【98話】朝焼けの青炎 3
青鷺火との戦いから2時間が経過した。
午前8時30分。
冬輝が自分の部屋で横になっていると、
「冬輝さま、入ってもよろしいでしょうか」
廊下から煌白が声をかけた。
「いいですよ」
「失礼します」
腰高障子を開けると、煌白は冬輝のそばへ行き、
「からだの具合はどうですか?」
体調を心配してくれた。
冬輝は妖術を使うと、熱が出る体質なのだ。
ちなみに、きょうは日曜日。
そもそも学校が休みなので、寝込んでも欠席にはならない。
「少しダルいけど、熱のほうはだいじょうぶです。さっき測ったら36.8℃だったし」
「すみません。わたしが錬氷術を使わせてしまったばかりに――」
「それは言わない約束ですよ。それに、あのままじゃ青鷺火にやられてたかもしれないし」
「そのことなのですが」
煌白が眉間にしわを寄せた。
「あの青鷺火の身元がわかりました。彼の名は焼二。年齢は24で、決まった職を持たず、橋の下や公園で寝泊まりしていたそうです」
「そうですか」
「詮議(取り調べ)したのは熟練魔廻りの水谷さまです。彼の報告によると、焼二がわたしたちを襲ったのはまぶしかったからだと」
「どういうことです?」
「焼二は賭博で多額の借金をつくっていて、それが原因で1年前に勘当されています」
勘当とは親子の縁を断つことである。
「すべてをうしなった焼二には、たのしそうにランニングするわたしたちがまぶしく見えた。そして羨ましくもあった。水谷さまはそう教えてくれました」
「…………」
「焼二は冬輝さまが凍連の者だとは知らなかったようです」
「そうですか」
「わたしたちのことを知ると、大声できたない言葉を吐いたとか」
その光景を想像すると、イバラを巻きつけられたみたいに胸が痛んだ。
「焼二は遠島ですか?」
「おそらくは」
遠島は江戸時代からつづく重罪を犯した怪異への刑罰で、流刑者はあの世とこの世の狭間にある離島に送られ、そこで何百年も過ごすのである。
「魔廻りの仕事をつづける以上は、これからもこういう下手人と対峙することになりますよね」
「はい」
「正直いうと心苦しいです」
「わたしもです」
煌白が沈鬱な表情でうなずいた。
ただ――。
冬輝にはひとつだけ、うれしいことがあった。
(まわりからは、ぼくと煌白さんが、たのしんで走ってるように見えるんだ)
そう思うと、うれしいのと照れ臭いのとで顔が熱くなった。
「冬輝さま、なんだか顔が赤いようですが、だいじょうぶですか?」
「えっ? あ、もしかしたら、また熱が出始めたのかも」
そう言って、冬輝はわざとらしくコホコホと咳をするのだった。
(朝焼けの青炎・完)
【あとがき】
これからもゴクハナの新作エピソードは投稿していく予定です。
なんとか――なんとか9月中に投稿できたあぁぁ!
ちなみに次回はミユキ・ミサキが主役の話を投稿する予定です。
【お詫びと訂正】
エピソード96・98にて本来は「焼二」であるべき箇所が誤って「燃二」になっていたことをお詫びします。
9月30日に燃二の表記をすべて焼二に訂正しました。




