【93話】星屑の決意 3
「買ったからには稽古しないとな」
というわけで、浅井家の庭で甲冑と模擬戦をおこなうことにした。
「まずは筵(結界)をかけて、と」
筵をかけ、外から庭の様子を見えないようにすると、
「万福、模擬戦の相手になりそうなやつを選んでくれ」
「そうですねぇ……」
万福が手帳に目を走らす。
この手帳は大将がくれたもので、甲冑に登録された人物の名が記されているのだ。
「へえ~、江戸時代の同心なんかも登録されてますね。あ、こんなのはどうです? 定町廻り同心、垢塗臭右衛門」
「なんかきたない名前だな」
「同じく同心で竹輪麩半片太ってのもいますよ」
「おでんの具かよ。ほかには?」
「あとは……あ、プロレスラーでドス・カタナってのがいます」
「プロレスラーか」
そういえば、以前に先輩の魔廻りから、
「凍連んとこの雪女は甲冑にプロレスラーを登録させて、関節技を練習してるらしいぜ」
という話を聞いたことがある。
プロレスラーを相手にするのも案外アリかもしれない。
「よし、そいつで頼む」
「わかりやした。それじゃあ、ドス・カタナっと」
万福が霊力を流しこむと、甲冑がその場でスクワットをはじめた。
「実力の設定もできるみたいですが、どうします?」
「う~ん。じゃあ50%で」
「わかりやした。甲冑さん、5割の力で頼むよ」
甲冑がこくりとうなずいた。
* * * * *
いよいよ稽古開始である。
「そ、それじゃあ、はじめるぞ」
模擬戦用につくった斬れ味ゼロの影輪剣を両手に、慎吾は甲冑をにらみつけた。
(いざ戦うとなると、とたんに恐ろしいやつに見えやがる)
キズまみれのオンボロ甲冑だが、こうして対峙すると、そのキズが歴戦の勲章みたいに見えて、ひざが震えてくる。
「はじめっ!」
万福の合図とともに慎吾は、
「て、て、てやー!」
すくむ足で、甲冑に突撃。
けど手首捻りと腕ひしぎ十字固めを受けて、すぐにギブアップ。
開始10秒で敗北を喫した。
* * * * *
こうして話は現在へともどる。
「いててて」
「だいじょうぶですか、旦那?」
腕をさする慎吾に万福が駆け寄った。
「ちくしょう。何が50%だよ。腕が折れるかと思ったぞ」
「さすがプロレスラーですね。5割の力で旦那を瞬殺できるんですから」
「感心してねえで早く武器をかまえろ。つぎはおまえの番だぞ」
「じゃあ相手は料理人の旨井召也で――」
「てめえもドスとやるんだよ!」
怒鳴りながら、万福の尻をバチーン。
「ひゃあ、痛い」
「うるせえ。いまから、もっと痛い思いをするんだ。ケツバンぐらいで、デブおやじが生娘みたいな声を出すんじゃねえ」
けっきょく、万福もドス・カタナと戦うことになった。
「万福、準備はいいか?」
「へ、へえ」
「それじゃあ、いくぞ。はじめっ!」
慎吾の銅鑼声で模擬戦が開始。
すると、いきなり万福が、
「14+23は!?」
なぜか算数の問題を口にしながら、小槌をブンブン。
じわじわと甲冑に詰め寄った。
「19+54は!?」
「25+67は!?」
「9+4+22は!?」
つぎつぎに問題を出しながら、甲冑に迫る万福。
そして――。
「43+18-13は!?」
大きく踏みこみ、兜に小槌を降りおろした。
(つづく)
【あとがき】
更新は毎日おこなう予定です。
ちなみに犬山が一番苦手な教科は数学です。




