【94話】星屑の決意 4
「49+18-13は!?」
大きく踏みこみ、万福は甲冑の兜めがけて小槌を降りおろした。
それを甲冑は後方に跳んで回避。
直後に低空タックルで反撃した。
「ひえ~」
両足首をつかまれ、万福は転倒。
そのままスピニング・トーホールド(回転足首固め)をかけられた。
「ギブアップ!」
万福はすぐに降参。
慎吾同様、10秒で模擬戦は終了した。
「おまえ、なんで算数の問題なんか出したんだよ?」
近寄りながら、慎吾が訊いた。
「まさか筋力増加の妖術か?」
「ちがいますよ。相手が問題を解いてるうちにボコッとやろうと思ったんです」
「バカ野郎。こすいこと考えやがって」
「すみません」
「だいたい甲冑はしゃべれないだろうが」
「あ、そういやそうだ」
「そもそも、おまえ、答えをわかって出したのか?」
「わかるわけないじゃないですか。口から出まかせのテキトー問題なんですから」
「なら、もし相手がテキトーな答えを言っても、正解かどうかわかんねえじゃねえか」
「言われてみれば、そうですね」
「そうですねじゃねえよ。まあいい。今度はふたりがかりで挑むぞ」
「へえ」
その後40分ほど模擬戦をつづけたが、ふたりが勝利をつかむことは一度もなかった。
「ちょっと小便に行ってくる」
そう言って、慎吾は母屋のほうへ行ったが、5分経っても10分経ってももどってこない。
(えらく長い小便だなぁ)
万福は不審に思いつつも、
(ま、その分、ゆっくり休めるからいいか)
ニコニコとお茶を飲んでいるところへ、やっと慎吾がもどってきた。
「旦那、えらく遅かったですが、大きいほうも出してたんですかい?」
「…………」
「旦那?」
「万福、甲冑をたおれないように設定しろ」
「えっ?」
「相手はだれでもいい。ただし反撃はさせるな。突っ立ってるだけにしろ」
「どうして?」
「何も聞くな。いまから、おれはこいつをたたきまくる」
言うや否や、慎吾は錬影術で影の竹刀をつくった。
「影輪剣じゃないんですか?」
「いまは、こっちの気分なんだ」
「気分?」
「とにかく、こいつを何があってもたおれない木偶の坊に設定しろ」
「わかりやした。突っ立ってるだけですが、一応あっしの動きを登録しておきますね」
登録と設定はすぐに完了した。
「…………」
「旦那、だいじょうぶですか?」
慎吾の表情はトイレで用を足してきたとは思えないほど険しく、むしろ何かを溜めこんでいるように見えた。
「だいじょうぶだ」
「ならいいですけど」
「けど合図するときは離れとけよ。竹刀は使い慣れてないからな」
「へえ……」
あきらかに、いつもと様子がちがう。
離れるときにそっと視線を下げると、慎吾は真っ赤になるほど、こぶしを強く握っていた。
「それじゃあ、はじめますよ」
「ああ」
「はじめっ!」
その瞬間、
「うおおぉぉ」
雄叫び一発。
鬼神の如き迫力で、甲冑に竹刀をたたきこんだ。
(つづく)
【あとがき】
更新は毎日おこなう予定です。
スピニング・トーホールドはカウボーイスタイルのレスラーだったドリー・ファンク・シニアの決め技で、息子のドリー・ファンク・ジュニアと、その弟のテリー・ファンクも使用したことから、ファンク家の伝家の宝刀とも呼ばれています。
なお同名の曲も存在し、これはドリー&テリーの兄弟タッグチーム『ザ・ファンクス」の入場テーマ曲にもなっています。
「生きてるって~なんだろ~」のフレーズで、どのような曲かわかった方は、おそらく犬山と同世代です。




