク経由で「展示室に無許可の作品が持ち込まれた」という情報を受け取っていた。パリの教区の若い司祭が、懺悔に来た美術学生から「明日、展示室で面白いことが起きる」という告白を聞き、月次報告書に記載したのだ。


ロベスピエールは展示室の奥まで歩いた。


議員たちが数名すでに集まっていた。サン=ジュストの怒声を聞きつけて駆けつけた者たちだ。彼らの顔にも怒りがあった。


「撤去すべきだ!」


「画家を逮捕しろ!」


「これは名誉毀損だ。共和国の尊厳を傷つけている!」


声が重なる。怒りが増幅する。球戯場の光景が一瞬、ロベスピエールの脳裏をよぎった。恐怖が攻撃性に転換される動物的反射。あの反射は怒りの対象が外国の君主であろうと、無名の風刺画家であろうと同じ速度で、同じ強度で発生する。


ロベスピエールは絵の前に立った。


静かに。


議員たちの怒声が彼の背中で止まった。この男が静かに立つと空間の温度が変わる。議場で学習された条件反射。


ロベスピエールは、絵を見た。


* * *


三十秒。

ロベスピエールは、この絵を三十秒間、無言で見つめた。


左半分の自由の女神。右半分の帳簿に没頭する自分たち。女神は前を向いている。自分たちは下を向いている。女神は裸足で瓦礫を踏んでいる。自分たちは椅子に座って数字を書いている。


この絵が言っていることは、明確だった。

お前たちは、自由を殺した。


自由を掲げるふりをしながら、実際には帳簿と数字で人々を管理し、統制し、支配している。自由の女神が指し示す方向を、お前たちは見ようともしない。お前たちが見ているのは自由ではなく帳簿だ。お前たちの革命は、王冠を外して帳簿に置き換えただけだ。鎖の素材が変わっただけで、鎖そのものは消えていない。


痛烈な批判だった。

そして正確な批判だった。


ロベスピエールは、それを認めざるを得なかった。この無名の画家はおそらく二十代前半の、血流るる悲劇を知らない若者はロベスピエールのシステムの本質を、一枚の絵で暴いていた。


完全管理された平和。息の詰まるような安定。パンは安い。道路は整備されている。オペラ座は開放されている。ラ・マルセイエーズが朝の市場に響いている。だが、その平和の裏で、すべてが設計されている。すべてが計算されている。すべてが帳簿の数字に還元されている。


自由の女神が導く方向に、本当に自由はあるのか。

それとも、女神が指し示す先にあるのもまた帳簿なのか。


ロベスピエールは、この問いを脳の中で処理した。

感情的な反応は一切なかった。怒りもなかった。傷つきもしなかった。この絵が自分を侮辱していることは理解したが、侮辱はデータに過ぎない。問題は、このデータをどう処理するかだ。


選択肢は三つあった。


第一。撤去し、画家を逮捕する。サン=ジュストと議員たちが求めている対応。即効性がある。だが、ロベスピエールの脳が、以前の人生での記憶を検索した。


恐怖政治。言論の弾圧。新聞の発禁。反対意見の粛清。そのすべてが、反対意見を地下に潜らせ、地下で増殖させ、やがてテルミドールという名の地震として噴出した。弾圧は反逆を殺さない。反逆を地下に追いやるだけだ。地下に潜った反逆者は殉教者になる。殉教者は生きている反逆者よりもはるかに危険だ。殉教者は死なない。殉教者は物語になる。物語はギロチンでは切れない。


第一の選択肢は却下。


第二。無視する。絵をそのまま放置し、何の反応も示さない。だが、これも問題がある。無視は暗黙の禁止と同じだ。「議長が見たのに何も言わなかった」ことは、「議長が不快に思ったが、行動する勇気がなかった」と解釈される。弱さの表明になる。


