【92話】星屑の決意 2
万福と稽古の話をしてから3日が経った。
その日、昼食をとろうと慎吾が台所へ向かっていると、万福から電話がかかってきた。
「旦那、掘りだしもんを見つけやしたよ」
「掘りだしもんってなんだよ」
「甲冑ですよ。ほら、霊力を注いだら動くっていう、あれ」
「ああ。あれか」
動く甲冑は魔廻りの稽古のためにつくられた道具で、こちらの命令を聞くのはもちろん、登録した相手の動きまで再現できる優れものである。
「けど、あれ、高いんだろ? 安いのでも200万はするって聞いたぜ」
「えへへ」
「なんだよ、気持ち悪い声だして」
「だから、掘りだしもんなんですよ。あっしの知り合いに骨董屋をやってる大将ってのがいるんですが、さっき、たまたまそいつと会ったんです」
「ふぅん」
「いろいろ話してるうちに捕物の話題になりましてね。あっしも捕物に備えて稽古をはじめてみるつもりだって話したら、いいものがあるって」
「それが動く甲冑ってか?」
「ご名答。かなり古いものらしいですが、兜から貫まで一式そろって値段はなんと20万円」
「20万! すげえ掘りだしもんじゃねえか」
「でしょ? ちっとばかしですが、あっしもカネを出すんで、ふたりで稽古用に買いませんか」
決して安いとはいえないが、必要な買い物であることにちがいはない。
すぐに慎吾は購入を決めた。
「よし、買おう」
「わかりやした。大将にはあっしから連絡しておきます」
「そうしてくれ」
「店はあっしが案内します。昼過ぎにちょいと用事があるんで、4時に指詰大橋で会いましょうや」
それから4時間後。
万福と合流したあと、ふたりで〈買楽多〉という骨董屋をおとずれた。
〈買楽多〉はあの世とこの世の狭間にある骨董屋で、間口はだいたい3間(約5.46メートル)ほど。そこそこ大きな店である。
「おーい。ひろまさー」
入口から万福がさけぶと、
「はいよー」
ガチャガチャと音を立て、店の奥から巨大な徳利頭の鎧武者があらわれた。
「大将は瀬戸大将っていう妖怪なんですよ」
万福が説明した。
瀬戸大将は瀬戸物の破片でできた鎧を着た付喪神である。
「あんたが浅井慎吾だねー。甲冑は庭にいるから案内するよー」
ふたりが案内されたのは店の裏庭。
焚き火で焼き芋をつくっているらしく、甲冑は火の見張り番をしていた。
「いいものでしょー」
「ああ」
そうこたえたものの、
(20万なら、こんなもんだよな)
なんとなく予想はしていたが、甲冑は胴も面頬もキズまみれのオンボロ防具。
兜にいたっては鍬形が両方とも折れているし、近寄ると饐えたような酸っぱいにおいもする。
「あんたを疑ってるわけじゃないんだが、動かしてくれないか?」
「いいともー」
大将が腕を振ると、甲冑がその場で、どじょうすくいの踊りをはじめた。
「おお。本当に動いてる」
「この甲冑には、すごい人が登録されてるんだよー」
「すごい人? まさか宮本武蔵とか?」
「長島シゲル」
「たしかにすごいけど野球選手じゃねえか」
「あと黒沢アキヤ」
「映画監督と戦って、どうすんだよ」
「ほかにも巨人、大鵬、卵焼き」
「そりゃ流行語だ」
「八谷に奥田に山中も――」
「わかった、わかった。強いやつはこっちで登録するから、買わせてくれ」
「まいどありー」
その場で20万円を支払い、甲冑を購入。
さすがに持って帰ることはできないので、大将に透明化の妖術をかけさせ、甲冑を浅井家まで歩かせることにした。
(つづく)
【あとがき】
更新は毎日おこなう予定です。
本文でも紹介したように瀬戸大将は巨大な徳利頭の鎧武者の妖怪(付喪神)で、鳥山石燕の妖怪画集『百器徒然袋』にユニークなすがたで描かれています。