第二の選択肢も却下。


第三の選択肢は…

ロベスピエールの唇が、微かに歪んだ。


* * *


ロベスピエールが振り向いた。


議員たちとサン=ジュストが、彼の顔を見た。

怒りを期待していた。少なくとも不快感を。撤去の命令を。画家の捜索を。何らかの否定的な反応を。


ロベスピエールは拍手した。

静かに。優雅に。三回。

拍手の音が、展示室の高い天井に反響し、沈黙の中に落ちた。


「素晴らしい」


ロベスピエールの一言に、議員たちの顔が凍りついた。

「素晴らしい絵だ。構図は大胆で、色彩は鋭く、デッサンは正確だ。そして何より、この絵は勇敢だ」


「ロベスピエール…」


サン=ジュストが声を上げかけた。ロベスピエールが、手で制した。三度目の制止。球戯場で「低俗だ」と叫んだとき。議場で最高存在の祭典を主張したとき。そして今。サン=ジュストは、三度目の制止に、唇を噛んで従った。


「この絵の画家は共和国の指導者を正面から批判している。帳簿と数字に没頭するあまり、自由の理想を見失っているのではないか、と。諸君、この批判が正しいか正しくないかは別として、極めて知的で、極めて挑戦的で、そして…極めて美しい」


議員たちの間に困惑のざわめきが広がった。


「この絵が存在すること自体が、我々の共和国が本物の自由を保障していることの証明だ」


ロベスピエールの声が一段上がった。演説の声ではなかった。もっと静かで、もっと深い声。確信の声。

「王政の下国王を風刺する絵を描けば画家は投獄された。旧体制のアカデミーで、権力者を批判する作品を展示すれば画家は追放された。だが、我々の共和国では国家の最高指導者を正面から風刺する絵が、公的な展示場に掛けられている。しかも審査を通過していない無許可の作品が一夜にして壁に掛けられ、朝には議長自身がそれを見ている。これほど鮮やかに表現の自由を証明する光景が他にあるだろうか」


沈黙が展示室を満たした。


「この絵には何らかの賞がふさわしい」


議員たちの間から、息を呑む音がした。


「新・共和国絵画展の特別賞をこの作品に授与する。画家には名乗り出てくれれば賞金と、次回の展示への正式な招待を贈る」


ロベスピエールは、もう一度絵を振り返った。


「J.-P.M.。君が誰であるかは知らない。だが、君の目は正しい。我々が帳簿に没頭するあまり、自由の女神を見失う危険があることを、君は一枚の絵で我々に思い出させてくれた。それは批判ではなく贈り物だ。共和国への、最高の贈り物だ」


ロベスピエールは展示室を去った。


残された議員たちは呆然としていた。サン=ジュストだけがかすかに唇を歪めていた。苦い笑みだった。彼はロベスピエールの意図を正確に理解していた。


* * *


その夜、ロベスピエールの執務室。

蝋燭を二本灯し、椅子に深く座り、天井を見つめていた。


タレーランが招かれもしないのに入ってきた。杖の音が廊下に響き、扉を開け、勧められもしない椅子に座った。いつもの蛇のような所作で。


「見事だったな」


「何がだ」


「あの風刺画への対応だ。だが、私には君の本心が見える」


「本心?」


「あの絵に賞を与えた理由だ。表現の自由の証明?共和国への贈り物?きれいごとだ。本当の理由はもっと冷たい」


ロベスピエールは、タレーランを見た。この男は相変わらず人間の心の裏を読むことに長けていた。


「言ってみろ」


「禁止すれば、あの画家は殉教者になる。地下に潜り、同志を集め、反体制運動の象徴になる。だが、賞を与えれば?」


タレーランの薄い唇が、ゆっくりと歪んだ。


「賞を与えれば、あの画家は体制の一部になる。共和国が認め、共和国が賞賛し、共和国が金銭を支払った画家だ。反逆者ではなく、受賞者だ。地下の英雄ではなく、展示室のスターだ。彼の反逆は、その瞬間から、『体制内の安全な娯楽』に変質する」


「…続けろ」


「次の作品はどうなる。あの画家が、より過激な風刺画を描いたとしよう。共和国はまた賞を与える。より高額の賞金を。より大きな展示スペースを。あの画家の名前は有名になり、作品は売れ、パトロンがつく。パトロンは誰だ?フラン経済圏の富裕な市民だ。つまり体制の受益者だ。反逆者が体制の受益者に支えられて反逆する。これほど無害な反逆があるだろうか」


「その通りだ」


ロベスピエールは否定しなかった。


「あの画家は賞を受け入れた瞬間に牙を抜かれる。受賞者は、次の賞を意識する。次の賞を意識する者は、体制を完全に否定することができなくなる。なぜなら、体制を完全に否定すれば次の賞がもらえなくなるからだ。反逆は許容された瞬間に飼い馴らされる」


「血の流れぬ処刑だな。だが、効果は残酷なほどに大きい」


タレーランが、杖を床に突いた。


「首を切る代わりに抱擁する。殺す代わりに愛する。排除する代わりに取り込む。結果は同じだ。反逆者が無力化される。だが、方法がまったく違う。血が流れない。叫び声が上がらない。反逆者本人すら、自分が処刑されたことに気づかない。気づいたときには、すでにシステムの部品になっている」


「許容という名の処刑」

ロベスピエールが、自分の方法に名前をつけた。


「……恐ろしい男だな、君は」


「何度も言われた」


「だが今回の『恐ろしい』は、前の何回とも違う温度だ」


タレーランが、ロベスピエールの目を見た。跛行の外交官の目には、いつもの冷笑ではなく何か別のものがあった。それは同業者が同業者を見る目だった。同じ冷徹さを持つ者同士が、互いの深淵を覗き込む目。


「ロベスピエール。ギロチンは少なくとも正直だ。国家が人間を殺す。殺す者と殺される者が明確に区別される。残酷だが、透明だ。だが、君の方法は透明ではない。抱擁された者は、自分が処刑されたことを知らない。賞賛された者は、自分が無力化されたことを知らない。これは、ギロチンよりも不誠実ではないか」


ロベスピエールは、長い沈黙の後、答えた。


「不誠実だ」


タレーランが、微かに目を見開いた。否定を予想していたのだ。


「不誠実だ、タレーラン。私のシステムは不誠実だ。人間を、知らないまま部品にする。幸福を、知らないまま操作する。反逆を、知らないまま飼い馴らす。すべてが、当事者の知らないところで、設計されている」


「それを認めた上で続けるのか」


「続ける」


「なぜだ」


「なぜなら」

ロベスピエールは、蝋燭の炎を見つめた。


「誠実さは暴力を生むからだ。誠実な人間は妥協を許さない。妥協を許さない人間は、妥協する者を敵と見なす。敵を排除する。排除が排除を呼びヒュドラの首が増殖する」


「だから、不誠実を選ぶのか」


「そうだ。不誠実を選ぶ。妥協を選ぶ。操作を選ぶ。人間の知らないところで、人間を幸福にする。人間の知らないところで、反逆を無力化する。人間の知らないところで、国家を安定させる。それは、確かに不誠実だ。だが」


ロベスピエールの声が、かすかに震えた。この男の声が震えるのは断頭台の記憶が蘇ったときだけだった。


「多くのフランス国民が生きている。誰もが皆、笑顔で日々を過ごしている。不誠実であることの代償として多くの命が救われ、多くの幸福が得られるのであれば、私は不誠実を選ぶ」


タレーランは、長い長い沈黙の後、杖を突いて立ち上がった。


「ロベスピエール」


「何だ」


「私は多くの顔を持つ男だ。裏切りの天才だ。不誠実のプロフェッショナルだ。だが、君のような不誠実は、初めて見た」


「どういう意味だ」


「君の不誠実は苦しんでいる。私の裏切りには痛みがない。私は裏切ることに罪悪感がない。だが、君は自分の不誠実を、完全に自覚し、完全に苦しみながら、それでも選んでいる。それは、不誠実というより……」

タレーランは言葉を探した。この男が言葉を探すのは珍しいことだった。


「贖罪だ」

ロベスピエールがタレーランの言葉を続けるように、静かに答えた。


「何に対する贖罪だ」


今度は、何も答えなかった。


タレーランは軽くうなずいて立ち上がり、笑みを残して扉に向かった。杖の音が、廊下に遠ざかっていく。


残されたロベスピエールは、蝋燭の炎を見つめていた。


贖罪。


千三百七十六人を殺した罪の。


断頭台で砕けた顎の痛みの。


そうかもしれない。自分がやっていることの全体通貨も物流も科学も外交も芸術祭も風刺画の許容もすべてが、五年後の未来で犯した罪への、贖いなのかもしれない。


だが贖いであることと、正しいことは、同じではない。


あの風刺画は正しかった。


自分たちは帳簿に没頭するあまり、自由の女神を見失っている。ラファイエットが人権宣言で「心」を加えてくれた。芸術祭で「感動」を加えてくれた。だが、心と感動すらも、自分の手にかかれば設計と操作の道具になる。


自由の女神は、帳簿を読む男たちに背を向けている。


あの絵の中の女神は正しい方向を向いている。


自分たちは間違った方向を向いているのかもしれない。


* * *


三日後。


風刺画の作者が名乗り出た。


ジャン=ピエール・マラト。あの「人民の友」マラーとは別人の、二十三歳の美術学生。パリ美術学校の三年生。痩せた体に大きな目をした、神経質そうな青年。指先にはインクと絵具が染みつき、爪の間に青い顔料が残っている。


マラトは、ロベスピエールの執務室に通された。


彼は明らかに逮捕を覚悟していた。顔は蒼白で、手が震えていた。椅子に座ったが、背筋は棒のように硬かった。


「マラト君」


ロベスピエールが、穏やかに声をかけた。


「は、はい」


「賞を受け取りに来たのか」


「……え」


「特別賞だ。賞金は……」


ロベスピエールが金額を告げた。美術学生の年間生活費に相当する額だった。


「そして、次回の共和国絵画展への正式な招待状。出展枠は保証する。審査なしで」


マラトの目が、見開かれた。逮捕ではない。投獄ではない。追放でもない。賞金と、展示の保証。


「なぜ」


マラトの声が、かすれた。


「なぜ、賞をくれるんですか。あの絵はあなたを侮辱する絵です。あなたのシステムを批判する絵です。怒らないんですか」


「怒らない」


「なぜですか」


「君の絵は正しいからだ」


マラトの目が、さらに大きくなった。


「我々は帳簿に没頭している。数字に支配されている。自由の理想よりも経済指標の方を見ている。君はそれを見抜いた。その目は画家として極めて優れている」


「それでは……あなたは、自分のシステムを変えるんですか。帳簿を閉じるんですか。数字をやめるんですか」


ロベスピエールは、微かに笑った。


「いいや。変えない。帳簿は閉じない。数字はやめない。なぜなら、帳簿と数字がなければパンの値段が上がる。道路が崩れる。通貨が暴落する。農民が飢える。君の絵は正しいが、帳簿も正しい。両方が正しい。矛盾しているが、両方が正しい。それが、現実だ」


マラトは、数秒間、ロベスピエールの顔を見つめた。


それからゆっくりと理解した。


この男は、自分の批判を認めた上で、自分の方法を変えないと言っている。批判を受け入れ、しかし行動を変えない。それは、矛盾ではないか。だが、この男の目には矛盾を抱えたまま生きることへの深い覚悟があった。


「賞を受け取ります」

マラトが言った。


「ありがとう」


「次の絵もあなたを描きます。もっと辛辣に。もっと正確に」


「楽しみにしている」


マラトは立ち上がり、一礼して執務室を出た。


扉が閉まった後、ロベスピエールは椅子の背にもたれた。


あの青年は気づいていない。


賞を受け取った瞬間に、彼の反逆は飼い馴らされた。次の作品が「もっと辛辣に、もっと正確に」なっても、それは体制が許容した範囲内の反逆に過ぎない。体制が賞を与え、体制が展示場を提供し、体制が賞金を支払う。その枠組みの中での反逆は、どれほど辛辣であっても、枠組みそのものを壊す力を持たない。


牙は抜かれた。


だが。


ロベスピエールの脳裏に、ラファイエットの言葉が蘇った。


「人間は、数式ではない」


もし、あの青年が賞金と展示枠では飼い馴らされない種類の人間だったら?


もし、体制に取り込まれることへの怒りが、最初の風刺画よりもさらに深い反逆を生むとしたら?


もし、「許容された反逆」の中に、許容しきれないものが育つとしたら?


ロベスピエールは、その可能性を脳の隅で計算した。確率は低い。だが、ゼロではない。


バグのないコードは存在しない。


完璧なシステムは、必ず、どこかに亀裂を持つ。


その亀裂がどこから、いつ、どのような形で現れるかロベスピエールには、まだわからなかった。

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